「どしょ~。ボール、隣の家に入っちゃった~。」
私の実家の隣には、
大きな塀の続く大きな家があった。
その日、玄関の前でゴムボールで玉つきして遊んでいたのだけれど、
ボールは塀を飛び越えて、隣のお宅に入ってしまった。
「んしょ。んしょ。
うわぁ、広いお庭~。
えと。ボールは~。あった!」
「だぁれ?」
お屋敷の離れだったので、
誰もいない…なんて思ってた私は、
びくんと飛び上がる思いだった。
そろそろと振り返ると、
着物姿のとてもキレイなお姉さんが、お布団から、
起き上がって、私を見ている。
「わ、わ、わたし。」
私は勝手に入ってしまったから、怒られると思い、
びくついた拍子にボールを落としてしまった。
ぽーん。
ぽーん。ぽん。
ころころころ。
「脅かしちゃって、ごめんなさいね。
ボール取りに来たの?」
お姉さんはまるで鈴の音を転がしたような声で、
微笑みながら、話しかけてくる。
「う、うん。」
「あらあら、ボールが…。げほげほげほっ。」
ボールを取るために立ち上がろうとしたお姉さんは、咳き込んでしまった。
「お姉さん大丈夫?」
思わず駆け寄る私。
「ごほっ。ごほっ。大丈夫よ。ごめんなさいね。」
「お姉さん、どこか悪いの?」
若い女性が離れで、1人布団に寝ているのだから、
今ならすぐに何かあるのだとわかるだろうに、当時の私は、幼くそれ故、素直だった。
「えぇ、ちょっと胸にね…。
あっ。大丈夫よ。
伝染るモノではないから。」
お姉さんは、胸元をそっと押さえつつ、悲し気に微笑んだ。
「お姉さん、寂しそう…。ぴなこ遊びに来ても良い?」
「ぴなこちゃん?」
「うんっ。おおしまぴなこ!5歳!来年は小学校に行くの♪」
「クスクス。ぴなこちゃんね。」
「違う~。ぴなこ~!
太陽の日に、菜っ葉の菜、子どもの子。で、ぴなこなの~。」
「そっかぁ。お母さんが付けてくれたの?」
「うん。ぴなこ、お母さん大好き!
会いたいよぅ。ぽろっ。
うわぁぁぁん。」
「わわっ。ご、ごめんなさいね。」
「えぐっ。えぐっ。
ぴなこのお母さん、お星さまになって、お空にいるの。
いつでも、見ててくれるから、寂しいないんだもん。
ごしっ。」
「そっかぁ。ぴなこちゃんは、良い子ね。」
『日菜子~。お~い。どこだーい。』
『日菜子ちゃ~ん』
「あっ。お父さんと義母さんが呼んでる。
お姉さん、また来るね。」
「えぇ。待ってるわ。」
あの頃は、
新しいお義母さんに馴染めず、
反抗心からか、隣のお姉さんのところに入り浸るようになった…。
あれは、そう。
秋も深まり、少しずつ冬の気配がしてきた頃だったと思う。
「ぴなこちゃんに、お姉さんの秘密。
見せてあげようか?」
「秘密?良いの?」
「えぇ、ほら。見て。」
お姉さんの左胸。
そこには、白くゴツゴツしていて
所々、血のにじんだような赤い…
薔薇のような大輪の華が咲き誇っていた。
「とても綺麗。
私も欲しいなぁ。」
そう言いながら、手を伸ばし、
触れようとしたその時、
パシッ。
「日菜子ちゃん、ダメよ。
そんなこと願っちゃダメ!」
私は、いきなり叩かれたショックと
お姉さんの怒りに驚いた。
「お姉さんなんか、キライ!」
それから、
お姉さんのところに行かなくなっちゃったんだっけ…。
その年の冬の寒い日に、
隣のお家でお葬式があって…
幼い子供だったとはいえ、お姉さんにひどいことをいったまま、謝る機会を永遠に失なってしまったのだったわ…。
―
ぴちゃん。
ぴちゃん。。
…はっ。
私は、お風呂に浸かったまま、
うたた寝していた。
「どうして子供の頃の夢を…?」
ブルッ。
お湯がぬるくなってしまっていたので、熱いシャワーを浴び、
バスタオルを巻いて、浴室を後にした。
洗面鏡の前に立った時、
「ぴなこちゃん…」
お姉さんの声が聞こえた気がした。
ふと気になって、
お姉さんの薔薇のあった位置と同じ左胸の外側に、そっと触れてみた…。
そこには、ちょうど植物の種のような固さがあった…。
私の実家の隣には、
大きな塀の続く大きな家があった。
その日、玄関の前でゴムボールで玉つきして遊んでいたのだけれど、
ボールは塀を飛び越えて、隣のお宅に入ってしまった。
「んしょ。んしょ。
うわぁ、広いお庭~。
えと。ボールは~。あった!」
「だぁれ?」
お屋敷の離れだったので、
誰もいない…なんて思ってた私は、
びくんと飛び上がる思いだった。
そろそろと振り返ると、
着物姿のとてもキレイなお姉さんが、お布団から、
起き上がって、私を見ている。
「わ、わ、わたし。」
私は勝手に入ってしまったから、怒られると思い、
びくついた拍子にボールを落としてしまった。
ぽーん。
ぽーん。ぽん。
ころころころ。
「脅かしちゃって、ごめんなさいね。
ボール取りに来たの?」
お姉さんはまるで鈴の音を転がしたような声で、
微笑みながら、話しかけてくる。
「う、うん。」
「あらあら、ボールが…。げほげほげほっ。」
ボールを取るために立ち上がろうとしたお姉さんは、咳き込んでしまった。
「お姉さん大丈夫?」
思わず駆け寄る私。
「ごほっ。ごほっ。大丈夫よ。ごめんなさいね。」
「お姉さん、どこか悪いの?」
若い女性が離れで、1人布団に寝ているのだから、
今ならすぐに何かあるのだとわかるだろうに、当時の私は、幼くそれ故、素直だった。
「えぇ、ちょっと胸にね…。
あっ。大丈夫よ。
伝染るモノではないから。」
お姉さんは、胸元をそっと押さえつつ、悲し気に微笑んだ。
「お姉さん、寂しそう…。ぴなこ遊びに来ても良い?」
「ぴなこちゃん?」
「うんっ。おおしまぴなこ!5歳!来年は小学校に行くの♪」
「クスクス。ぴなこちゃんね。」
「違う~。ぴなこ~!
太陽の日に、菜っ葉の菜、子どもの子。で、ぴなこなの~。」
「そっかぁ。お母さんが付けてくれたの?」
「うん。ぴなこ、お母さん大好き!
会いたいよぅ。ぽろっ。
うわぁぁぁん。」
「わわっ。ご、ごめんなさいね。」
「えぐっ。えぐっ。
ぴなこのお母さん、お星さまになって、お空にいるの。
いつでも、見ててくれるから、寂しいないんだもん。
ごしっ。」
「そっかぁ。ぴなこちゃんは、良い子ね。」
『日菜子~。お~い。どこだーい。』
『日菜子ちゃ~ん』
「あっ。お父さんと義母さんが呼んでる。
お姉さん、また来るね。」
「えぇ。待ってるわ。」
あの頃は、
新しいお義母さんに馴染めず、
反抗心からか、隣のお姉さんのところに入り浸るようになった…。
あれは、そう。
秋も深まり、少しずつ冬の気配がしてきた頃だったと思う。
「ぴなこちゃんに、お姉さんの秘密。
見せてあげようか?」
「秘密?良いの?」
「えぇ、ほら。見て。」
お姉さんの左胸。
そこには、白くゴツゴツしていて
所々、血のにじんだような赤い…
薔薇のような大輪の華が咲き誇っていた。
「とても綺麗。
私も欲しいなぁ。」
そう言いながら、手を伸ばし、
触れようとしたその時、
パシッ。
「日菜子ちゃん、ダメよ。
そんなこと願っちゃダメ!」
私は、いきなり叩かれたショックと
お姉さんの怒りに驚いた。
「お姉さんなんか、キライ!」
それから、
お姉さんのところに行かなくなっちゃったんだっけ…。
その年の冬の寒い日に、
隣のお家でお葬式があって…
幼い子供だったとはいえ、お姉さんにひどいことをいったまま、謝る機会を永遠に失なってしまったのだったわ…。
―
ぴちゃん。
ぴちゃん。。
…はっ。
私は、お風呂に浸かったまま、
うたた寝していた。
「どうして子供の頃の夢を…?」
ブルッ。
お湯がぬるくなってしまっていたので、熱いシャワーを浴び、
バスタオルを巻いて、浴室を後にした。
洗面鏡の前に立った時、
「ぴなこちゃん…」
お姉さんの声が聞こえた気がした。
ふと気になって、
お姉さんの薔薇のあった位置と同じ左胸の外側に、そっと触れてみた…。
そこには、ちょうど植物の種のような固さがあった…。