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Bさんの貸してくれた本の中で、まずは彼女の主治医の編著書『乳がん全書』*から読むことにした。ざっと見渡してみると、病気自体の説明、多様な治療法の説明、病院やサポート団体の資料、心のケアの情報、患者の闘病記などが網羅されているし、女性の病気ならではの繊細な疑問にもQ&A方式で答えてくれている。西洋医学のみならず、東洋医学をも含めた統合医療の見地でまとめられているのも魅力的だ。初心者が大筋を捉えるには包括的かつ体系的なガイドになりそうであると同時に、微に入り細を穿つ詳細なガイドにもなりそうだった。信頼性も高いし、ウェブの情報洪水の中で混乱するよりも、ずっと効率的だと思った。
乳がん患者は欧米のみならず日本でも年々増え続け、最近では女性のがんの中では最も罹患率、死亡率の高いがんになっている。罹患率は25人に1人とも、23人に1人とも言われるらしい。発症率は40代後半が最も高く、発症部位は乳房の外側上方が最も多いようだ。現にこの私も、発症年齢・部位ともに例に洩れていない。
乳がんは内臓系のがんより進行が遅い*ため、他のがんでは5年生存率が取り沙汰されるのに対し、乳がんでは10年生存率が云々される。性質も他のがんとは異なり、女性ホルモンの働きに依存することが多いため、腫瘍自体が大きくなくても遠隔転移が起こりやすい。そのため、他のがんより転移率や再発率が高いので、長く見守る必要があるらしい。10年…気の遠くなりそうな数字だ。
その代わり、自分で触れることができるので早期発見しやすいという特徴もある。また、早期発見・治療できれば治癒率も高く、予後の良い病気と考えられているようだ。自分がこれに該当していることを祈るしかない。
放射線治療や抗がん剤を使用した化学療法が補助治療として組み合わされるのは、他のがんと同じだ。
女性ホルモンと合体して増殖する性質を持つタイプが10人中6人の割合であり、その場合は、ホルモンを抑制する内分泌治療を、転移や再発予防の補助治療として行うのが一般的のようだ。内分泌治療が行えると、化学療法はしなくてすむ場合も多い。また、閉経前か後かでも内分泌治療の内容が異なるらしい。
治療法は医療の進歩とともに変遷を辿っている。放射線治療や化学療法に現在ほど頼れなかった頃は、乳房や腋窩リンパ節、場合によっては胸壁や胸筋を切除する手術が多かったらしい。切除部分を大きくすることで転移や再発を予防したわけだが、術後のQOL(Quality of Life:生活の質)が低下し、ひいては免疫力の低下にもつながることがわかってきたため、近年はできる限り乳房を温存する方向であるらしい。乳房温存療法が乳房切除術を数の上で上回るようになっている。
切除部分を最低限にする代わりに、内分泌治療、放射線治療、化学療法と組み合わせるわけだ。「センチネルリンパ節生検」を術中に行うのも、腋窩リンパ節の切除をできるだけ避けるためだ。
よって、一口に乳がんといえども、治療には多くの選択肢がある。医療機関の設備や体制、患者の病期や病状や体質、そして患者の希望に応じて、多様な治療法があるのだ。選択肢が多いのはありがたいことだが、一方で迷いや混乱が生まれそうだ。―さて、私はどうしよう…検査の結果が出ていない今はどうしようもないけど、一体どうなるのだろう………???―
* 『乳がん全書』: http://www.amazon.co.jp/%E4%B9%B3%E3%81%8C%E3%82%93%E5%85%A8%E6%9B%B8-%E7%A6%8F%E7%94%B0-%E8%AD%B7/dp/4879544191
* 一般のがんは、1cm角の大きさになるのに9年かかるが、それを超えると増殖の速度が速まり、さらに3年で10cmになると言われている。