日本のデフレ問題、EUにおけるデフレ懸念、ECBによる金融緩和策(国債購入による市場への資金供給)は先進工業国、新自由主義を信奉する国家の政治経済運営の閉塞状況を明確に示しています。多国籍企業、大手金融機関などの企業活動を野放しにし、人件費の抑制、租税回避を放置したところでの財政危機問題は深刻な貧富の格差、社会不安の拡大、国内消費の停滞を引き起こし、政治経済を混乱させています。
従来型の経済政策では対応できないことを示しています。特に、EUは政治的な統合が進んでも、財政は各国の政治に規定されているので簡単に改善策が決定、実行できない制約をもっています。その中での財政危機と経済停滞、デフレ問題は深刻な政治経済問題となっています。このままの状況が続けば、EUとしての機能を改変するか、政治経済統合は不可能な状況に追い込まれるのかもしれません。
<北海道新聞社説>ECB量的緩和 構造改革こそ急ぎたい
デフレの瀬戸際に立たされた欧州経済の立て直しに向けて、欧州中央銀行(ECB)が金融政策を大きく転換させることになった。 ユーロ加盟国の国債などを大量に購入することで、市中に出回るお金の量を増やす量的金融緩和策の導入に踏み切ることを決めた。
量的緩和は日銀や米連邦準備制度理事会(FRB)で実施済みだが、ECBでは初の試みとなる。
欧州経済の景気後退は世界経済の深刻な不安定要因だ。それだけに、デフレ阻止の切り札と位置づける量的緩和への期待は大きい。
ただユーロ圏は19カ国の寄り合い所帯であり、それぞれの経済情勢に大きな差があるのが実情だ。このため全体の景気をどこまで底上げできるかどうか見通せない。
市場にあふれ出る緩和マネーが資産バブルなどを引き起こす危うさも気がかりだ。量的緩和の実効性と副作用の両面について、日本も注視をしていく必要がある。
ユーロ圏の消費者物価上昇率は昨年12月、原油価格の下落が進んだ影響も加わりおよそ5年ぶりにマイナスに転落した。
需要も伸びない中で大幅な上昇は当面見込めず、消費や投資の手控えで経済がさらに冷え込む悪循環に陥る懸念が強まっている。
今回の量的緩和で買い入れる国債などは月額600億ユーロ(約8兆円)に上る。中期目標の物価上昇率2%弱の達成に向け、3月から来年9月末まで実施する方針だ。
購入の主体はECBではなくユーロ圏各国の中央銀行が自国の国債などを買い入れ、購入額はECBへの出資割合に応じて決める。
損失が出た場合、各中央銀行が購入分の8割を負担する仕組みにしたのは、量的緩和に難色を示したドイツなどに配慮したものだ。
とはいえ財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)なギリシャなどの国債の購入が少なければ、特に緩和マネーを必要とする南欧諸国に資金が回りにくくなり、物価の押し上げ効果は限定的となる恐れが出てこよう。
欧州の景気低迷の背後にあるのは、伸び悩む企業競争力や高止まりする失業率、銀行の不良債権処理の遅れといった構造的問題だ。
そもそも金融政策の役割は景気が本格回復するまでの「橋渡し」であると言える。肝心なのは産業競争力を高め内需を喚起する実効策であり、そのための構造改革こそ急がねばならない。
日銀に対しても、物価目標の達成が困難な情勢から追加の金融緩和を求める声があるが、実体経済を直視する政策判断が肝要だ。
<東京新聞社説>
欧州中央銀行(ECB)が導入を決めた量的緩和政策はデフレ危機に対応した異例の金融政策だ。すでに実施した日米英とは異なり、十九カ国が加盟する寄り合い所帯のため効果は未知数だろう。
景気低迷と低成長、そして物価下落が続くデフレ危機から欧州は「日本化」が懸念されてきた。そこへ原油大幅安が加わり、ユーロ圏の昨年十二月の消費者物価は前年同月比で0・2%下落、とうとう五年ぶりにマイナスになった。
ECBの政策金利はすでに0・05%で、さらなる引き下げ余地はない。金融機関向けの低利融資などの緩和策は実施済みで、とり得る追加緩和策は国債を買い取って市場に大量のお金を流す「量的緩和」しかなかったのが実情だ。
問題は、自国の国債を買えばよかった日米などとは違い、財政状況も景気もばらばらな国々の集合体なだけに「どの国の国債をどれだけ買うか」「買い取った国債で損失が出た場合、誰がどう負担するか」という点にあった。
結局、三月から各国の国債などを月六百億ユーロ(約八兆円)買い入れ、購入する国債の額はECBへの出資比率に応じて決めることになった。だが、これでは効果は限定的だろう。出資比率が最大のドイツの国債が多く買われる一方で、財政難や景気低迷が著しいギリシャなど南欧諸国の国債購入が少なくなれば、そうした国の金利は低下しないためだ。
国債価格が下がってECBに損失が生じた場合は、損失の二割は全加盟国で対応、八割は国債を発行した国の中央銀行が負うことにした。これも中銀の負担がその国の財政に影響するなら、本末転倒になりかねない。
ECBの狙い通りにユーロ圏の金利が低下し、株高やユーロ安となって景気好転と物価上昇につながれば、日本をはじめ世界経済にとってもプラスになる。
しかし、ECBの決定を前に中国が懸念を表明したように、日米に続く大規模金融緩和はマネーの流れを不安定化させ、新興国経済などに打撃を与えかねないのも事実である。
米国の量的緩和政策の終了、いわゆる出口戦略はようやく昨年十月から慎重を期して進められている。日本では思ったように物価が上昇せず、物価目標の達成時期は先送りされた。政情不安のギリシャという不安材料を抱える欧州も前途は多難で、政策効果や副作用への十分な目配りが求められる。