「道の学問・心の学問」第五十二回(令和3年5月11日)
貝原益軒に学ぶ⑪
「五常の和訓、仁はいつくしみ、義はよろし、礼はうやまふ、智はさとる、信はまこととよむ。」
(『五常訓』巻之一)
儒学では、人の常に守るべき五種の道徳を「五常」という。仁・義・礼・智・信を言う。その其々について益軒が書き著したものが『五常訓』である。仁義礼智信は漢語なので、益軒は和訓で「いつくしみ」「よろし」「うやまふ」「さとる」「まこと」と、解り易く示した。『五常訓』の中から、幾つかの文章を紹介したい。
●「仁に至ろうと思うならば、恕を実践せねばならない。仁は愛の道理であり、恕は自分の我や私を去って、愛を人に施す工夫の事である。」「陰徳を積み行う事が大切だ。陰徳とはかげのめぐみと読む。慈愛を心の内に秘かに保って、人を助け救う事を言う。」
●「義が心にあるのは、研いだ刃の様なもので、善悪を決断する力を備える事になる。」「仁は春夏の気候が、のどかで柔らかにして万物を生長せしむる様なもので、義は秋冬の気候が冷たく激しくして物を枯れ凋ませ凝結して鍛える様なものである。」
●「礼は心に慎みがあり人を敬う事が根本で、物事を行うに当たり、作法に従えば正しい理が表現される。」「人には血気があり、身には耳目口体の欲が生じ、心には喜怒哀楽の情が生じる。礼を以て制さねば、人欲に従って天理を失い、人事は乱れ、人道は廃れてしまう。」
●「知は心が明らかな事を言う。是非を照らす心の光である。心が明らかで、人倫や事物の道理に通じ、是非善悪を弁え知り迷わない徳である。仁義礼も、智によってその理が明らかになり行われる。」「知は目の様だと言い、百歩の外を能く見るが、自分のまつ毛を見る事は出来ない。知が難しいのは、人を見る所にあるのでは無く、自分を見る点にある。」
●「仁義礼智がいつわりなく真実なる事を、信と言う。」「信は我が身を修めるだけでなく、人を治め、国を保つ要である。」「自信とは、自ら道を信じる事が篤くて、それを守る事が堅固な事を言う。」
仁義礼智信は夫々が不可欠な徳として繋がっているのである。『五常訓』は全五巻、総論が一巻、仁が二巻、義・礼で一巻、智・信で一巻の構成である。儒学では仁の徳が最高とされ、仁者たらんと努力する。だが、義・礼・智・信を同時に身に付けない限りは、仁たり得ないのである。自らに、「仁に於いて、恕や陰徳が欠けていないか。」「義を貫いているか」「礼に欠ける振る舞いはないか。」「智は磨き続けているか。」「信を必ず貫いているか。」と日々省みて、人としての道を確かなものとなして行きたい。
貝原益軒に学ぶ⑪
「五常の和訓、仁はいつくしみ、義はよろし、礼はうやまふ、智はさとる、信はまこととよむ。」
(『五常訓』巻之一)
儒学では、人の常に守るべき五種の道徳を「五常」という。仁・義・礼・智・信を言う。その其々について益軒が書き著したものが『五常訓』である。仁義礼智信は漢語なので、益軒は和訓で「いつくしみ」「よろし」「うやまふ」「さとる」「まこと」と、解り易く示した。『五常訓』の中から、幾つかの文章を紹介したい。
●「仁に至ろうと思うならば、恕を実践せねばならない。仁は愛の道理であり、恕は自分の我や私を去って、愛を人に施す工夫の事である。」「陰徳を積み行う事が大切だ。陰徳とはかげのめぐみと読む。慈愛を心の内に秘かに保って、人を助け救う事を言う。」
●「義が心にあるのは、研いだ刃の様なもので、善悪を決断する力を備える事になる。」「仁は春夏の気候が、のどかで柔らかにして万物を生長せしむる様なもので、義は秋冬の気候が冷たく激しくして物を枯れ凋ませ凝結して鍛える様なものである。」
●「礼は心に慎みがあり人を敬う事が根本で、物事を行うに当たり、作法に従えば正しい理が表現される。」「人には血気があり、身には耳目口体の欲が生じ、心には喜怒哀楽の情が生じる。礼を以て制さねば、人欲に従って天理を失い、人事は乱れ、人道は廃れてしまう。」
●「知は心が明らかな事を言う。是非を照らす心の光である。心が明らかで、人倫や事物の道理に通じ、是非善悪を弁え知り迷わない徳である。仁義礼も、智によってその理が明らかになり行われる。」「知は目の様だと言い、百歩の外を能く見るが、自分のまつ毛を見る事は出来ない。知が難しいのは、人を見る所にあるのでは無く、自分を見る点にある。」
●「仁義礼智がいつわりなく真実なる事を、信と言う。」「信は我が身を修めるだけでなく、人を治め、国を保つ要である。」「自信とは、自ら道を信じる事が篤くて、それを守る事が堅固な事を言う。」
仁義礼智信は夫々が不可欠な徳として繋がっているのである。『五常訓』は全五巻、総論が一巻、仁が二巻、義・礼で一巻、智・信で一巻の構成である。儒学では仁の徳が最高とされ、仁者たらんと努力する。だが、義・礼・智・信を同時に身に付けない限りは、仁たり得ないのである。自らに、「仁に於いて、恕や陰徳が欠けていないか。」「義を貫いているか」「礼に欠ける振る舞いはないか。」「智は磨き続けているか。」「信を必ず貫いているか。」と日々省みて、人としての道を確かなものとなして行きたい。
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