Restore完了したばかりのNikonの「NIKKOR-S Auto 50mm F1.4」を持ち出し、早速に試写してみる。空は曇天、昨日よりは涼しかろうと出てみたが、湿度が高く蒸し暑い。この時期、紫陽花も満開を迎えているかと思いながら、例の公園へ行って見た。
Net上のレンズの蘊蓄によれば、「ハレ切り」をしっかりせよ、ということなので、Filter無しでゴムのフードを付けてみた。金属製のフードもあるが、どうもゴムの方が安心できる。
公園は菖蒲がちょうど満開だった。いつもなら半分枯れた花が付いて、写真が撮り難いのだが、今年は「花殻摘み」もしっかりやっているようで、見苦しい所は少しもなかった。公園管理も大変である。紺のカスリに赤い紐で襷掛けの娘さん達がやっているのだ。
背景の白いモノも「白の菖蒲」である。なにぶん、田んぼの中で咲いているので好きなように近づくことは儘ならない。前の紫菖蒲から、背景の白の菖蒲群まで、或いは更に向こうの木々まで距離があるのだが、ボケ方は比較的自然だ。白の菖蒲群はほぼ丸ボケしているように見える。
2021/05/16撮影のAuto-TAKUMAR 55mmF2では、すぐ後ろの背景はとても綺麗にボケるが、ちょっと距離があると、煩いくらいゴワゴワになる傾向があったが、NIKKOR-S Auto 50mm F1.4は近くの背景も遠くの背景も比較的柔らかく滑らかであるように思う。
さて、ここらで本日の主役に移りたい。既に六月も中半、紫陽花も咲き始めとはいかないが、それでも「花殻摘み」を必要とするほどにはまだ至っていない。遅咲きのつぼみもまだたくさんあった。
先ずは薄紫から行こう。
陽が射しているほどではなかったが、白トビ寸前である。しかし、拡大してみるとキッチリ解像されていることがわかる。開放でもピントが合っている所はかなり鋭い。
種類は異なるようだが、緑の葉、花の薄紫、中の白い花芽(?)のコントラストが素朴でありながら、とても可憐で、清々しい。実に今時の花であるように思う。
このくらいになると、薄紫と言うよりもピンクに近い。
比較的よく見かける代表的な水色の紫陽花。咲いたばかりと見えて、本当に優しい色合いだ。しかし、ピント面のシャープさは失われてはいない。
何色というのだろうか、アイボリーのような乳白色のような薄黄緑のような、派手さを一切排除したような花だ。それともこれから何色かに変化するのだろうか。
白い花の紫陽花もあった。周りの葉の色に対し、余りの白さに白トビしてしまっている。
同じ薄紫でもちょっと濃い目、かなりはっきりした紫。
そうした中でもブルーに近い色もあった。そう、コバルトブルーの薄い色。
紫陽花は素朴で地味な色ばかりと思ってはいけない。中にはこんな色のものもある。
それでも、派手と言うよりあくまでも控えめな色使いである。
背景の玉ボケだが、このレンズの特徴である「球面収差が大きいため背景のボケがリング状になりやすく、また周辺のボケはラグビーボール状に歪む」というのが表れている。
昨年、FUJINONで紫陽花を撮ったとき、比較的色合いがはっきりして、乾いたような感じの発色だったように思ったが、それは紫陽花の花の性質にも関係するのだろう。NIKKOR-S Auto 50mm F1.4にも同様に感じられる面はあるが、それよりも解像度がしっかりしているのに、円やかな感じがするのである。撮影最短距離が、FUJINONが0.45mに対してNIKKORは0.6mである。この辺が起因しているのであろうか。たかだか15cmの違いなのだが、今回のような場合は確かに寄って撮るには厳しい所もあった。またNIKKOR-S Auto 50mm F1.4は、背景に丸ボケが立ちやすい。ちょっと光るだけで、光らなくても明るいだけで丸ボケしてしまう。この辺はレンズの構成によるものだろうか。伝統の5群7枚、304gというゴツいレンズだが、総じてなかなか落ち着いた感じの「標準レンズらしいレンズ」であることは疑いないものである。
ニコンFの看板レンズ。銘板表記はNippon Kogaku Japan、単層コート、絞り羽根は7枚でマウントはネジ無しということで、1966年(55年前)が相当のレンズらしい。初代は1962年(59年前)に発売されている。古さで言えば、さほど変わらないとてもクラシカルなレンズである。
・1962年 NIKKOR-S Auto 50mm F1.4発売
・1964年 PENTAX Super Takumar 50mm F1.4発売
・1965年 CANON FL 50mmF1.4発売
実は新しいレンズも持っているが、銀枠に魅かれてつい手が出てしまった。外観はスレ少なく美品だが、リア・レンズにコーティング劣化と汚れがあり、ちょっと残念。その他はそれなりに美しい。最も問題だったのはグリスの劣化で、ピント環の回転トルクがマダラになり、しかも重いということだった。絞りの羽根はとても綺麗で動作も問題なし。まあ、丹念に清掃すればそれなりに綺麗になるはず、ということで久々にグリス交換、分解清掃に及んだ。
自慢じゃないが、ニコンのレンズは昔使っていたこともあり、比較的新しものも結構持っている。しかし、何故か今まで分解清掃に及んだことは一度もない。他のものは結構分解清掃してきたけれど。
そんな訳で、「分解方法」をネットで探しまくり、参考にして挑戦してみた。ネットの情報は、最後までキッチリ書いてなかったり、肝心の事が書いてなかったり、なかなか扱いが難しい。おまけに何世代にもわたっているために、全く同じものを探すのが大変だ。それでも何とか近いものを探し出して、ジックリ読んで納得してから作業を開始した。
まあ、順当に進んで、リヤ・レンズユニットを外して、6枚目、7枚目のレンズを清掃した。大方の汚れやゴミは取れて、それなりに綺麗にはなったが、コーティング劣化は直しようがない。端の方にあった薄カビは無くなった。
絞り環も分解して清掃した。変わった構造で細目ネジで捻じ込まれており、このような構造は初めて見た。綺麗に清掃したら、動きが軽快になった。さて、ここからグリス交換を始める。
凡そ見当は付いていたので、分解に困ることは無かった。以下はちょっとしたポイント。
特徴として、多くのレンズが銘板(Name Plate)を外すところから始めるが、このレンズはレンズユニットを取り出してから、必要があれば銘板(Name Plate)を外す手順になる。
更に、レンズユニットを取り出すのにマウントを分解する必要も無いということ。マウントにはTTL絞り連動機構があり、鉄球が山ほど入っており、特に必要が無い限り分解するのは遠慮するべきである。
それと、リア・レンズユニットは接着剤(アラルダイト系)でネジロックされているので、レンズユニットを取り出してから、丁寧にこそぎ落とし、エタノールで浸してから外した。
レンズユニットの銅鏡にネジ止めされている板状のストッパーは接着剤(セメダイン系)で張り付いているので、エタノールで浸して平板ストッパーを変形させないように外す必要がある。
被写界深度表示環は非常に薄いもので、とても変形しやすい。環は3か所でネジ止めするが、これで多少変形するようで、(古いので粉々になってしまったが)本来ネジ部の内側にセロファン(油紙?)のようなものを貼って隙間調整してあった。少しでも歪む(変形する)とFocus環の組み込みが難しくなる。被写界深度表示環のネジを一旦完全に緩めて、Focus環を取り付けてから増し締めとした。
今回は、接着剤、ネジロック、隙間調整紙等は使用せずに組み立てを完了した。
レンズユニットを取り出して清掃し、グリスを塗布して組立に入るが、この嵌合組み込みが最も難しかった。ちょっとしたコツが必要で、解ってしまえば何のことはないのだが、解決するまで捻くり回して一日を要した。そのヒントになる図を示すと以下のようになる。
他に細々としたポイントはあるが、これ以外にヘリコイドを嵌め込む手順はないので、参考になると思う。最終的に嵌合が完了した時(無限遠点時)、それぞれ 6.5 → 0.4、9.2 → 2.2 にならなければならない。尚、図の赤の罫書線は、最初から銅鏡に付いていた罫書線であり、実際の色は赤くない。
そんなことで、グリス交換を終えて、元通りに組み立てを完了することが出来た。絞り環のステップは軽快、Focus環もトルクは一定、且つ滑らかに回るようになった。レンズは拭き傷も無く、古い割には綺麗で、レンズとしての機能は充分果たせると思われる。古武士のような不屈のレンズである。かくして、NIKONの初代F1.4は見事に蘇った。
このレンズには無限遠点の微調整ヵ所がどこにも無い。とにかく「嵌合完了の配置」のように組み上げれば完成である。レンズをカメラに付けて無限遠点を確認してみると、何のことはない、キッチリ合致していた。F1.4は流石にピントの山も掴みやすい。