砂漠の音楽

本と音楽について淡々と思いをぶつけるブログ。

空気公団「融」

2017-06-02 13:35:03 | 日本の音楽



まずちょっとした心理テストをやってみましょう。
日曜日の午後、あなたはこれから部屋の掃除をするところです。久しぶりの掃除です、今日こそは徹底的にやりましょう。散らかっているものを整理し、余計なものは断捨離をします。すべては諸行無常です。人生は何もしないでいるには長すぎるし、何かをなすにはあまりにも短いのです。仕事が暇すぎて発狂して虎になりそう。
話を戻します。ずっと無音で掃除をするのもさみしいもの。気分を盛り上げるために、あなたはなにか音楽をかけることにします。とりあえず手元にあったCDのジャンルは以下の5種類でした。

①ロック   ウォー!!俺はごみを捨てるぜイェーイ!!とエネルギッシュに掃除を
②ポップ   人生は素晴らしい!お掃除最高!と明るい気持ちで作業したい
③ジャズ   ま、のんびり掃除するかねえ、と落ち着いた気持ちで掃除をしたい
④クラシック エレガントで知的な気分で作業を進めたい
⑤デスメタル みんな死ね!世界は破滅する!ごみを捨てろ!!!

さて、あなたならばどれをかけますか?ひとつ選んでください。
選びましたか?本当にそれでいいんですね?

…では、気になる結果は記事の最後に!


本題に入ろう。前回の記事で「各アーティストにつき1枚取り上げる」と宣言したことをさっそく後悔している。今日はどちらの1枚にするか、非常に悩んだのだ。2001年にリリースされた『融』も、そして2003年にリリースされた『こども』も、どちらもとてもいい作品だし、それぞれ書きたいことがたくさんあった。だから1枚に絞るのは、私にとってかなり悩ましい選択だった。まあどちらに絞ったかっていうと冒頭の画像で早くもネタバレしているのだけれど。

今日は空気公団について話していく。1997年結成された当時は、男性1人女性3人のバンドだった。何枚かアルバムをリリースしたあと2004年に一度活動休止し、メンバーの入れ替わりを経て2005年に活動を再開。現在はベース、キーボード、ヴォーカルの3人で活動している。ほとんどの作詞作曲は、優しい歌声とファンキーな髪型で知られる山崎ゆかり(Vo)が担当している。
彼らは不思議なバンドだ。何が不思議かっていうとあんまり売れてないだろうに精力的に活動しているのも不思議だし(コンスタントに、一定のクオリティの作品を出し続けている)、バンドの持つ雰囲気も不思議なのだ。ライブをやっていて観客がここまで眠くなるアーティストはそんなにいないと思う(誉め言葉)。それぐらい演奏が心地よいのである。ともかく、バンドの名前が表している通り(なのかどうかわからないけれど)、空気のように自然にすっと身体に馴染んでいく、そんな雰囲気を漂わせているバンドだ。

彼らのなかでは、比較的初期の作品にあたる『融』と『こども』、私はこの2枚が傑作だと思っている。もちろん最近の曲も悪くないのだけれど、以前に比べると「がんばって売れることを放棄している」ように感じられるというか。いい意味で肩の力が抜けているというか、自分たちのやりたいようにやって、ある程度売れればいいやくらいの気持ちなのかもしれない。あくまで私の想像に過ぎないので、メンバーが実際にどう考えているのかはわからないが(まさか「売れたくない!絶対に売れたくない!!」とは思っていないだろうし)。

あれこれ悩んだ末、彼らの作品では『融』を取り上げることにした。曲単位で考えるならば「白のフワフワ」「音階小夜曲」「電信」と、『こども』は佳作揃いである。また『夜はそのまなざしに~』も透明感あふれる、彼らのセンスが光るがいい作品だった。だけれども、アルバム全体の雰囲気や曲の並び、まとまりを考えると、やはり『融』の完成度は抜群に高いと思う。
本作は元カーネーションの誰か(名前を失念した)がプロデューサーとして参加しているが、その力が大きいのかもしれない。それにこのアルバムを出したのは、彼らがトイズファクトリー(ゆずやMr.Childrenが在籍していたレーベル)に所属していたときだから、きっと予算も潤沢にあったのだろう。そのためかミックスもよい、それぞれの音が非常にクリアなのだ(特にドラム)。世の中金だな!!金で解決だ!!

それはさておき内容の方へ。M1の「手紙」はさりげなく始まるものの、途中で盛り上がる部分が良い。続く「夕暮れ電車に飛び乗れ」と「動物園のにわか雨」と最初の聴かせどころが来る、ここの流れがとてもきれいだ。そのあとも曲の合間に挟まれているメンバーの笑い声、演奏のうしろで微かになり続けているパーカッション、何気ない小曲「田中さん日曜日ダンス」などがそれぞれいい味を出している。アップテンポの曲「動物園のにわか雨」や「線の上」もいいけれど、決してものすごく盛り上がる曲ではないのに、こういった小さい工夫により、個々の曲の良さがぐっと引き立つようになっているのだ。そういうこともあってか、この作品はとてもメリハリがあるように感じられる。何気なく聞き流せるアルバムでもあるのだけれど、じっくり聴くと小さい発見がたくさんあって楽しい。目に優しい「ウォーリーを探せ」みたいなものなのだ、細部まで丁寧に作りこ込まれているけれども、計算づくというよりかはあくまで自然体だ。だから聴いていて心地よいのだろう。

そしてタイトルの『融』とは、いったいどういう意味なんだろうか?なんかもっと売れそうなタイトルは思いつかなかったんだろうか?『空気公団のしびれ』とか『空気公団のめまい』みたいな、いやさすがにそれは冗談だけど。
空気公団は初期から現在にかけて、一貫して「ぼくときみ」のこと、日常のことを歌う曲が多い。『融』という文字に、日常に「融けていくような」「それくらい自然な音楽をやりたい」という意味があるのかもしれないし、本作のなかには「遠く遠くトーク」というダジャレめいた曲があるように、『融』は「you」、つまり日々のなかの「きみとのこと」を歌っているとも考えられる。いずれにしてもユニークなタイトルだと思う。


決して派手ではないのだけれども、じわじわと良さがにじみ出てくる。スルメのようなバンドである。そんなにたくさん入れていたつもりはなかったのだが、数えてみたら音楽プレーヤーにCDが14枚分入っていた、えっそんなにCD出していたの!と驚いてしまった(地味なバンドだから気づかなかった笑)。キリンジ、キング・クリムゾンと同率2位であった(ちなみに1位は小沢健二で19枚入っていた)。今年でちょうど20周年を迎える彼らだが、このままのペースで活動を続けてもらいたいけれど、なんならもうちょっと売れて欲しい。眠くなるけどライブにも行きたい。


追記:と思っていたら、9月にクラムボンと2マンという知らせが飛び込んできた。なんというタイミングだ。しかもサポートでザ・なつやすみバンドの中川理沙もピアノとコーラスで参加するとのこと。これは行くしかない!!



~お待たせしました、心理テストの結果発表~

①ロックを選んだあなた
きっとあなたは素直な方ですね。そういった素直さ、実直さががあなたの魅力でもあります、大事にしていってください。ただ、もしかしたらちょっと単純な面があるかもしれません。撫でると健康になる壺とか、つないでいると勝手にお金が入ってくるケーブルを買いたくなってしまうことがあるのではないでしょうか。世の中は時に悪意が満ちている場所であることを、忘れないように気をつけましょう。


②ポップを選んだあなた
おそらく世の中の大半の人は、こういう選択をすると思います。嵐でもアン・サリーでもジャック・ジョンソンでも、掃除のときには明るい音楽をかけたくなりますよね。わかります、きっとあなたは気立てがよく、人当たりのよい人なのでしょう。大半のお友達もあなたのことが好きだと思いますよ、人生って素晴らしいですよね。幸せに生きてください。そして余裕があれば空気公団も聞いてみてください。


③ジャズを選んだあなた。
あのねえ、日曜日の昼にジャズなんて聴くもんじゃないですよ。ジャズっていったらお酒飲みながら夜に流すものでしょう。服や言動だけでなく、音楽にもTPOってあると思うんですよね。というわけで、あなたはちょっと格好をつけたいお年頃なのかもしれません、あるいは自分のこだわりに執着している部分があるのではないでしょうか。自分ひとりで楽しむ分にはいいですけど「いやぁ、ここのドミナントのコードが…」なんて他の人に語り始めたら面倒なおじさんになりかけています、気をつけましょう。


④クラシックを選んだあなた
うん、クラシックいいですよね。掃除中にかけるおすすめはバッハかショパンです。特にバッハはずっと聞いていると無機質な気持ちになれるので「リョウカイ、ゴミヲステマス」と機械的に作業をしたいあなたにはもってこいです。ただそういうあなたのことを、お友達がどう見ているかはわかりません。そういったあなたのことを好きな人もいれば、たぶんちょっと引いている人もいるかもしれません。たまには最近の音楽も聞いてみましょうね。


⑤デスメタルを選んだあなた
あなたはきっと掃除とかにかかわらず、通勤や結婚式、葬儀などありとあらゆる場面でもデスメタルを流しがちです(葬儀はいいと思いますが)。もちろん個性は尊重されるべきです、しかしあなたは少し我が強い、あるいは自分のこだわりが強い面があるかもしれません。人は分かり合えない生き物ですが、あなたはやや自分の殻に引きこもりがちな傾向があるのではないでしょうか。デスメタルを流されながら捨てられるごみの身にもなってあげましょう。辛すぎます。