中国社会の問題は、中国政府、中国国民の議論と対応、司法における解明を通じて改善すべき課題です。問題は、利益を上げるために、よりやすい人件費で生産拠点を海外、中国、インドなどに移転し、安い人件費=安い製造コストでの販売、仕入れ原価を下げて利益を上げる構造から、この不正事件が起きたことです。その意味では、そのようなリスクがあることを知りながら、製造させ自国以外から仕入れ調達を行ったことではないか。そのことが最大の問題ではないかと思います。
企業利益を最大化するために低賃金労働を利用する、開発途上国に生産拠点を移転させ利益を上げる。企業が勝手なのだとの論理は企業モラルの腐敗を意味しています。人間が生まれ、働き、健康に生きるうえでの条件整備はどの人種、国民であっても同じです。自らの利益、生活レベルを最高にするために、他国の国民、労働者の労働条件が最悪であってもかまわないとする思想こそが最大の問題です。なぜ、中国労働者が不正を働くようになったかを考える事こそがわれわれがすべきことではないかと思います。
中国食品の安全 日本企業の責任も重い
<北海道新聞社説>
日本マクドナルドとファミリーマートは、中国・上海の米国系食品会社「上海福喜食品」が品質保証期限の切れた鶏肉を使った疑いがあるとして、同社から仕入れた関連商品の販売を中止した。上海のテレビ局の報道で、上海福喜が期限切れ肉を使用していた問題が明るみに出た。従業員は「期限切れを食べても死ぬことはない」などと話し、上層部の指示で長年の慣行になっていた可能性もある。中国当局は同社の幹部ら5人を刑事拘束した。安全軽視の実態を解明した上で、再発防止に向け、食品業界全体に厳格な衛生管理を指導するべきだ。
厚生労働省によれば、7月までの1年間に上海福喜製の食肉加工品約6千トンが輸入され、流通先は日本マクドナルドとファミリーマートの2社だけだったという。健康被害は出ていないようだが、厚労省は中国政府とも連携し、追跡調査を徹底する必要がある。
2008年に発覚した中国製冷凍ギョーザによる中毒事件を契機に、中国産食品の安全性への懸念が強まった。
その後、日本の食品関連企業は、中国の取引先の工場を定期的に立ち入り検査するなど、品質管理を厳しくしてきたはずだ。ところが、今回は組織ぐるみの不正が常態化していた疑いがあるのに、見抜けなかった。
健康にかかわるだけに、日本企業の責任も重大だ。
多くの企業が、食材や人件費の安さを理由に中国を調達先に選んでいるが、低コストを追求するあまり、安全面に目をつぶることは許されない。チェック体制を再検証し、費用はかかっても、監視要員を現地に常駐させるといった踏み込んだ対策を検討するべきだ。
消費者への情報開示の方法にも改善の余地がある。
食品表示法が来年施行される予定だが、加工食品の原料原産地表示の対象品目拡大や、外食での表示方法などが検討課題として残されている。輸入食品への依存度が高まった現在、消費者が原産地などの正確な情報を求めるのは当然だ。
必要な情報の提供を「消費者の権利」と明記した新法の趣旨を尊重し、所管する消費者庁は表示の充実を図らねばならない。企業にとっては負担になるだろうが、消費者の判断材料を増やす努力を必要なコストとして受け入れる姿勢を求めたい。
<東京新聞社説>期限切れ肉 不信と不安を取り除け
中国の米国系会社「上海福喜食品」が使用期限切れの肉類を加工し供給していた不正は、組織ぐるみ犯罪の可能性が高い。中国は今や世界の「工場」である。自らの手で不信を拭い去ってほしい。
衝撃的な映像であった。不正を暴いた上海テレビの工場潜入取材で、肉類の「期限切れ」を指摘する従業員に対し、別の従業員が「死にはしないよ」と平然と答えていた。人の口に入る食品を扱う者として、モラルの低下というだけでは済まない悪質極まりない態度だ。検査の前には安全基準を満たさない肉類を隠し、検査が済むと再び生産加工ラインに戻していた。
上海市の食品薬品監督管理局は工場長以上の指示による「組織的不正」と認定し、市公安当局は社幹部らを刑事拘束した。
一歩間違えば人の命にかかわる重大な犯罪といえる。事件の全容を解明し、厳しく責任者の刑事責任を追及してほしい。
中国で食の安全を脅かす事件の続発は目を覆うばかりである。
工場の待遇への不満から、製品のギョーザに農薬成分を混入させた男には一月、無期懲役の判決が言い渡された。河北省の企業は有毒物質メラミンを混入させた粉ミルクを製造し、少なくとも五人の乳児の命が奪われた。
腐敗した役人と企業の癒着による安全管理の不徹底が、食の安全をめぐる不正や事件の背景にあると指摘される。
李克強首相は国会にあたる全国人民代表大会の閉幕会見で、食の安全について「生活の質と健康に直結する」と危機感をにじませた。中国政府はこうした癒着の問題に鋭くメスを入れてほしい。
今の中国社会をよく見ると、社会的なモラルの崩壊とすらいえるような状況が気がかりだ。
改革開放政策の負の影響ともいえる行きすぎた“拝金主義”のまん延で、自分さえもうかれば他人はどうでもよいと考えるような、自分中心の冷たい価値観を持つ人が増えているように感じる。
一方、日本の農林水産物の輸入は中国からが米国に次いで多く、二〇一三年は約一兆二千億円にのぼる。この会社から調達していた日本マクドナルド、ファミリーマートは現地工場で安全性をチェックしていたが、その裏をかく会社ぐるみのモラル低下と不正を防ぐ手だては見あたらないのが現状だ。厚生労働省は輸入管理体制の調査を始める。水際でのチェック強化も急務だ。