アルコシェッテにはフリーポートというアウトレットモールがある。
塩田の中にある日突然出現した町。
この時期、ポルトガル中で冬のバーゲンをやっているが、この人工の町でも始まった。
ここは一つの屋内ではなく、町並みになっていて、店から店へは青空の下、太陽の光を浴びながら歩き回れるので、気持ちが良い。
天気の良い日に、たまに訪れる。
歩き回って疲れたら、レストランのテラスに座って、昼食を取る。
でもあまり気に入った味の店がないので、たいていはドイツソーセージの店に入ることが多い。
それもこのごろちょっとあきてきたな~
どこか新規の店がないかな~
ふと思い出した。
ちょっと気になる店があったのだ。
フリーポートの入り口にロータリーがある。
そこの脇の空き地にトラックがたくさん止まっている。
いつも不思議に思いながら、横目で見て、素通りしていたのだが、思い切って探検に行ってみた。
空き地の一角に小さな店があって、そこがトラック野郎たちの食堂だろうと思っていたが、人の出入りはほとんどない。
昼時なのに、しかもトラックがずらりと駐車しているのに、何だか変だ。
私の見当違いだったのだろうか?
やっぱり、今日もドイツソーセージしかないかな…と諦めた時、ビトシが叫んだ。
「どうもあっちの方、違うかな?人が出入りしてるで」
トラックの陰に隠れて、はっきりは見えないが、たしかに駐車している車は多いし、トラック野郎たちがぶらぶら歩いている。
そっちに行ってみると、たしかに店らしい建物があり、中には食事中のお客の影も見える。
建物は道路より少し低い所にあるので、階段を数段降りた。
小さなドアしかなくて戸惑ったが、常連らしい男が、「ここが店の入り口だよ」と教えてくれた。
普通の民家の入り口のドアのように小さく、食堂の入り口のような開放感はない。
中に入ると、すでにお客がいっぱいで、空席は手前に少しあるだけ。
店の右側にバーとキッチン、客室の奥に炭火焼のカマドがあり、さかんに焼いている。
黒板には「本日のメニュー」で、フランゴ(チキン)と豚肉の炭火焼だけと、品数は少ない。
店は親父さんとおかみさん、娘が給仕をし、息子が炭火焼の係り、家族だけで忙しそうに店を走り回っている。
次々にお客が入ってきて、席に案内するのは、親爺さんの役。
顔なじみのトラック野郎や商用車の連中で、食事中の先客と挨拶を交わしている。
ここはこの近くの国道を毎日の様に走るドライバーのたまり場のようだ。
フランゴと豚肉のコステレットの炭火焼を注文。
生ビールとノンアルコールビールをオリーヴの塩漬けをつまみながら飲む。
他の人たちはヴィーニョやビールを飲みながら食事。
食事が終わったら、すぐにクルマの運転をするはずなのに、まるで水代わりに飲んでいる。
昔、ポルトガルに住みつく前に、数年ほど、ローカルバスを乗り継いで、一ヶ月間ポルトガルを旅していた。
長距離で乗ることが多かったので、途中でバスが昼食のためレストランに立ち寄っていた。
バスの運転手も乗客もその店で食事を取る。
そんな時、運転手はヴィーニョをぐいぐい飲みながら食事をしていた。
それも1リッター入りのビンを大半飲みほす。
そのころは食事にはヴィーニョを飲むのが当たり前だった時代だ。
私たちはその様子を見てしまって、飲酒運転のバスドライバーに対してかなり不安だった。
でもその後も安全に運転を続け、私たちはいつも無事に目的地にたどり着いた。
このごろはポルトガルでも飲酒運転撲滅のため、取締りが厳しくなっている。
レストランでもノンアルコールビールを飲む人が目立つようになった。
でもノンアルコールビールは普通のビールよりも値段が少し高いのは、何故だろう?
いつも不思議に思う。
トラック野郎の食堂は50人以上ものお客が食事をしている。
それなのにわりと静かだ。
お客は男ばかり、女性は私一人だけ。
と思っていたら、女性連れのお客が2組、続けて入ってきた。
一組はトラック運転手とその彼女かひょっとして奥さんかもしれない。
もう一組は、私達のテーブルの隣に座ったのだが、食事を終えて帰りかけたトラック運転手が数人、このカップルに挨拶をしていたところを見ると、関連会社の総務課長と事務員(たぶん愛人)といった感じだ。
やがて私達の目の前に料理が運ばれてきた。
ふっくら焼けたフランゴと豚肉、サラダとバタータフリット(ポテト・フライ)。
炭火焼なのでやはり美味しい。
しかも安い!
人工の町、アウトレットモールのすぐそばに穴場食堂があった~。
MUZ
2012/01/26
©2012,Mutsuko Takemoto
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(この文は2012年2月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)