ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

071. 穴場食堂

2018-12-30 | エッセイ

旅に出ると食事も楽しみの一つだ。

でも、昼食を取るのに「どこで食べようか」といつも迷う。
日本だったらよほど山奥でない限り、道路沿いに何軒もの食堂を見かける。
ラーメン屋だったりうどん屋だったり、ファミリーレストランだったり。
しかもどの店も朝から晩まで一日中営業しているから、自分の好きな時間に食事ができる。
とても便利でありがたい。

ポルトガルもこのごろ高速道路が充実して、だいたい20キロ間隔でガソリンスタンドとレストランがあり、そこではセルフサービスでいつでも食事ができる。でもはっきりいって美味しくない。

普通の国道沿いには店はほとんどないから、食事をしようと思うと、国道からそれて町の中に入って探すことになる。
しかも町なかは一方通行であっち行き、こっち行き。
駐車スペースを探してうろうろ。

レストランの昼食時間は11時過ぎから開店し、3時までと決まっているので、それまでに入店しないと、食べ逃してしまう。
どの店も公務員やビジネスマン風の常連客でごったがえしているし、みんな1時間以上、あるいは2時間程もかけてゆっくりと食事を楽しんでいて、コーヒーが出てからもまた長いので、なかなか空席ができない。
旅の途中で先を急ぐ私たちは、諦めて再び国道に戻る。
そんなことが今まで何回もあったので、移動中の昼食は簡単にすますようになった。

でもときどきラッキーなこともある。

以前、南のアルガルヴェの国道を走行中、前をのんびりと大型トラックが走っていた。
普通なら追い越すところだが、そろそろ昼食をと考えていた。
そのあたりに町の入り口でもあれば国道からそれるつもりだった。
その時、意外にも国道沿いに食堂が見えた。
そこに入ってみるつもりが、前を走るトラックも突然右折し、その店に入った。

そこはガソリンスタンドもやっていて、広い駐車場には大型トラックや商用車が何台も停まっている。
店内は食事をしている商人やトラック野郎たちでいっぱいだった。
みんなが食べているのは、マメと肉の煮込みか魚のフライ。
ふつうのレストランのメニューではあまり見かけないポルトガルの家庭料理。
私たちも思いがけない料理に堪能した。
しかも飲み物から料理、デザート、コーヒーまで全て含めて一人9ユーロの値段。
旨い、安い、早い、と三拍子揃った穴場食堂だ!

つい先日のこと。
ベイラ地方で田舎道を走っていると、町を出たところで、小さな店を見つけた。
駐車場には商用車やトラックなどクルマがいっぱい停っている。
なんとなくニオイがする。
安いぞ、旨いぞというニオイ!
ひょっとしたら穴場かも?

12
時を回って、日差しがきついのでクーラーの効きも悪いし、暑くてたまらない。
海岸地帯に比べて内陸は猛暑なのだ。
ようやく1台分のスペースを見つけて駐車。この店は期待できる。

外にクルマはたくさん停まっているが、入り口がどこか分からないほど地味な店。
でも店内はすでにほとんどの席が埋まっている。
どの客も屈強な身体付きの男たちばかり。
ビアジョッキを傾け、パンをほおばり、大声で喋っている。
ほとんどが常連客らしく、お互いに声をかけあっている。

ひとつだけ空いていた席に着くと、まるまるとしたお姐さんが注文を取りにきた。
にこにことして感じが良い。
メニューはちょうど席のまん前の黒板に書いてある。
定食が3種類だけ。

メイン料理はバカリャウ(たら)かビットーク(豚肉料理)の定食で6ユーロ。
それとレイタオンなら7,5ユーロ。
レイタオンというのは生れて間もない子豚を丸焼きにしたもの。

定食は、パン、オリーヴ、ソッパ(スープ)、メイン料理、飲み物、デザート、コーヒーまで全部付いている。
レイタオンなら7,5ユーロ。でも1000円もしない。
せっかく本場にきたので、名物料理のレイタオンを注文した。

普通のレストランだと、7,5ユーロというと、一品の値段、しかもいちばん安い料理の値段。
それにパン代、ソッパ、デザート、コーヒー、飲み物代など加算されるので、最終的に倍以上の値段になる。

この店はますます穴場のニオイがする。

まずアゼイトナス(オリーヴ)をつまみにしてキュッと冷えたインペリアル(生ビール)を流し込む。
ビトシは運転があるのでノンアルコールビール。
そのあとキンキンに冷たい大ボトルのアグアミネラル(ミネラルウォーター)を追加注文。
私たちがソッパを食べ終えたのを見て、いよいよメインのレイタオンが運ばれた。
一人前の大皿にサラダとバタータフリット(フライドポテト)と米飯まで添えてある。
私にはとても食べきれる量ではないが、ここは労働者相手の食堂。
値段は安いし、盛りも良い。
レイタオンはまだおっぱいを飲んでいる子豚。
だからとても柔らかくて、くせもなく、ほろりと口の中で溶けるよう。





隣の席が空くと、すぐに次のお客が座った。
年配の夫婦と若いカップルの4人連れ。
どう見ても労働者ではない。
偶然ふらっと入ってきたのではなく、ときどき来る常連客だ。
彼らもレイタオンを注文した。

デザートはいろいろある中からサラダ・デ・フルータ(フルーツミックス)を選び、そしてコーヒー。
お勘定は二人で合計15ユーロ。
「追加注文したアグアミネラルの料金を付け忘れていますよ。」と言うと、
「それも全部含まれていますよ~」

やっぱりここは「穴場食堂」だ!
田舎道を走ると、たま~にこういう穴場に出会う楽しみがある。

トラックや商用車がたくさん停まっている店でも、「ここは穴場かな?」と期待して入ってみると、なんの特徴もないメニューばかりで、がっかりした経験が何度もあったけれど今回は当り!

食事は旅の楽しみのひとつ。
何年経っても語り草になる「穴場食堂」が今回の旅でまた一つ加わった。

MUZ 2009/07/28

 

©2009,Mutsuko Takemoto
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(この文は20098月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが20193月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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