「平和百人一首」とこのシリーズについての解説は、初回記事と2回目の記事をご参照ください。前回記事はこちらで見られます。
なお、かなづかいや句読点は原文のままとするので、読みづらい点はご了承ください。
平和百人一首
さむざむと舗道に孤児の佇つ見れば ふたたびかかるいくさなからしめ
新潟県南魚沼郡土樽村 南雲 末子
私は夜明ける街を急いでいた。敗戦以来初めて接する東京である。今尚戦災の残骸が痛ましく残つてマッチ箱の様な家が立並んでいる。焦土の中に逞しい生活力が覗はれ喜ばしく思つたが過去を振返れば軍閥の巧妙なる車に乗せられ疑う事もしなかつた無知なる民衆に対して憤りの念を禁じ得ない。
朝霧煙り身に迫る外気の冷たさ、静寂を破つて鳴る靴の音はあたりにこだまして寒寒とひびく。
肩をすぼめて急ぎ足、まだ人は起きやらず霧にぬれた舗道に人影は少い。ふと見るとわが前にとぼとぼとやせこけて青白く、垢と埃にまみれ見るも哀れな孤児の姿があつた。
住むに暖かき家なく深き愛情を傾ける父母も又なく世を恨み、人を恨み悪の巷に入つたのであろう。
あゝ幾多の不幸なる子等よ、戦なかりせばかかる悲しみをせずにすんだものをと、とめどなく後から後から涙は落ちる。
(末子)