興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

人を信じるこころの強さ、人を疑うこころの強さ

2024-02-25 | カップル・夫婦・恋愛心理学

 誰かを信じること、とくに、自分のパートナーを信じることは、その人間関係においてとても大切なことです。ただ、ここでいう「信じる」とは、相手を理想化することでもなければ、相手を妄信することでもありません。

 世の中の多くの人は、目の前の相手に善意があり、それなりに一般常識とモラルがあるのだという前提で、生活しています。

 そうでないと、日常生活はとても大変でストレスフルなものになります。

 たとえば、コーヒーショップの店員さんが、きちんとした衛生観念とモラルを持っており、お会計をちょろまかしたりしないという前提もそうですし、車の運転も、ほとんどのドライバーがきちんとしたドライビングスキルとマナーと判断力を持っている、という前提がないと、公道など恐ろしくて走れたものではありません。このご時世、こうしたことは、以前ほど確かではなくなってきているかもしれませんが、それでも、多くの人は、基本スタンスとして、こうした前提のもとで生活をしています。

 この記事を読んでくださっている読者の皆さんの多くにとって、こうしたことは、当たり前すぎてピンとこないかもしれません。今回は、そうではない人たちのために、この記事を書いています。たとえば、こうした前提がないと、昨今の恋活・婚活の主流となっているアプリの使用もとても難しいことになります。素性の分からない人と、マッチングして、メッセージのやり取りをして、実際に会う、というプロセスには、これから会う相手が、少なくともそれなりに善意と一般常識とモラルとソーシャルスキルがあるのだというある程度の前提がないと、なかなかできません。

 とはいっても、素性の分からない人がこうしたものを持ち合わせているのだと妄信するのはもちろん違います。実際、こうした前提で会ったけれど、とんでもない人だった、というお話はとてもよく聞きます。逆に、自己評価や自己肯定感が低かったりして、そのマッチングを諦められなかったり、断ることの気まずさや、その時の相手の反応が怖かったりして、相手のまずいサインを見て見ぬふりをしてしまう人は、良くない関係に入ってしまい、そこからなかなか抜け出せなくなったりします。

 普段とても猜疑心が強く、周りの人たちを疑ってばかりいる人が、世の中の多くの人がまず引っかからないような詐欺に遭って大金を失ってしまうケースはしばしばありますが、なんともバランスが良くありません。

 

 パートナーシップにおいて、相手を信じることは基本姿勢として大事です。

 ただ、時として、相手を疑うことも、勇気であり、その人のこころの強さを表すものだったりします。

 疑問に思ったことを言葉にして相手に伝えることで、相手が不機嫌になったり怒ったりするかもしれませんし、その関係が一時的に気まずくなるかもしれません。それでも伝えることで、もし相手が誠意のある健全なこころの持ち主の方だったら、あなたに誤解を与えてしまう行為を自分が取っていたのだと自覚して、きちんと説明してくれて、その後の言動に気を付けるようになるかもしれません。

 また、疑問に思ったことを言葉にしていかないと、相手の方は、そういうことをしてもあなたは大丈夫なのだと思ってしまうかもしれません。

 疑問に思ったことを伝えても、相手が真摯に向き合ってくれる、という信頼があるから、伝えることができる、ということもあります。さらに、もし相手が自分を裏切るような事を実際にしていた場合、相手としっかり向き合い、相当な精神的苦痛を伴う話し合いをしたり、場合によってはその関係を終わらせる心の強さがあります。

 

 ひとは、他者を信じるためには、ある程度の自信が必要です。

 自信とは文字通り、自分を信じることで、たとえば、人間関係の中で自分が感じた感覚、自分の受け止め方、自分の気持ち、自分の直感、感想などを、どれだけ自分で信じてあげられるか、ということです。また、自信のある人は、もし信じた相手が間違ったことをしてきた時に、うまく対応できるという自信があります。自信のある人ほど、他者を信じる強さも持っているのは、こうしたことによるからかもしれません。