こんにちは。今回は、優さんから、統合失調症を持つ家族とどのように付き合っていったらよいのかという質問を頂きました。統合失調症はご存知のように、非常に深刻な精神疾患であり、そのご家族とうまく付き合っていくにはいろいろな面での配慮が必要です。とはいっても、家族が腫れ物に接するようでいては、彼らはとても敏感なので、そういう空気を察知して、それがまたストレスになり、よくありません。そういうわけで、あなたがあなたで居続けながら接していくことが大切ですが、そのなかで、何が大切で、また、どこに気をつけたらよいのか、書いてみたいと思います。以下が優さんからの質問文の引用です。
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どんな言葉がいいのか (優)
アラサー:主婦です。
いろんな記事を読ませてもらい、子供の頃の環境などがいろんな原因であることが多いと感じました。
私には弟がいるのですが、先日、祖母の家の改装を親戚と一緒に手伝っていたとき、同年代のいとこと比べて、自分は気が利かないと母に話したそうです。
いろんなことに自信をもてなくなっている気がして・・・
弟にイキイキと楽しみながら過ごしてもらうにはどんな声をかけたらいでしょうか?
記事の中の「執着とコンプレックス」の文中の後半「・・・・出来ないものを回避し続けたら~・・・」から最後までを伝えてみようかと思ったのですが、子供の頃よく喧嘩していたし、何か嫌な思いをさせた原因がもし私にあったらと思うと何をどうすることが一番良いことなのか分かりません。
・弟は数年前に住み込みで働いていてある日、体調など様子がおかしくなり仕事を辞め、病院に行くと統合失調症と診断されました。
弟が幸せに生きるために私にできることはどんなことがあるでしょうか?
アドバイス頂けたら幸いです。
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統合失調症は、現在でもまだまだ社会的偏見の強いこころの病で、また、幻聴、幻覚、思考障害などを伴うとても深刻な心の病であるため、その診断を受けた人が、非常に大きなショックを受けるということは少なからずあり、実際、その診断を受けた、ということ自体が当人にとって大きなこころのダメージ、ストレスとなることもしばしばあります。
幸い、彼にはあなたのように弟想いで優しいお姉さんがいます。これは当然とても大切なことです。実際、逆の話ですが、統合失調症で入院していた人が症状がよくなって退院してきたときに、家族の心無い言葉やネガティブな感情の表出(専門的に、感情表出、Expressed Emotion,EEと呼ばれます)に晒されることで、症状が再発したり、悪化したりする可能性が高くなることは臨床研究においてよく知られています。反対に、EEが低い家族の間では、高EEの家族と比べて、病気の再発率が低いことも知られています。(EEの問題は、統合失調症に限らず、いろいろな精神疾患においていえることで、たとえば摂食障害が良くなって退院してきた女の子が親のEEによって再発を経験したりします)。
ただ、EEは、とくに冷たくて無神経な家族の間で起きる、というわけではなくて、先ほども述べましたが、その当人とどうやって接していいか分からずにギクシャクしたり、腫れ物に触るように行動したり、また、当人が家族に暴力を振るうようでは、やはり家族のEEはどうしても強くなりがちで、つまり、いろいろな要素があるわけです。
よって、家族がその当人の病気の性質について、メンタルヘルスの自助本(最寄の大き目の本屋さんに行かれると、統合失調症の患者さんの家族のための本などあると思います。もし見つからないようでしたら、統合失調症について一般に書かれた本でも構いません)などによって理解を深めておくことは大切です。たとえば、病気の理解があれば、全く知らない場合と比べて、家族はより自然体でいられるし、余計な緊張感が避けられるため、当人も過ごしやすくなります。
ところで、心理学者の間でも良く知られていることですが、統合失調症の患者において、何が一番治療的かといえば、その患者との良い人間関係です。というのは、彼らは我々の想像も付かないような強い孤独感を経験していることが多々あるからです。誰からも理解されないような思考、幻覚、幻聴などを経験し、人から避けられ、社会から孤立したりと、彼らにとって(我々人間すべてにいえることですが)良い人間関係の力は計り知れません。これは、治療現場外にも当然いえることで、理解と思いやりのある家族との良い人間関係は、その人にとって、掛け替えのないもので、安定を与えるものです。
質問文から察するに、弟さんは、相当に自信を失っています。もしかしたら、発病前から、低い自己評価、自尊心の問題に悩んでいたのかもしれませんが、いずれにしても、今、彼が低い自己評価で悩んでいるのは確かなようです。ここで家族が気をつけなければならないのは、励ますつもりで掛けた言葉、アドバイスが、却ってプレッシャーになったり、傷つけてしまうことを避けることです。たとえば、アドバイスをする代わりに、彼の言うことをじっくりと聞いてあげて、適当に彼の言葉を繰り返したり、要約したりしながら、あなたが彼の悩みを理解していることを伝えていくことなど、有効です(傾聴技法についても、本屋さんにいくと、実にいろいろな人が「聞く技術」として本を書いているので、気になったものを手にとってお読みになるといいと思います。心理学、自己啓発などのコーナーで見つけられると思います)。
それから、あなたに良く見えている、彼の長所、強みなどを、彼に伝えていって、長所に焦点をおいて、その長所をいかに生かしていくかという方向で彼をサポートしていくのもよいと思います。彼が今何に興味を持っていて、何をしたいのかについて聞き出してみるのもいいと思います。彼がそうした方向にフォーカスして、少しずつ行動していくなかで、自信を取り戻していくのを助けてあげましょう。これといって、何が良い言葉で、何が良くないのか、ということではなくて、大切なのは、あなたの姿勢と良い意図だと思います。
最後にまとめますが、1)統合失調症について勉強して、理解を深めて余裕を持つことで、緊張感を減らし、無意識的な家族間のEEを減らす、2)どうしたら弟さんと「よい人間関係」を築いて保てるかについて考えて行動する、3)彼の悩みに対して、アドバイスをする変わりに、傾聴し、彼の気持ち、悩みをよく理解している、ということを伝えていく(これが良い人間関係に直結しますね)、4)(3とは逆に、今度は)彼の長所、興味、関心にフォーカスして、それらを言葉にして彼を励まして、彼がそうしたものに向けた建設的な行動を取ることをサポートしてあげる (これも良い人間関係に繋がりますね)、5)こうした環境のなかで、彼が自信をつけて、イキイキと楽しみながら過ごせるようになっていく、ということです。気軽に、いろいろと試してみてください。応援しています。
私もこれでやっと迷いなく行動することができると思うと
本当に嬉しくて涙が出そうになりました。
教えて頂いたとおり、弟の声をしっかり聞き、理解していることを伝え、長所に目を向けたいと思います。
きっとこれは統合失調症の人に対してに限らず、誰でもそうしてもらえたら嬉しいし、人間関係もよくなるんだろうな、と思うと旦那に対しても反省するところが思い浮かびました。頑張ります。
実家の両親や兄弟姉妹にもさっそく伝えさせてもらいます。
本当にありがとうございました。
お役に立てて何よりです。
いろいろと大変だと思います。これらのことを試していく中でも、なかなかスムーズにいかなかったり、いろいろな試行錯誤があると思います。しかし、そのなかで、彼と向き合い続けて行動する中で、あなたの良い意図は伝わりますし、お互いにとって心地よい、調和のある関係性が出来てくると思います。そして、本文でも触れたように、そうした支持的、サポーティブな家族関係、人間関係は、彼らにとって本当に大きな支えとなります。
そうですね、仰せのように、これは誰に対してもいえることですね。いろいろと気軽に試していくのがいいですね。
正に、この解決は、間主観性の構築にあるのではないでしょうか?
統合失調症は、遺伝的要素があり、脳の機能的な生物学的な問題でもあり、妄想、幻聴、幻覚など、どうしても投薬療法が必要な領域でもあり、仰せのように、彼らと治療者が精神療法で間主観性を構築できると良いのですが、彼らの精神体験はひとりひとりのそれが非常にユニークで不可解であり、そのため彼らはそれを他者と共有することが非常に難しく孤独感を経験するわけです。