とある会社において、
勤務地異動する社員のための送別会が行われていた。
そこには同社員の牧カオリも出席していた。
送別会が進行するにつれ、
お別れする予定の社員が、
牧カオリの隣に来て座った。
結構酔いが回っていた。
そして牧カオリに、
「あっちに行けのワンメッセージでコトは決まるのよ。まるでロボット扱いだわ!本当に寂しく虚しいわね」と言い、
持ってたグラスの中身を飲んだ。
牧カオリは静かに言った。
「私は、ある少女が、日差し降り注ぐ春風の中で、寂しさと虚しさを表す有り様を見ました」、と。
時は、
牧カオリが高校生してた5年前に遡る。
牧カオリのクラスメートが、
女子生徒が屋上の手すりを乗り越えたと騒ぎ立てた。
確かに、
ひとりの女子生徒が、
屋上の手すりを乗り越えて、
飛び降りるんではないかという状況にあった。
教師達の説得も聞かずに女子生徒は、
「私の虚しさは今であり永遠です」と泣きながら答えたという。
女子生徒を見上げることができるグランドでは、
最初は女子生徒を心配していたものの、
ナンの変化もないことと、
授業が潰れた喜びからか、
男子生徒のバク転動画撮影や、
ジュース売りまでやり出す生徒たちが現れた。
屋上では、
言うことを聞かない女子生徒に困り果てた教師達の中から、
知恵のある用務員が来て、
女子生徒に言ったらしい。
「あんたが飛び降りたところで、この世から虚しさが無くなるんか?」、と。
女子生徒はしばらく考え込み、
手すりの内側に戻って、
教師達に確保された。
牧カオリは当時を思い出しながら、
「勉強して進学して就職するというラインに踊らされることを嘆いた結果による行動でした」と語った。
が、
勤務地異動の当事者は、
眠りこけていた。
牧カオリは、
熟睡している相手に呟いた。
「私の虚しさは今であり永遠であることに変わりはありません。だってあの女子生徒は私だったんですから」と。
そして、
「あの時の出来事は太陽と春風の記録なんです」と加え、
更に、
「だからあなたも、虚しさ背負って異動なさい」とまで言い、
自身の酒を飲み干した!