睡蓮の千夜一夜

馬はモンゴルの誇り、
馬は草原の風の生まれ変わり。
坂口安吾の言葉「生きよ・堕ちよ」を拝す。

親父part6

2010-12-19 09:29:18 | 逝ける人々

2000/09/08

這えば立て、立てば歩めの親心
赤ちゃんになった父も...歩め。

明日がある
陽は沈みまた昇り
瞼が明かない朝はないはずだ

屋根の上
ヴァイオリンを弾く夢を...
夢みむ。


2000/09/09

名鉄が自宅に介護ベッドを配達してくれた。
梱包を解く日はくるのだろうか。

意識あり、
手が小刻みに震えてた

うんうんと頷く
密度の濃い視線。


2000/09/10 

ちりちりと
皮下に死にゆく黒みみず

大根の
茎かじりたや青く立ち

あふれても
地団駄ふんでも無力


2000/09/17

   ♪兄んさは満州へ行っただよ
 鉄砲が涙で光っただ
 もずよ寒くも泣くでねえ
 兄んさはもっと寒いだぞ

母は父の手をさすりながら唄ってた。
調子っぱずれでハナがつまってる。

さする手も、さすられる手も、
流れに渦巻く枯れ木のようだ。


2000/09/18

蜜柑色の涙みたいな月が
ぽわんと空に浮かんでた。

夏が過ぎて、秋がきて、
秋真っ只中の、お彼岸に
いったいどこへ行こうとしてるのだ。

逃げ水みたいに針をさけるくだ
くずくずともろく、
いたるところ破れみち、
もう挿すところがない。


2000/09/19

赤子が母の乳房を離さぬように
ぎゅっと握った手を離さない
近くの気配を察することもできなくなって
その眼は、五感は、生きているのだろうか

いいや、
手だけがびくびくと生きている
魂がうめいてる

馬車よ、ゆっくり走れ・・・。


2000/09/20 

骸骨の上をよそおうて花見かな
(上島鬼貫)

眼窩はこれほど窪むのか
頬骨はこんなに高いのか

顎骨は細く、
こめかみはぺちゃんこだ

鶴のような首すじが鎖骨に埋もれ
盛り上がったアバラからストンと薄い腹
こんこんと眠る。


2000/09/21

あぁぁ、うぅぅ
目尻に涙をためた
誇り高き赤ちゃん。




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