Tokyo Walker

諸事探訪

Auto-TAKUMAR 55mmF2 対 Auto YASHINON 5cmF2

2021年05月24日 12時04分15秒 | カメラ

 外観的には相似の二つのレンズだが、実際どの程度似て、どの程度の違いがあるのだろうか。この頃、ほんの一時期であったが、この絞りプリセット方式は開放でピントを合わせることが出来る最新式の工夫であった。Auto TAKUMAR 55mmF2は1959年頃の製造、Auto YASHINON 5cmF2は1961年の製造である。その差は凡そ2年だが、一歩PENTAXが先んじているように見える。

      左:Auto YASHINON 5cmF2、    右:Auto TAKUMAR 55mmF2  

 レンズの配置(構成)は、TAKUMARが5群6枚(ダブルガウスタイプ)、YASHINONが4群6枚(ガウス対称型)である。どちらも6枚構成だが、TAKUMARは前群に貼り合わせの無い3群3枚で、YASHINONは(貼合わせを使った)2群3枚となっている。これが最終的に焦点距離TAKUMAR 55mmとYASHINON 50mmの違いに表れているのかもしれない。
YASHINONがOEMで優秀なレンズを供給していた「富岡光学製」であることを考えれば、先に50mmを実現していたのは納得できなくもない。

 コーティングはTAKUMARがアンバー系主体のシアン・マゼンタ単層膜コーティングに対して、YASHINONはアンバー系主体、シアン系の単層膜コーティングと言われている。見た目ほとんど差異がない薄い琥珀色が反射しているように見える。この頃は未だ単層膜コーティング全盛の時代であったのだろう。

 重量はTAKUMARが173gでYASHINONが230g。同じようなデザインで、同じ6枚玉、外観相似であるにも関わらず、結構差異がある。この違いは、銅鏡内部の構造の違いにあると思われる。イメージとしてTAKUMARが薄い銅鏡を工夫してレンズ構成しているのに対して、YASHINONは無垢の金属塊を切削してレンズ構成している。小型軽量化、廉価版という意味ではPENTAXが勝っているのかもしれないが、持ち重り、高級な操作感という意味ではYASHINONに分があるように思う。

 ちなみに最短撮影距離は0.55m、フィルター径は46mm、両者全く同じである。

 距離環はTAKUMARが無限起点から反時計回りで最短へ、YASHINONは逆に無限起点から時計回りで最短へフォーカスする。おかしな感じもするが、この時代未だ標準というものが無く、各社好きなように作っていたと思われる。カメラはシャッターを押す都合上、距離環は原則左手で操作する。しかし、無限起点からどちらに回転させるのが人間工学的に適切なのかという問題は未だ解決されていなかった。TAKUMARはその後、YASHINONと同じように無限起点から時計回りで最短へフォーカスするように変更することになるのである。

 絞り環はTAKUMARがF2からF22まで、F11からF2の間は半絞りの中間クリックが切られている。それに比べてYASHINONはF2からF16までで、中間クリックは一切無し。この辺の差異は、写真を撮る道具としての考え方の違いであろうか。「半絞り」をどの程度重視するかに掛る。
また、古いレンズほど、絞りの範囲は広く、且つ細かく調整できるように作られている傾向が伺えるが、F22が必要かどうか、確かに自分でも使ったことは皆無と言っていい。この辺の価値観は難しい。

 絞り環の操作感(クリック感)だが、TAKUMARのそれは平バネをギザギザの山に当てた無骨な感じでガツガツといった重い、いささかストレスを感じるものだ。レンジファインダー・カメラによく使用されていたレンズの絞りクリック構造だと思われる。とても滑らかとは言えない。
YASHINONのクリック感は鉄球とバネを使った軽いコツコツという感じの軽快なステップである。操作感としては、YASHINONの方か明らかに高級感がある作りである。

 絞りの羽根はTAKUMARが10枚で玉ボケが綺麗な円形になることを意識しているのかもしれないが、YASHINONは6枚で、後の一般的な多くのレンズに採用されている枚数となっている。たった2年ではあるけれども時代の流れがこんなところにも影響しているのかも知れない。

 写りは、TAKUMARがコントラストは少し低めだが、ピントの合っている部分はかなりシャープ。色収差がとても少ない、特有の優しい、暖かさを感じる描写、と評されているのに対し、YASHINONはピント面のエッジは太め、しかし画全体の印象は「繊細」に感じる独特な画造り、被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力の素晴らしさは特筆モノと言われている。ケバい不自然な発色はなく、かなり地味。ぼけ味は自然でやわらかい。独特の「富岡光学の赤色」の発色性を維持し、近接撮影のピント面では高い解像力を示すと言われている。これは全く「富岡光学」のそれである。

 確かに2年先行したTAKUMARであったが、先を行く者はとてもリスキーなものであることを実感したことは事実である。こうして見ると、一見相似のレンズだが、写りも構造もかなりの違いがある。しかし、操作感を除いて、この違いを実感できるかどうかというと、厳密に比較しない限りなかなか難しい。常に二本のレンズを持ち歩き、毎度交換して撮り比べるような面倒なことは出来そうもないからである。ただ、その違いを感じながら、写真を撮るのもオールドレンズの楽しみ方の一つではないだろうか。

微かな玉ボケと優しい色合い・・・Auto-TAKUMAR 55mmF2



 


菖蒲

2021年05月16日 09時57分34秒 | カメラ

 前回掲載から約1か月が過ぎた。今日も午後からフラフラといつもの公園へ散歩に出かけてみた。山野草も様子が変わっていることだろう。今日の相棒はPENTAXのAuto-TAKUMAR 55mmF2。そもそも、このレンズを入手する気になったのは絞り羽根10枚というのが1つのポイントだったが、これまた寄れない0.55mの撮影最短距離である。フィルター無し、フード無しで全て手撮りとした。天気は良かったので、レンズの暗さは全く気にならなかった。


 小さな白い花が満開、葉を見ると紫陽花のような感じだが、どうだろう。他の紫陽花の開花はまだ少し先のようで、咲いているものは一つも見掛けなかった。

同じ写真から切り出したものだが、木漏れ日の光源で画像の上の方に玉ボケが出来ていた。色も多様で、絞り羽根10枚の効果とは思わないが、なかなか興味深い。


市では公園内に棚田のようなものを作り、いろいろな菖蒲を育てている。まだちょっと早くて、三種類ほどが咲き始めたばかりだった。これは今回のトリミング無しの会心の一作である。この「レンズ特有の優しい、暖かさを感じる描写」というものが発揮された一枚ではないだろうか。背景の溶けるようなボケ方も実に素晴らしいと思う。(実は撮っている時、このような画像になるとは思ってもみなかったのだが、その辺が撮り手としては情けない)


 続いて紫の菖蒲。葉の部分を見ると極めて優しい色合いなのだが、花は目の覚めるような強烈な紫色である。大きな画面で見ると、その存在感に圧倒される。この紫菖蒲は比較的おなじみのもののように見えるが、専門的には何種類もあるらしい。


 そして最後に黄色の菖蒲。一見菖蒲ではないように見えるが、花はまさしく菖蒲である。



 これは公園から戻る途中で見掛けたもので、花の名前は知らない。石垣からこぼれるように咲き誇っていた。石垣に誰かが植えたとも思えないが、実に旺盛なものだ。

同じ場所で、手前に全く別の花が石垣にしがみつくようにして咲いていた。絞り開放では「水彩画で描いたような、滲んだようにボケる」というが、その片鱗が見えるだろうか。何だか水中に居るような雰囲気である。
Auto-TAKUMAR 55mmF2、なかなかいいね。