Tokyo Walker

諸事探訪

写真に帰れ

2020年01月26日 15時47分34秒 | 写真論

―伊奈信男写真論集―
伊奈信男/ニコンサロンブックス

 2005年9月15日初版。著者が長年見て来た「写真」というものの変遷を、「芸術」に高めるための努力を、或いは独自性の確保をこの一冊で理解することが出来る。勿論、更に詳しい話もあるであろうが、そのような場合にも、手引きとして充分役に立つものである。写真はここ100年余りのことであるが、以外にその全体的な流れ、歴史的変遷は知られていないように思う。個別の自伝的な、伝記的な話しはたくさんあるのだが、そのつながり、関連が見えてこない。それを明確にするのが本書である。

 夫々の時代にあって、多くの洗礼された写真家が紹介されている。それぞれの考え方や残された作品の評価を試みながら、「写真」というものの価値を追求する著者の立ち位置がとても客観的で好感の持てるものであった。初めて目にする写真家もいて、多少知っていても、知らない側面があったり、とても面白く興味深い話が多々あった。

 写真の迅速性(速写性)、精密性、グラデーション、といった独自性(特質)について、改めて考えるきっかけになったように思う。アマチュアではあっても「写真を撮る人」として、物事をよく見ることの大切さ、社会的人間としての自覚、そして新たに発見すること創造することの重要性を教えられた。

 比較して、自分の写真に対する態度が何ともだらしなく、情けないように感じてしまうのだが、その「芸術性や独自性」を追求するまでも無く、もう少し写真の特質を生かした撮り方、模倣性、偏向性、付和雷同性を排除し、事実に即した真実を伝えることができるような、訴求力のある写真を目指そうと改めて思うのである。そして「自分に忠実に」。

 日本では、このようにまとまった写真論はほとんど見かけない。「写真・昭和五十年史」に並んで本書「写真に帰れ」くらいのものだと言われている。その意味では貴重であり、写真を愛する者にとっては重要な一冊である。だからといって傑作が撮れるという訳ではないが、少なくとも、これによって自分の立ち位置がどこにあり、自分にとって「写真」はどうあるべきなのかが見えてくるように思う。



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