興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

本当であること

2024-10-20 | プチ精神分析学/精神力動学

 先日、SNSで、"We were born to be real, not to be perfect."という言葉に出会いました。

 私たち人間は、完璧であるために生まれてきたのではなく、本当であるために生まれてきた、という事ですが、このシンプルな言葉の含むところはとても大きいと思います。

 ここでいうRealとは、いろいろな解釈が考えられますが、私としては、authentic であること、つまり、取り繕ったり、偽ったり、背伸びしたり、無理をしたり、本来の自分とは異なったものを周りに見せて、理想の自分を他者に印象付けようとするのではなく、本当の自分、本来の自分、自然体の自分である、ということだと思います。ちなみに、露悪的、偽悪的、自分の最低なところを出すことが本当であると思っている人が時々いますが、それは違います。

 それにしても、背伸びしたり無理したりカッコつけたりしないで、素の自分、本当の自分でいることが、難しい時代であるように思います。

 ルッキズムとかエイジズムとかエイブリズムとかエリーティズムとか、きらびやかで見栄えが良く贅沢でポジティブなものだったり、仕事も私生活も充実していたり、完璧にこなしていたり、こういう価値観や世界観が良いものであるとされて、SNSでは多くの人が自分の人生のハイライトを切り取って提示しているに過ぎないのに、そうでないように開示することがみんなどんどん得意になっていって、互いが騙されてミスリードされて、無駄に優越感や劣等感や羨望や疎外感を感じたり感じさせたり、社会がどんどんおかしな方向に進んでいってしまっている気がします。

 完璧でありたいとか、完璧でなきゃとか、ケチを付けられないようにという心性は、その人を疲れさせますし、不安や抑うつとも結びつきやすいです。さらには、親友とかカップルとか夫婦といった、本来一番親密であるはずの関係性においても、素の自分や本来の自分を見せることが怖かったり恥ずかしかったり不安だったりして出来ないことが続くと、ふたりの間にはだんだん障壁ができて、親密さは失われ、不幸せになってしまいます。

 開示したら嫌われるかもしれない、拒絶されるかもしれない、軽蔑されるかもしれない、思われたくないように思われるかもしれない、そういう傷つきやすくて柔らかい本当の思いや気持ちをあえて見せ合って受け入れ合うことで、絆ができて、親密になっていくのが、人間の性質です。スキのない、完璧な人というイメージは、カッコいいかもしれませんが、自己疎外的で孤独かもしれません。

 さらに怖いのは、そういうことを長いこと続けていく中で、その人本人が、本当の自分がどうであったか分からなくなってしまうことです。

 大切な人と、なんだかうまく繋がれていないと感じた時、まずは、自分自身との繋がりを取り戻すことが大切です。自分自身とうまく繋がれたら、あなたの大切な人とも自ずとうまく繋がれるようになっていきます。