4月の25日にポルトガルに帰ってきた。
いつもは夜中に自宅に到着するのだが、今回は昼頃、着いたから、重い荷物を持って階段をがたがたと上る音や、風呂を入れる騒音など、隣近所に対して気を使わなくてすむし、なによりもいいのは、帰宅そうそう明るい日差しを受けられることだ。
翌日から行動開始。
まず税金の支払い。事務所は納税者が詰め掛けていた。4月末までに納税しないといけないので、人が多い。
私たちは今までは5月末にポルトガルに帰ってきていたので、毎年延滞金を納めていたのだが、今年はぎりぎりセーフだった。
納税を済ませて、いそいそと郊外へ、野の花探検。
でもなんだかどんよりと曇り、空気がひんやり冷たい。それに2~3日強風が吹き荒れた。
野の花も期待したほどは咲いていないので、すぐに行ける穴場に出かけてみた。
すると、いつものスポットでランに出会った。
ずっと前から見たいと思っていた「黄色いラン」が、思いがけない近場に咲いていたのだ。
もう4月末なので、ランが見られるとは思ってもいなかったし、この黄色いランは南のアルガルベにしかないだろうと何故か決め付けていたので、すぐ足元で出会えるとは感激ものだった。
そのほかにも初めて見るランが2種類見つかった。でもどれも最後の花が開いていて、あと数日もしたら終りだ。
4月末がぎりぎりセーフ。税金納付期限と妙に一致する。
5月が始まると、急に青空が広がり、太陽の日差しも強くなった。
もう夜の8時過ぎまで明るいし、一日がとても長いので、日帰りの旅も無理なくできる。
アレンテージョのエヴォラ近くまで出かけることにした。
晴れた日が続いたので、途中の牧場や道端はいっせいに野の花が咲いている。
しかも咲きはじめたばかりなので、とても新鮮だ。
いつも立ち寄るドライブインは月曜日休み。でもその周りの牧場はシャゼンムラサキの花で青紫に染まっている。
手前の道端には黄色や赤やピンクなど、知っている花、初めて見る花など美しさを競い合うように咲いている。
今まで5月は日本に滞在していたので、ポルトガルの5月は久しぶりに体験する。
野の花がいっせいに咲き誇る5月は素晴らしい。
五月のアレンテージョ、シャゼンムラサキが牧場を埋めつくす。
黄色と紫、白、まるで絨毯のよう。
五月は矢車草が咲く。
白いカモミールとシャゼンムラサキ
どこまでも紫に染まる牧場
森の中に咲くシストォス・クレティクス
高さ10センチほどのアヤメ(イリス・シシリンチウム)
いちばん上の花が、見ている間にポンと開いた。
ナデシコ科の小さな花 シレーネ・ガリカ
真っ赤なクローバー Trifolium rubens
バイカモ(梅花藻)Ranunculus nipponicus var キンポウゲ属の水草
古墳に向う入り口には小川が流れ、水の中にはバイカモの白い花が浮かんでいた。水草が咲いているのを自分の目で見たのは初めて。
巨大なザンブジェイロZambujeiro古墳。巨大な石は高さが4メートル以上はありそう。長さも下から上までは5メートル以上。
古墳はここにひとつしかない。これは古墳というよりは焼き物を焼く「登り窯」にそっくり。でもそれはありえないな~。
ザンブジェイロ古墳を見たあと、あちこちで停まって野の花を撮影。野原の中の地道は三方向に分かれている。
はて、どの道から来たのか分からなくなった。
クルマから降りて調べると、一つの道にだけ小さな標識が見つかった。
『エヴォラ セントロ』
小さな木製の板に手書きの素朴な標識だ。
あまりにも頼りない看板なので、首を傾げたが、とにかくエヴォラの中心に行く道しるべなので、半信半疑だが信用することにした。
「とにかくいずれ大きな道路に出るだろう」
森を抜け、大きな乳牛たちが草を食んでいる脇をすり抜けて、野原に出た。
道はますます細く、石がごろごろと顔を出している地道はでこぼこがますますひどくなって来た。
時には二股に分かれた道をガタンゴトンとよろめきながら進んでいると、向うから自転車に乗った男がやって来た。
初めて出会う人間だ。それまでクルマも人もぜんぜん見かけなかった。
あまりにもひどい道なので、「この道はエヴォラに行けますか?」と尋ねた。
ツールドフランスの選手のようにかっこ良く決めた男は、「う~む、あと3、4キロくらいかな~」と、にっこりと答えて、去って行った。
しばらく行くと、道の真ん中がどんと深くえぐれている。
大きなトラクターがぬかるみをなんども通った輪だちのようだ。そろそろと進むと車が斜めになって停まった。
身体も斜めに傾き、クルマのドアが半分も開かない。
一度バックして、真ん中のえぐれの両端にタイヤが掛かるようにビトシが慎重にハンドルを操って、難関を突破できた。思わず二人で手をたたいて歓声を上げた。
これでもうすぐ幹線に出るだろうと期待を込めて。
ところがそれはぬか喜びだった!
道の前方に水が溜まっている。
それは小さな川だった。色を失うとはこのことだろうか。
クルマを降りて周りを調べると、左の土手から向こう岸に幅1メートルほどの木製の板が掛かっている。
人か自転車なら難なく川を渡れる。でも普通の乗用車では完全に脱輪する。
さっき途中で出会った自転車の男はどうしてこのことを教えてくれなかったのだろうか?
悪路は突然途切れて、小川にぶつかった!
どうしよう!
引き返そうにもあの巨大なくぼみがある。前に進もうにも川がある。
川の左はかなり深そうだが、右端はわりと浅い。向こう岸にはクルマの輪だちもある。
バイクやジープの登った跡らしい。
でも我が家のおんぼろシトロエンでは途中で床上浸水しそうだ。
しかし、前に進むしか道はないのだ。
クルマを少しでも軽くするために、私が降りて、ビトシが一人で挑戦。
万事休す!突撃~
エイヤーっとしぶきを上げて向こう岸に飛び上がった。
シトロエン、やってのけました!
むこうの土手にすっくと上がったのです。
「やった~」
喜んで振り向くと、板の橋を渡って来たサイクリングの男がVサインをしながら通り過ぎて行った。
さっき道を尋ねたサイクリング男の知り合いかもしれない。
もしここで失敗していたら、水浸しになった車の横で、寒さに震えながら夜を過すことになったかもしれない~。
でもどうして道を間違ってこんな悪路に迷い込んだのだろう?
キツネか狸、あるいは古墳の主に化かされたような気持ち。
翌日、車検に出かけた。
あれだけ悪路を走って、底をがりがりやったから、たぶん傷だらけで、ひょっとしたらどこかが破れているかもしれない~と心配だったが、車検は一発で合格。やったぜ、シトロエン!