2007.02.20(火)
【藤沢周平 未刊行初期短編】を語る…

昨年,2006年11月に「文藝春秋」より初刊出版となった作品…購入したこの頃から仕事が忙しくなり,読み終えたのがつい最近になってしまいました…
昭和37年11月から昭和39年8月にかけて雑誌に掲載された「助走時代」の短編「全14」作品が収録されています…
藤沢周平作品ファンとして心躍らせて読み始めましたが,最初の1篇と2篇を読んで,「これが藤沢作品か?」,と目を疑い,続きを読むのに「ためらい」と「不満」をいだかせるような「出だし」でしたが,3・4・5篇と読み進むうちに,「文章構成力の甘さ」が感じられるものの,徐々に藤沢周平らしさがあらわれ,後半の作品では,「円熟期」に勝るとも劣らない巧みある作品に仕上がっていました…(俺って何モン?評論家気取り?)
作品は,14編のうち13編が時代小説で,江戸下町や庄内藩を舞台にした下町の庶民の生活などを描いています…他の1篇は,古代エジプトの朗彫刻師の死をテーマにした珍しい話です…
巻頭の作品「暗闘風の陣」は驚いたことに隠れキリシタンを描いた作品…メジャーになってからはこの題材は取り上げていないが,他に1編キリシタンものがある…意外な作品に思えたが,無名の作家が面白い素材を見つけようと,いろいろ手を尽くしたのだということが分かる作品です…
巻末の「無用の隠密」は,公儀から庄内藩に送り込まれた“草”としての隠密の運命を描いた作品です…後年,この存在を使った小説がいくつかあったと思います…冒頭の越中の薬屋に扮した若い隠密が,庄内浜に入ってくる風景描写は,簡潔にして美しく「さすが」だと思いました…
この作品を書いた時期,藤沢さんは「長女の誕生」と「妻の死」という哀しい出来事が続いたそうです…さらに,郷里から出てきた母との3人の生活を維持するのも大変だったとか…そんな中で執筆だけが心の支えであったのだろうということも想像できます…
「助走時代の作品に触れることが出来るのはわれわれ読者にとって思いがけないプレゼントであった」…本書解説者のキャッチフレーズに同感しました…ちょっと大げさかもしれませんが,今や世を挙げて時代小説「藤沢周平」ブームです…「蝉しぐれ」や公開中の映画「武士の一分」で,ファンが急増しているのは間違いないでしょう…
ぜひ若かりし頃の藤沢周平にも触れてみて下さい…