大千軒岳は北海道渡島半島の南西端に突き出た松前半島の中心部にあります。
利尻山や知床連山と同様、北海道の山に共通したアプローチの長い、近づき難い山の一つです。
数多くの山に登ってきた私も、定年退職後に時間の束縛から逃れたこの歳になって、初めて訪ねることができました。
8月1日、北海道の桜100選の一つ、松前公園を背にした道の駅「北前船松前」の駐車場で朝を迎えました。
昨晩は、隣の岐阜ナンバーの方と、日本海に沈む夕陽を見ながら酒を酌み交わしました。
私よりご年配のようですが、数年前に奥様を脳梗塞で亡くされ、今は車に寝泊まりしながら、一人全国を訪ね歩いているそうです。
5日前に青森の大間から函館に入り、北海道を一周し、さっき松前に辿り着いたそうです。
殆ど車を降りずに、只々はしるだけの、景色を眺める旅だとか。
夜明け前の駐車場はまだ、街路灯が灯っていました。
国道を行き交う車もなく、街はまだ深い眠りの中に佇んでいました。
いつものように、コンビニで買い求めたパンとジュースで朝食を済まし、静かにエンジンを起動し、国道に走り出ました。
目的地は大千軒岳の新道登山口です。
昨晩のうちに確認してあったので、松前から4㎞ほど東へ進み、道道607号線に入り、及部川(およべがわ)に沿って北へはしりました。
昨夕は下見を兼ねて、国道が及部川に掛かる朝日橋まで来たのですが、期待していた「大千軒岳登山口」の標識が見当たりません。
そこで、近くのお店屋さんに入って、「大千軒岳への登山口はこの辺りでしょうか?」と尋ねると、親切にも、店の奥から下の様なルート図を探し出してくれたのです。
昨晩岐阜ナンバーの方と酌み交わしたお酒は、このお店で購わせて頂きました。
松前町上川の集落を抜けるとすぐに、車の周囲から人家がなくなりました。
暫く走ると「大千軒岳登山口」の看板が見えてきました。
一安心です。
登山口までは20㎞と記されていました。
多分、林道並みの道ですから、あと小一時間はかかるだろうと予測しました。
途中までは簡易舗装された道が続きましたが、
それも束の間、道は砂利道に変わり、背丈よりも高く茂る雑草の中へ進んでゆきます。
誰が見ても絶対、周囲はヒグマの巣に違いありません。
その先も、一定の間隔で現れる標示板が無ければ、道を迷ったと思い込むだろうデコボコ道が続いていました。
しかし、小さな峠を登りきった後、目の前にピークを見ながら、道は下り始めました。
麓から登頂口へ向かう道が、下り始めるなんて、普通であれば考えられません。
でも、車はナビに表示された一本道のルート上にあります。
目的地は入力していませんが、道を間違えてはいないようです。
そんなとき、ブナ保護林の標示を目にしました。
ブナは温帯を代表する樹種ですが、北海道では渡島半島だけに分布するようです。
そして、旧登山口を素通りし、
道道607号線に入って50分後、車はやっと、大千軒岳 新道登山口に到着しました。
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