邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「女の園」

2005年08月30日 | ★人生色々な映画
京都にある正倫女子大学では
徹底した良妻賢母型教育の元で教育を行い
学生たちは厳しい規則に縛られていた。

たまりかねて
学校側に要求を出した学生の大半は
重い処分を受けてしまう・・・

面白かった。

二大高峰激突も注目だが
この映画はなにが凄いといって
上品な姿かたちの登場人物たちが
真正面から
ずばずばものを言い合い

びりびりとした緊張感が保たれたまま
最後まで
激しい戦いが繰り広げられることである。

高峰秀子を見ていると
神経が繊細でマイナス思考のひとの
心がむしばまれていく段階がよく理解できて
こちらまで頭をかきむしりたくなる。

高峰秀子、久我美子、岸恵子、山本和子の
美女ぞろいの学生、厳しい寮母五条(高峰三枝子)
の丁寧な言葉の中に含まれた猛毒!

高峰三枝子は犬神家の一族で汚れ役をやったが
はるか前にすでにこんな悪役をやっていたのだった!
絶世の美女だからこそ、より一層凄みが出る。

「あきこさま、
あなたはアカですか?」
な~んていう、言葉の袈裟斬り、真剣白刃取りの戦い。

久我美子が大財閥の令嬢役で切れ味がよく爽快。
山本和子との対決(写真)は
野田聖子と佐藤ゆかりの比ではない激しさ。

そんな中、悲劇が起こる。
学生たちの怒りは爆発。
理不尽な規則を掲げる学校に対して立ち上がるのだった。

高峰秀子の恋人役で田村高広。
この映画が初映画出演だったそうです。
すごい女性たちの中で
ほっとするやさしい役柄。

なにしろ全員気性が激しいんです!

「二十四の瞳」や「喜びも悲しみも幾年月」で
日本中を泣かせたことで有名な木下監督が
こんなに意地悪だったとは驚いた。

木下忠司作曲の壮麗な合唱が悲劇を際立たせる。

1954年 木下恵介監督作品 脚本 木下恵介 音楽 木下忠司

出演  高峰秀子 久我美子 高峰三枝子 岸恵子 東山千栄子
田村高広 田浦正巳 浪花千栄子 望月優子

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阪妻の「破れ太鼓」

2005年08月27日 | ★人生色々な映画
親父が阪東妻三郎で息子が森雅之という贅沢。

これが進藤英太郎主演の
人気テレビドラマ「おやじ太鼓」につながる、
噂の映画だったのか。

暴君親父に従順に従う妻と子供たちが、
反旗を翻すというコメディタッチの映画。

木下監督の映画って洒落ている。
そのユーモアは上等のお菓子のように繊細な味わいだ。

白亜の豪邸に帰るや
オーダーのスーツを脱ぎ捨て、
駱駝のももしきに腹巻姿でライスカレーを食べ、説教!
会社でもまた説教!
いつでも破れ太鼓のように怒り散らす。

息子の田村高広さんが
「普段の親父にそっくりだ。なんで監督は知っているんだ?」と言ったとか。

脚本は木下恵介と小林正樹

六人の子供たちはみな個性があるが
特に、森雅之はぴかぴかのポマード頭で
父親に頭が上がらない長男役をコミカルに演じていて可笑しい。

用件をなかなか言い出せず
豪快にビールを一気飲みする阪妻を前にして
小学生の坊ちゃんのように恐れおののく。
さびしそうにオルゴールを開くシーンがなんともいじらしく可愛い。

阪妻VS森雅之これすごいです。

次男役にはなんと、
「水戸黄門」「喜びも哀しみも幾年月」などの作曲家、
木下忠司が扮し、
ピアノを弾き「破れ太鼓」のテーマを歌って
そこらの俳優さんとは毛色の異なる味を出している。

終盤、孤独な父をなぐさめる言葉を木下監督は彼に言わせている。

「家族といえども人間はみんなひとりひとりなんですよ。
でもやっぱり家族なんですよ。
なんとなくお互いを好きなんですよ・・
お父さんもボクのことなんとなく好きでしょう」

なんか泣かせます。

東山千栄子と滝沢修がパリ仕込の芸術家夫婦に扮していてヘン。
その息子には宇野重吉なのだが
星空の下でスキップする
やら、大声で叫ぶやらこちらもへン。

全体に誇張した表現で、舞台劇のような味わいもある。

おとなしい妻、村瀬幸子が爆発するところ(大爆笑)
今の世の奥さんたちが見ても溜飲が下がるに違いない。
お父さんたちは羨望か同情か。

こんな家族今どき古いというも良し。
だけど今こそ見たい映画。
何度も何度も見たくなってしまう品のある映画。

1949年 木下恵介監督作品 脚本 小林正樹 木下恵介 音楽 木下忠司

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「飢餓海峡」

2005年08月26日 | ★人生色々な映画

台風の夜に「飢餓海峡」再見。

社会の底辺からのし上がった男が
過去を隠し通すために
同じく善人を殺めてしまう。
野村芳太郎監督『砂の器』の主人公もそうだったように。

弓坂刑事が握り締めていたのは
消し去ったはずの犬飼の過去だったのか。

いつもはコミカルな伴淳がここではシリアスな顔を

見せている。

嵐の場面はやはりスリリングで迫力満点だ。



三國連太郎の存在感は

ハリウッド男優を凌駕する勢いなことは言うまでもないが

杉戸八重役の
左幸子の存在も大きい。

イタコの真似をする鬼気迫るシーン、
風呂での父娘の会話、
堅気になるはずが結局「慣れた」商売に身を置いてしまう哀れさ・・
ぬくもりのある津軽弁もいい。

圧巻!「爪」を持ってのひとり芝居は
左幸子以外考えられない素晴らしさだ。

そして犬飼との対面は前半のクライマックスシーンだ。

ビデオは一部二部と分かれていて
セットするのももどかしく
がちゃがちゃと焦りながら後半突入!

思い焦がれた男に会えて狂喜する八重(左)と、

犬飼(三國)の錯乱の対比が素晴らしい。

後半は、事件を追う
刑事たちの詰め、
犬飼との対決に固唾を呑む。

八重の描写に比べ
極貧だったという犬飼の暮らしぶりや悔恨、苦悩などは一切描かずに、
見るものに想像させるところがうまい。

お涙頂戴ぽい甘さは微塵も無いが
何気ないシーン・・弓坂警部補の家族や
売春宿の夫婦の会話に温かみがある。

あっと驚くラストで
犬飼の目に一瞬光が宿ったのを見た。

一見無表情に見える顔からは
様々な感情が読み取れる。

そんなことも出来る三國連太郎の濃い顔!
人間の罪とは罰とは良心とはなんだろうか。

堂々3時間、ものともしない
チャーシュートッピング醤油豚骨ラーメン大盛り完食の満足感!?


内田吐夢監督作品 原作 水上勉 脚本 鈴木尚也 音楽 富田勲

出演 三國連太郎 左幸子、伴淳三郎、高倉健 沢村貞子、加藤嘉など

 

名俳優 三國連太郎さんのご冥福をお祈りいたします *2013年 4月15日 

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明治の女たち「にごりえ」

2005年08月25日 | ★人生色々な映画

樋口一葉原作の
季節にそった三作のオムニバス。

明治という時代に生きる女を描く。

DNAに組み込まれた明治の血沸き立つ!
俳優豪華絢爛の傑作。

第一話「十三夜」:秋

中秋の名月の晩、老夫婦の家に
大店に嫁いだ娘(丹阿弥谷津子)が里帰りしてくる。

喜んで迎えた娘の口からは意外な言葉が・・
父親と娘の言葉の中から時代の道徳観や
家制度の重みが如実に現れてくる。

この話にはもうひとつのストーリーが含まれている・・

水木洋子と井手俊郎の脚色による台詞が美しすぎる。
この頃は身分、
職業によっても使われる言葉が違っていたようだ。

お月様が照らす中で繰り広げられる一夜のエピソード。
女性のこの後の人生を想像してしまう幕切れだ。

第二話「おおつごもり」:冬

大晦日、富裕な家の台所では
薄い木綿の着物に素足で、
心優しい下働きの娘(久我美子)が水汲みをしていた。
貧しい親戚(中村伸郎・荒木道子)からの
金の工面を引き受けてしまうのだが・・・・・

金持ちは金持ち。
貧乏人はいつまでたっても貧乏人・・なんでしょうか。
貧富の差がむごいほどに強調されている。

放蕩息子役の仲谷昇の台詞は遊び人風?
武士でも町人でもない言葉で面白い。
お嬢様役に岸田今日子。

正月前、

おおみそかの日の気ぜわしさ、掃き清められた家の清浄な
空気、色、(白黒だけど)が匂い立つようだ。

そして雪・・・

サスペンスタッチのカメラワークといい

目が離せない展開。最後の終わり方もあっさりしていていい。


第三話「にごりえ」:夏

水商売の女(淡島千景)に入れ込んで身を持ち崩す男に、
黒澤作品や、「張込み」でもお馴染み
名優宮口精二が扮している。

一汁一菜の貧乏所帯では、
恨みがましい目をした女房(杉村春子)が責めたてる。
古女房の愚痴はこのうえなくしつこくて、
これでは
宮口精二でなくとも浮気したくなるかもしれませんわ。

酌婦たちの狂態、化粧を取り去った顔をグロテスクに撮る
容赦の無い今井監督の視線にたじろぐ。

泥水をすするような境遇におかれた女の絶望、
あきらめが心を打ちます。

息がつまるような閉塞感が漂う中、
真夏の昼下がりに事件が!

淡島千景が凄絶な美しさ。

今井監督の虐げられた人々の描き方って
徹底してますね。

文学座総出演。
流麗な台詞をものにしきっているのはさすが。

明治の匂いがたちこめている傑作!!

独立プロ名画特選 文芸編
監督 今井正 原作: 樋口一葉 脚色:水木洋子 井手俊郎 
撮影: 中尾駿一郎 美術:平川透徹 音楽: 團伊玖磨

出演: 久我美子 淡島千景 杉村春子 荒木道子 
芥川比呂志 中村伸郎など

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雷蔵の「婦系図」

2005年08月24日 | ★愛!の映画
明治ものを二本続けてみた。

「婦系図」と「にごりえ」

どちらも傑作でした。

湯島ときたら「白梅」!
「別れろ切れろは芸者のときに言う言葉」

いつのまにか刷り込まれている「婦系図」の台詞。
原作は泉鏡花です。市川雷蔵、万里昌代主演。

将来を嘱望された学者の卵と芸者の恋。

義理やしがらみに縛られながらも
一本骨が通っている男女の生き様が
現代の日本人の在りようとあまりにかけ離れていて驚く。

はっきりとした身分制度の上になりたった社会構造にも。

お蔦(万里昌代)と小芳(木暮美千代)が、
芸者の我が身を恨んで泣くシーンには
思わずもらい泣きしてしまう。
どうも最近涙腺がどうにかなってしまっているようで。

夏も終わりだなあ。

「お蔦、別れてくれ!」の名場面、
薄もやがかかったような湯島天神のセットが美しい。
白梅はこぼれるように咲いていた。

意地を貫き通す生き方は
主税(市川雷蔵)とお蔦の美学だったのだ。

「短い間に日本も
日本人も変わったものだ」としみじみするには
まだ早いか。

明治女に扮した万里昌代が気丈で美しいが
可憐な三条魔子も泣かせてくれた。

べらんめえ・船越英二も粋な役どころ。

音楽は豪壮な作風で知られる伊福部昭だけど
物語を情感あふれるメロディーで包んでおり、意外だった。

衣笠貞之介監督、山本富士子主演版も見たい。

監督 三隅研次  脚本  依田義賢 音楽 伊福部昭 美術 内藤昭

「にごりえ」についてはまた後で書きます。

■様々な愛のかたち:他の「愛!」の記事はこちら

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