ウチの周辺ではサクラがほぼ満開に近い。
昔聞いた、史実をもとにしたらしい民話のような物語を思い出した。
昔々… ある国の殿さまが、自分の城から見渡せる山に桜の木を植えることにした。一本や二本ではなく山全体を覆い尽くすような数の桜の木を。
その国随一の名人の男が呼ばれ、山にたくさんの桜を植えていった。山が桜で覆い尽くされ、残すは頂上のみとなった頃、殿さまは遥か遠くの山から大桜をひっこ抜いてきてこの山の頂上に植えかえることを思いついた。その大桜は神木として祭られており、巨木の根っこを傷つけずに運び植えかえることは至難の技でもあるので家臣たちの中には反対するものもいたが、殿さまは反対を押し切って名人の男に命じた。男はこれを一世一代の大仕事と思い、命を賭けて大桜の植えかえを進めた。
大変な苦労の末、無事に大桜の植えかえも終わり、やがて春が来て山に植えられた桜の木々が花をつけ始めた。しかし、頂上の大桜だけは花をつけない。他の桜が満開になっても大桜は黙りこくったように蕾さえ出来なかった。
領民たちの間には、自分勝手に神木を移した祟りだと噂が広まった。面目を潰された殿さまは怒り、名人の男を呼びつけたが、男は心労ですでに息を引き取っていた。しかし殿さまの怒りは治まらず、名人の息子と幼い孫のほか一族郎党を呼びつけ、花をつけない大桜の下での斬首を命じた。女子供は次々に首を刎ねられ、その返り血が大桜の幹を濡らした。名人の息子と幼い孫は切腹を命ぜられた。二人が見事に腹を切り、介錯を受けた時、突然今まで蕾すらつけなかった大桜が枝という枝いっぱいに花を咲かせ始め、あっという間に巨木は花で覆われた。一族郎党を斬首した役人たちは震えあがり、桜の山から転がるように逃げ帰った。
その後、殿さまの家は二代と続かず、間もなく途絶えた。しかし今でも、血染めの大桜は季節になると枝いっぱいに花をつけているという。
一部、記憶があやふやなところもあるけど、だいたいこんな話だったと思う。
名人の息子とその孫が切腹したということは、その家系は士分だったのかもしれない。幹を血で濡らした大桜が花をつける場面はなんとなく夜桜の風景を想像してしまう。夜とも昼とも限定されてなかったとは思うんだけど。綺麗な桜も、こういうシチュエーションで咲くと怖ろしいだろうな。逃げ帰った役人たちの気持ちがよく分かる。
昔聞いた、史実をもとにしたらしい民話のような物語を思い出した。
昔々… ある国の殿さまが、自分の城から見渡せる山に桜の木を植えることにした。一本や二本ではなく山全体を覆い尽くすような数の桜の木を。
その国随一の名人の男が呼ばれ、山にたくさんの桜を植えていった。山が桜で覆い尽くされ、残すは頂上のみとなった頃、殿さまは遥か遠くの山から大桜をひっこ抜いてきてこの山の頂上に植えかえることを思いついた。その大桜は神木として祭られており、巨木の根っこを傷つけずに運び植えかえることは至難の技でもあるので家臣たちの中には反対するものもいたが、殿さまは反対を押し切って名人の男に命じた。男はこれを一世一代の大仕事と思い、命を賭けて大桜の植えかえを進めた。
大変な苦労の末、無事に大桜の植えかえも終わり、やがて春が来て山に植えられた桜の木々が花をつけ始めた。しかし、頂上の大桜だけは花をつけない。他の桜が満開になっても大桜は黙りこくったように蕾さえ出来なかった。
領民たちの間には、自分勝手に神木を移した祟りだと噂が広まった。面目を潰された殿さまは怒り、名人の男を呼びつけたが、男は心労ですでに息を引き取っていた。しかし殿さまの怒りは治まらず、名人の息子と幼い孫のほか一族郎党を呼びつけ、花をつけない大桜の下での斬首を命じた。女子供は次々に首を刎ねられ、その返り血が大桜の幹を濡らした。名人の息子と幼い孫は切腹を命ぜられた。二人が見事に腹を切り、介錯を受けた時、突然今まで蕾すらつけなかった大桜が枝という枝いっぱいに花を咲かせ始め、あっという間に巨木は花で覆われた。一族郎党を斬首した役人たちは震えあがり、桜の山から転がるように逃げ帰った。
その後、殿さまの家は二代と続かず、間もなく途絶えた。しかし今でも、血染めの大桜は季節になると枝いっぱいに花をつけているという。
一部、記憶があやふやなところもあるけど、だいたいこんな話だったと思う。
名人の息子とその孫が切腹したということは、その家系は士分だったのかもしれない。幹を血で濡らした大桜が花をつける場面はなんとなく夜桜の風景を想像してしまう。夜とも昼とも限定されてなかったとは思うんだけど。綺麗な桜も、こういうシチュエーションで咲くと怖ろしいだろうな。逃げ帰った役人たちの気持ちがよく分かる。
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