若き三船敏郎の美貌に驚嘆する。
黒澤映画には
「顔」インパクトの俳優が多々出演する。
志村喬の個性的な容貌も一度見たら忘れられない。
強烈な+極と+極が激しくぶつかりあう「酔いどれ天使」。
この映画から黒澤映画に三船敏郎はかかせない
俳優となった。
肺を病んだヤクザと、
変わり者の「酔いどれ」医者との物語。
風紀が乱れた戦後の町にはヤクザがはびこり
通りの脇には
ガスがたえずぶくぶく出続ける汚れた水溜りがあった。
その泥の中であがいているような松永。(三船)
絶望した松永が雑踏を歩くバックに
陽気な「カッコー・ワルツ」が流れるシーンがある。
「野良犬」と同じくまたもや音楽の魔術がここにも。
軽やかなメロディが哀しみをより際立たせるのだ!
なんと残酷な演出だろう。
夜になると街角から聞こえてくるギターの調べは
もの哀しく洒落ているし、
ナイトクラブで笠置シズ子が歌う
名曲「ジャングル・ブギ」は黒澤明が作詞!
音楽がこんなに魅力的に使われている映画はなかなか無い。
薄情な情婦役の木暮美千代、清らかな花のような久我美子。
女優の使い方もばっちり。
いつもは、「腹にいちもつ」とか、「蓮っ葉で実がない」とか、
「ぐうたらだらだら」とかの役が多い千石規子が
情を見せてくれてほっとした。
終盤に近づくにつれ
三船がだんだんとやつれ、
逞しい体もペラペラになり、さながら
「吸血鬼ノスフェラトゥ」のように変貌していく。
それは大げさだとしても、
海辺の幻想の場面は
ドイツ表現主義の映画を思い起こさせた。
ラストの格闘の場面圧巻。
志村喬の深い表現力もすごいが
三船の静と動のコントラスト、
衝撃ともいえる存在感に圧倒される。
私は「酔いどれ天使」は
眞田(志村)ではなく
松浦(三船)なのだと思っている。
1948年 黒澤明監督作品 脚本:植草圭之助 黒澤明 撮影: 伊藤武夫
音楽:早坂文雄 美術: 松山崇
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