ヒトに噛みつくイルカ
福井県の海水浴場で人に噛みつくイルカが出現するというニュースが話題になった。延べで50人くらいの被害があったという。
このイルカについて、朝日新聞デジタルに『傷ついた背ビレ イルカが人に噛みつくまで』という、乗京真知さんによるルポルタージュが、11月29日まで7回にわたって連載されていた。丹念な取材によって、このイルカがなぜ人に噛みつくようになったのかが解き明かされている。
野生との付き合い方を考える上で、非常に教訓的である。
件のイルカはミナミバンドウイルカで、背ビレについている傷跡によって個体判別ができる。
このイルカは2020年に能登半島沿岸で最初に目撃されている。2歳くらいで親からはぐれたらしく、海中での狩りの仕方を知らなかったらしい。
廃棄物の中から餌をあさっているのが目撃されている。また、沿岸の定置網の中に入り込んで魚を追い回しているのを筆者は観察している。その時同乗していた漁船員が「定置網の中はイルカにとってビュッフェです。」といったそうである。
このように、このイルカは人のそばで暮らすことに利益を見出し、人から見ればそれは人懐っこいかわいい動物と映ったことになる。
イルカに近づいてハグし、餌付けをし、観光資源として利用し、伝説上の神の使いとして「スズちゃん」と呼ぶこともあった。
異変が起きたのが2013年、福井の海水浴場で泳いでいた一人がイルカに突進されて肋骨を折るという事件が起きた。
筆者はその年のこととして、うるさく付きまとわれた漁師がナイフでイルカを刺したという話を聞く。また、尾びれにスクリューによる傷跡があるのが観察された。
人はおのれに危害を加える敵対物と、イルカはみなすようになったのではないか。
福井の海水浴場では、イルカの嫌う音を流して追い払おうとしたが、効果がなかった。イルカにしてみれば、自分の縄張りに人が侵入してくることになる。
筆者は今回の事件は、イルカと人の近づきすぎた関係の中で、人の問題行動が引き起こした「人災」であると断じ、記事の最後に次のように述べている。
「かわいさのあまりエサをやり、背びれをなで、抱きついた人たちが、たくさんいた。私も目の前にイルカが現れたら、つい触っていたかもしれない。
ただ、そうした悪気のない個人の行いが、百回、千回と重なって、イルカの性格をゆがめ、行動をエスカレートさせたのだとしたら、こんなに悲しいことはない。
イルカによるかみつきは、起きるべくして起きた「人災」と言っていい。
我々は、幼いイルカをペット化した代償を、当分払い続けることになるだろう。
イルカが人にかみつくようになったのは、人がイルカにかまい過ぎたからだということを、しっかりと記憶にとどめたい。
もう二度と、不幸なイルカの物語を生まないように。」
菊爛漫
STOP WAR!