「永遠の武士道」研究所所長 多久善郎ブログ

著書『先哲に学ぶ行動哲学』『永遠の武士道』『維新のこころ』並びに武士道、陽明学、明治維新史、人物論及び最近の論策を紹介。

貝原益軒に学ぶ⑫ 「心法を守らざれば養生の術行はれず。故に心を養ひ身を養ふの工夫二なし。一術なり。」

2021-05-18 11:37:39 | 【連載】道の学問、心の学問
「道の学問・心の学問」第五十三回(令和3年5月18日)
貝原益軒に学ぶ⑫
「心法を守らざれば養生の術行はれず。故に心を養ひ身を養ふの工夫二なし。一術なり。」 
                                             (『養生訓』巻第二)

 貝原益軒の書で現代人にも良く知られているのは『養生訓』である。八十五歳迄生きた益軒は、当時では驚異的な長寿の人生を全うした。益軒は亡くなる四ケ月前まで著述に専念している。医学や薬草についての心得もあり、極めて健康に晩年を過ごしている。益軒にとって身の養生は心の養生に他ならなかった。ここに紹介した言葉の様に、養心と養身は同じなのである。更に、『養生訓』の「総論」中で益軒が述べている言葉を紹介したい。

「養生の術というのは、安閑無事に過ごす事を言うのでは無く、心は静かに保ちつつも身は動かすのが良い。身を安閑にする事は、却って元気を滞らしてふさぎ、病を生み出す。流水は腐らず、扉の枢(とぼそ)が朽ちないのと同じである。動く者は長久であり、動かない物は却って命は短い。安逸であってはならない。」

「養生の道とは、飲食を少なくし、病を起こす様な物は食べず、色欲を慎み、精気を惜しみ、怒り悲しみ憂い等の思いを過ごさず、心を平らかにして気持ちを和らげ、言葉を少なくして、無用の事を省き、風寒暑熱の外邪を防ぎ、時々に身を動かし、歩行し、むやみに眠り臥す事をせず、食によって摂取した「気」を身体に良く巡らす必要がある。これが養生の要点である。」益軒は、食後には、決して臥せずに、数百歩歩行する事を勧めている。

「人間の身は弱く脆く、風前の灯であり、更に、内敵と外敵が常に襲ってくるので、用心を厳しくして常に内外の敵を防ぐ計策を持たねばならない。内敵とは飲食・好色・睡臥の欲や怒悲憂の情である。それに打ち勝つには心を強くして「忍」の字を用いるが良い。外敵とは風寒暑熱等である。それに勝つには「畏」の字を用いて早く防がねばならない。」

「心を静かにして騒がしくせず、緩やかにして慌てず、気を和(やわら)かにして荒くせず、言葉を少なくして声を高くせず大声で笑ったりせず、常に心を喜ばしめて、妄りに怒らず、悲しみを少なくし、返って来ない事を悔まず、過ちがあったなら一度は我が身を責めても、二度悔いはせず、只天命を安んじて憂える事がない、是が心気を養う道である。」

 これらを読むと、これ迄紹介して来た『益軒十訓』の教えと一貫する益軒の「人間学」が浮かび上がって来る。そして、身心一如である限り、心の在り方こそが、身体の健康を維持するのだと改めて気付かされるのである。私達も天命尽きる迄健康な姿で自らの使命に孜々として邁進出来る様、養生に努めねばならない。


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