目覚ましが鳴り響く。
目覚ましが鳴り響く。
何度目かのバイト、羽田空港でピックアップしたのはフィリピンから来たビビアン。
抜群のスタイルに愛くるしい笑顔、控えめな態度の女性でした。
その日ピックアップして「アジア会館」まで届けるのはビビアンひとり。
空港のゲートで初めて彼女を見た時から好印象を持ったヤング朴竜。仄かな下心を悟らないようモノレールや地下鉄内では珍しく無口、いやいや無愛想を通り越して怒ったような表情をしていたように覚えています。
「アジア会館」にチェックしてから部屋ではずっとふたりきり。
朴ちゃん!お手つきはだめよ〜ん!オーナーの言い付けは守らないととても怖いことになります。
シングルベッドふたつのツインの部屋。私はそのひとつで横になってうとうとしていました。どのくらい経ったのでしょうか?
私のベッドに彼女が腰かけて私を見降ろして「ワタシノコトキライカ?」と尋ねてきました。「いいやそうじゃないけど、照れてるんだってば。」と言い返すと彼女は突然私の横に寝そべってきたのです。
そして、胸のペンダントを開けて見せて「ワタシノカゾクヨ。アイタイヨ。」と泣きながら抱きついてきました。あ、嬉しい~!
っていうかなんだこの展開は~
朴ちゃ~ん!
わかってるよね〜?
オーナーの声が聞こえてきます。
いやいや、オーナー!私は人の寂しさや哀しみにつけ込むアンタみたいな男じゃないんだよ。と痩せ我慢をしながら、ただ彼女が落ち着くまで髪を撫でてあげました。
「アナタイイヒトネ」と笑ってくれた時は何故かとても切ない気持ちになりました。
さて、少しだけほんわかした気分になったふたりは私の下手くそな運転で流山市まで行くように命じられました。
目的地に着くまでの車中、ふたりは努めて明るく振舞いました。
歌を歌ったり、笑ったり、日本語には「胃」とか「屁」とかひとつの母音やひとつの子音だけの単語があることを教えてあげたり。
そうこうしているうちに、やっと、いや、もう流山の目的の店に着いてしまいました。
彼女がこれから迎えるたくさんのことをふと思い出して何とかしてあげたくもありましたが、そこはまだまだヤング朴竜、覚悟も金も腕っぷしもまるでありません。
スマホや携帯もない時代ですし。別れたら一生会えません。
その日の朝から半日一緒だったふたり。
でもただお互いに後ろ髪を引かれる思いで別れました。帰り下手くそな運転でひとり帰ります。彼女の残り香に泣きたくなるヤング朴竜でした。