興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

Psychotherapy(サイコセラピー)と心理カウンセリングの違いについて

2014-01-21 | プチ臨床心理学

 Psychotherapy(サイコセラピー、心理療法)と心理カウンセリング(Psychological counseling)の違いについて、などというタイトルで書き始めましたが、これらの言葉は厳密には異なるものの、臨床心理学の本場アメリカでもしばしば互換的に使われています。私自身もしばしば互換的に使います。また、心理職に従事する人の中にも、これらの違いが判らずに、「同じことでしょ」と片付けてしまう人が少なくないですが、こういう人は、心理カウンセリングの基本技術はあってもサイコセラピーの能力はない場合があります。もちろん、これらの違いは説明できなくても、知らずのうちにサイコサラピー的なことをしている実力のある心理カウンセラーもいます。

 さて、Psychotherapyという言葉ですが、これは、Psyche(心、心理、精神)+Therapy(治療,療法)、つまり「こころの治療」です。心理カウンセリング、Psychological counselingは、熟練した聞く技術、という基本姿勢はサイコセラピーと共通しているものの、必ずしもこの「治療」機能を含んでいません。この良い例は、Grief CounselingとGrief Therapyの違いで、両者とも、だれか大切な人をなくして心を痛めている人を対象に行われるものですが、前者は、その喪失体験に精神疾患が伴わない、いわゆるNon-complicated bereavement(複雑化していない死別体験)の人にとっても有効なものですが、深刻な鬱や、不適応などを起こしているComplicated bereavement(複雑化した死別体験)を経験している人に対しては、十分ではありません。この場合は、治療的要素を含んだ、Grief Therapyが適切です(もっとも、Grief Counselorは、Grief therapyとGrief counselingの両方を指している場合が多く、これはあくまで厳密な話です)。

 さて、心理カウンセリングには、その基本的な前提として、「人はだれでも自分の中に答えを持ってるけれど、なんらかの理由でその答えにアクセスすることができない。答えはもともと持っているわけだから、心理カウンセラーの仕事は、彼らがその内なる答えにアクセスできるように、クライアントが自分で答えを見つけられるように助けることだ」、というものがあります。これはサイコセラピー、精神療法の、根本的な基礎でもあります。これは強調してしすぎることがない大切な基本姿勢ですが、しかしここで問題になってくるのは、「すべてのひとが、熟練した聞く技術と受容だけで十分ではない」、ということです。この限界点を知っていることは心理職の人間にとって本当に大切なことですが、残念ながら、「聞くことがすべてだ、何があってもアドバイスしてはいけないし、クライアントの質問に直接答えてはいけない」と信じているカウンセラーはたくさんいます。

 皆さんの中にも、「何かとても困っていることがあって、カウンセリングに行ったら、ただ話を聞いてもらうだけで、何のアドバイスもガイダンスもなく、質問をしても、質問をし返されたり、あなたが言ったことを少し違った言い回しで繰り返されるだけで、なんだか腑に落ちなかった」、とか、「一生懸命、親身に聞いてくれるのは嬉しかったし、受け入れてもらっている、という体験は良かったけれど、自分には良い友達(家族、配偶者、上司、先輩、など)がいて、同じ内容の話を彼らにも話しているし、彼らも親身になって聞いてくれる。何が違うのかわからない」、と感じてカウンセリングをやめてしまった方はいるのではないでしょうか。

 もちろん、こうした体験は、あなたの話をろくに聞かずに、アドバイス、励ましの言葉をゴリ押ししてきたり、やたらとカウンセラー自身の体験を話したり、不適切な自己開示を連発してきたり、カウンセラーの個人的な意見や価値観をおしつけてきた、説教してきた、批判された、怒られた、などという例と比べれば、遥かにましで(実際こういうカウンセラーも少なからずいます)、カウンセラーに被害を受けた、というわけではないですが、かといって、「十分に効果のある」時間ではなかったわけで、何かが足りなかった、ということになります。

 サイコセラピストの行うサイコセラピーは、ただただとことんあなたのお話を聞く、というだけではありませんし、かと言って、セラピストが延々と話したり、アドバイスをしてきたり、励ましたり、意見を言ったり、というようなことでもありません。あなたの大切なお話をじっくりと時間をかけてとことん聞く、というのは心理カウンセリング同様、サイコセラピーでもメインになりますが、セラピストは同時に、良い治療関係ができてきて、あなたについての理解が深まってきたら、あなたがまだ意識できていない気持ちや心の葛藤、無意識の防衛機制、隠された考えなどについての解釈(Interpretation)をあなたにわかる形で伝えたりして、洞察を促進したり、無意識に行われている有害な思考パターン、問題行動などについて、あなたが受け入れられる形で教えたりします。本当にあなたにとって治療的であれば、アドバイスをすることもありますし、自己開示をすることもありますし、Psychoeducation(心理的教育)という短いレクチャーのようなことをしたりもします。たとえば、深刻な鬱を経験している方には、鬱を続ける思考パターンや問題行動がありますが、それについて伝えて、その人の鬱の性質や、その人の人格に対する理解を深めることが非常に効果的であることはよく知られています。また、人間関係がうまくいかずに悩んでいる人は、治療関係が深まってくると、まず決まってその関係性が私との人間関係の中にもでてくるので、それを私がきちんとつかんで、あなたにわかる形で少しずつ伝えていくことも大切です。これについても、後ほど別の記事で書きたいと思います。

 とはいえ、繰り返すようだけれど、サイコセラピーの話の中心はあなたであり、通常、1セッションのなかで7~8割型はあなたが話す時間です。このように長々と文章を書いている私ですが、実際にあなたが私のセッションにやってきたら、あなたに話す時間がたっぷりあることに驚かれるかもしれません。

 とはいっても、50分はあっという間に過ぎるもので、また、あなたが安心して、快適に、こころを開いてお話できるようにするのも私の仕事なので、もしあなたが無口な性質であったり、普段から話をするのが億劫だったりしても、セッション中に気まずい無言の時間が流れる、というようなことはまずありません。それから、口数が治療効果と比例する、というわけでもなく、静かだけれどもとてもパワフルで有意義なセッションもよくあります。

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