この仕事をしていると、ご自身の長所や強みに気づいていなかったり、それをうまく理解できていないかったり、さらには、それが短所であると思い違ってしまっている方にしばしばお会いします。
最近本当によく考えるのは、人はそれぞれ、その人独自の強みや得意なものを持っているけれど、それについて自分でも意識していなかったり、気づいていないことが、いかに多いかということです。それには様々な理由がありますが、そのひとつに、その特技がその人にとってとても個人的なものであったり、あまり人に認識される機会がないものであったり、それゆえに、自分でも、それは誰にでもできることであると自動的に思っていて気づかなかったり、ということが考えられます。そうしたものが、ちょっとしたきっかけから、特技と認識できるようになることもまた少なからずあり、それはそれで、とても幸運なことだと思うのです。
よく、「自分にはなんの取り柄もないから」などと仰られる方がおられますが、そういう方とじっくりと対話を重ねていると、ないどころか、随分たくさんの強みを持ち合わせているということも多いです。それで思うのは、ひとはあえて自分の能力開発に時間やお金や労力をつぎ込まなくても、実は既にその人独自の能力を持ち合わせている、というケースが多々あるということです。これは以前私がここで触れた、「ひとは自分探しの旅に出なくてもいい。なぜなら、旅に出るまでもなく、『自分』は既にあなたの中にちゃんといるからだ。あなたがすべきことは、あなたが人生のなかで身に着けた様々な『偽りの自己』の皮を、玉ねぎの皮のように剥いでいって、そのずっと奥に確かにいる、本当の自分を『再発見』することだ」という概念と通じるものがあります。
こうして考えてみると、確かに、自分の強みを認識することと、本当の自分を「再発見」することには、関連性があります。いずれも心理カウンセリングのなかで起きやすいことですが、無自覚であった自分の強みを認識する、というプロセスは、忘却の彼方にあった、本当の自分を再発見する、というプロセスの一部だからです。
どうして自分の強みを認識することが大事であるか、それには幾つかの理由があります。
まず、一つ目は、自分の強みを強みとして認識することは、自己肯定感や自己評価の向上にも直結することだからです。というのも、その人が、ずっと存在している自分の強みを強みとして認識できないのは、その人のそれまでの人生経験からの影響が大きいからです。これまでの人生を丁寧に振り返り、「人生の棚卸し」をして、心の整理をしていく過程の中で、こうしたその人の強みが浮き彫りになっていくことは、よくあることです。つまりは、自分の強みを認識する、ということが、自己受容と繋がっているのです。
もうひとつは、自分の強みを強みとしてきちんと認識できることで、その人のその後の人生の可能性が大なり小なり広がっていくからです。強みをきちんと認識できれば、その強みをうまく使いこなせて行けるようになりますし、これまでとは別のところで、これまでとは異なった使い方もできるようになります。そうするなかで、思いがけない方向に人生が開けていき、それまでの人生ではなかったような自己実現に到達する、という事例も少なくありません。