興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

過去は変えられない?

2017-02-25 | プチ精神分析学/精神力動学

 私のオフィスに、本当にいろいろな方がお越しになりますが、精神力動的な心理療法をはじめると、その初期にしばしば聞こえてくるのは、「でも過去は変えられないから」、という種類のものです。「過去は変えられないから、話しても意味がないのでは?」「過去のことは忘れて、幸せになりたいんです」「うまく過去を忘れる方法はありませんか?」「過去から解放されたいんです」、というように、話が続きます。

 こういうときに、私が彼らに自信をもってお伝えするのは、

「過去についてきちんと振り返って、過去と向き合って、言語化して、対話を重ねていくなかで、その意味について理解を深めていくんです。過去は変えられないけれど、その過去がどのように生き続けていて、現在のあなたの人生に影響し続けているのか、どのようにその過去が無意識的に今ここの現在で再現されているか、理解を深めるんです」

「無意識を意識化していくことで、その過去の再現に歯止めを掛けることができ、新しいことを選択することが可能になるんです」

「過去について語る目的は、過去を変えるのではなくて、それがあなたにとってどのような(悪い)意味を持っているのか理解して、人生の中にうまく統合して、過去から解放されることです」

「過去を忘れることはできないし、むしろ忘れるべきでもないけれど、過去についてこころの理解して、本当にこころの整理がつくと、思い出すことも少なくなるし、もし思い出しても、それに影響されることもなくなるんです」

というようなことです。もちろんこんな風に一気に長々と語るわけではありませんが、精神力動的、精神分析的なサイコセラピーがどのように機能しているのか、このようにして説明していきます。

これはまた、「精神分析は親の悪口」などというありがちな誤解や偏見を解くものでもあります。精神分析的精神療法において、確かに通常クライアントの両親、主要な養育者について、深い対話のときを持ちます(もたない場合もあります)。このとき、必然的に、親の好ましくなかった言動、クライアントにおいてトラウマになっている有害な言動やできごとなどについての対話になることがあります。

しかし、これは決して犯人探しでもなければ、親を悪者にして非難する作業でもありません

ここで大事なのは、そのクライアントの幼少期の主要な養育者の言動が、そのクライアントにとってどのような意味を持っていて、どのような影響を与えていたのかについて、深く理解することです。

深く理解することで、その親との関係が内在化されて形成された人間関係のテンプレートが、現在のその人の対人関係で無意識的にどのように再現されているか理解することです。このように、無意識を意識化する(make unconscious conscious)ことで、その再現に歯止めを掛けることができるようになり、新しい、より良い関係性を築くことが可能になるのです。

 最初は半信半疑であった人も、その効果はすぐに日常生活に現れてくるので、この効力を体感的に信じられるようになります。これは、PTSDなど、深刻なトラウマによるストレス障害を抱えている人においても、ストレス障害ではないトラウマを抱えていきている人においても言えることです。このように、人々を過去の呪縛から解放することも、力動的精神療法家の仕事のひとつだと、私は思っています。