隈(くま)なく晴れた月今宵・・・
父は酔うたびに朗々と軍歌を唄う。
戦地で敗戦の報を聞いた父がどうやって帰ってきたのか、
南の島からか、それとも南の島の生き残りが敗戦の色濃い
満州に送られたのか。
どこで敗戦を迎え、いつ、命からがら日本に帰ってきたのか。
いくら聞いても、
しつこく聞いても、
口を開くことはなかった。
父は一度だけ、
墓場まで持っていかにゃ...とぽつんと言ったことがある。
ぼくはそれを聞いて諦めたが、いまに悔いは残っている。
戦地から引き揚げた父が着の身着のまま実家にたどり着けば、
仏壇には戦死広報と一緒に自分の写真が飾られていた。
実家の稼業は弟が継ぎ、嫁は弟の妻になっていた。
やり場のない思いを胸に家を出た父は天涯孤独の身になり、
混乱の焼け跡をさまよった。
父の死後に母から聞かされて、ぼくは息を呑む思いがした。
同時に、血縁のない父とぼくとの修羅の日が思いだされた。
戦争は生きるか死ぬかの瀬戸際で人を殺し、
生き延びた長き人生に重い荷を背負わせた。
父は死ぬ3日前くらいにうわごとで名前を呼んでいた。
ぼくの知らない名前だった。
母は静かに父の戦友が迎えにきているとつぶやいた。
母はなにかも分かっていた。
父の最後が今日明日であることを、
何も分からないぼくたちだけがおろおろしていた。
父の納棺のとき、
母は風呂敷にくるんだ小さな包みを父の胸元に置いた。
父は間伐材を貰ってきてはコツコツと何かを刻んでいた。
「何彫ってんの?」
「これは位牌と仏様、これがないと成仏できなかんべ」
「これは位牌と仏様、これがないと成仏できなかんべ」
ああ、あれか...。
戦友の位牌と一緒に天に昇ればさみしくないよな。
ぼくが知っている父の戦争体験はこれしかない。
黙して語らずを貫いて泉下に旅立った。
遠からずぼくも行くからさ、
再会の地でゆっくり聞かせてくれ。
軍歌:戦友(フルバージョン1番~14番)歌:beni9jyaku(紅孔雀)
父は笑いながら言った。
「俺の終戦記念日はない、
赤紙を貰った日の戦争記念日ならあるがな、
そうよ、俺が死んだ日が終戦記念日だわ、
ようく覚えとけ(笑)」
「俺の終戦記念日はない、
赤紙を貰った日の戦争記念日ならあるがな、
そうよ、俺が死んだ日が終戦記念日だわ、
ようく覚えとけ(笑)」
戦友1番~14番
作詞:真下飛泉
作曲:三善和気
ここは御国を何百里
はなれて遠き満州の
赤い夕日に照らされて
友は野末の石のした
思えば悲し昨日まで
まっさき駆けて突進し
敵をさんざん懲したる
勇士はここに眠れるか
ああ戦いの最中に
となりに居りしこの友の
にわかにはたと倒れしを
われは思わず駆け寄いて
軍律きびしき中なれど
これを見捨てておかりょうか
「しっかりせよ」と抱き起し
仮繃帯も弾丸(たま)の中
折からおこる突貫に
友はようよう顔あげて
「御国のためだかまわずに
遅れてくれな」と目に涙
あとに心は残れども
残しちゃならぬこの身体
「それじゃ行くよ」と別れたが
永(なが)の別れとなったのか
戦いすんで日が暮れて
さがしにもどる心では
どうぞ生きて居てくれよ
ものなといえと願うたに
空しく冷えて魂は
くにへ帰ったポケットに
時計ばかりがコチコチと
動いているも情けなや
思えば去年船出して
御国が見えずなった時
玄界灘で手をにぎり
名をなのったが初めにて
それより後は一本の
煙草も二人わけてのみ
ついた手紙も見せ合うて
身の上ばなしくりかえし
肩を抱いては口癖に
どうせ命はないものよ
死んだら骨を頼むぞと
言いかわしたる二人仲
思いもよらぬ我一人
不思議に命ながらえて
赤い夕日の満州に
友の墓穴(つかあな)掘ろうとは
くまなく晴れた月今宵
こころしみじみ筆とって
友の最期をこまごまと
親御へおくるこの手紙
筆の運びはつたないが
行燈(あんどん)のかげで親たちの
読まるる心思いやり
思わずおとすひとしずく
作曲:三善和気
ここは御国を何百里
はなれて遠き満州の
赤い夕日に照らされて
友は野末の石のした
思えば悲し昨日まで
まっさき駆けて突進し
敵をさんざん懲したる
勇士はここに眠れるか
ああ戦いの最中に
となりに居りしこの友の
にわかにはたと倒れしを
われは思わず駆け寄いて
軍律きびしき中なれど
これを見捨てておかりょうか
「しっかりせよ」と抱き起し
仮繃帯も弾丸(たま)の中
折からおこる突貫に
友はようよう顔あげて
「御国のためだかまわずに
遅れてくれな」と目に涙
あとに心は残れども
残しちゃならぬこの身体
「それじゃ行くよ」と別れたが
永(なが)の別れとなったのか
戦いすんで日が暮れて
さがしにもどる心では
どうぞ生きて居てくれよ
ものなといえと願うたに
空しく冷えて魂は
くにへ帰ったポケットに
時計ばかりがコチコチと
動いているも情けなや
思えば去年船出して
御国が見えずなった時
玄界灘で手をにぎり
名をなのったが初めにて
それより後は一本の
煙草も二人わけてのみ
ついた手紙も見せ合うて
身の上ばなしくりかえし
肩を抱いては口癖に
どうせ命はないものよ
死んだら骨を頼むぞと
言いかわしたる二人仲
思いもよらぬ我一人
不思議に命ながらえて
赤い夕日の満州に
友の墓穴(つかあな)掘ろうとは
くまなく晴れた月今宵
こころしみじみ筆とって
友の最期をこまごまと
親御へおくるこの手紙
筆の運びはつたないが
行燈(あんどん)のかげで親たちの
読まるる心思いやり
思わずおとすひとしずく
(/TДT)/ァゥゥ・・・
追記(2019/8/20)
父がよく唄った軍歌を記憶の底から拾い出す。
歌詞の一部しか覚えてない唄は「日本軍歌全集」を
たよりに探し出す。
軍歌:暁に祈る 歌:beni9jyaku(紅孔雀)
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