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元アイドル、歌手、芸人…「参院選」はタレント候補も乱戦。参加は“推し活”で
2022年夏、最大の政治イベントといえば、7月10日投開票予定の参議院議員選挙です。立候補を予定している人たちは、ゴールデンウィーク前後から早くも活動を開始していました。
自民党からは元おニャン子クラブの生稲晃子さん(54)が、日本維新の会からは歌手の中条きよしさん(76)が、れいわ新選組からはお笑い芸人の水道橋博士さん(59)が立候補を表明。
作家の乙武洋匡さん(46)は無所属で立候補することを決めています。
また、衆議院議員を辞職して参院選に出直し出馬するれいわ新選組の山本太郎代表(47)は、もともとは俳優として活躍しています。
2012年に衆院選に初出馬して落選したものの、翌年の参院選に当選。以降、政治家としての地歩を固めています。
タレント候補・タレント議員の定義は明確ではありませんが、一般的に芸能人やスポーツ選手、作家などから政治家へと転身する人たちがタレント候補と呼ばれます。
今夏の参院選は、2018年まで行われていたAKB48の総選挙さながらの様相を呈しています。
選挙は政治イベントですが、見方によっては芸能イベントともいえます。タダでビッグイベントに参加できるのですから、十二分に楽しみたいものです。
「少しややこしい」参院選の投票方式
今夏の参院選で、自民党の目玉候補として擁立予定の生稲晃子さん
今夏に実施される参院選は投票方式が少しややこしく、政治に不慣れだと間違えてしまう点があります。
衆院選とは異なり、参院選は選挙区に1票、日本全国を選挙区とする全国比例に1票、つまり1人が合計2票を投じることができるのです。
2票目は、全国比例から出馬している候補者もしくは政党名で投票します。
全国比例は知名度を存分に活かせることもあり、いわゆるタレント候補が出馬する傾向にありました。
今回の参院選では、中条きよしさん、水道橋博士さんなどが全国比例から出馬する意向を示しています。
タレント候補でも選挙区から挑戦する人もいます。生稲さんと乙武さんは、東京選挙区から挑戦するようです。
乙武さんは政党から公認を受けない、いわゆる無所属での立候補です。そのため、全国比例から出馬できないという事情があります。
選挙区からの出馬にこだわる三原じゅん子
有権者から見れば、選挙区で当選しても、比例区で当選しても同じ国会議員です。しかし、永田町の受け止め方は異なります。永田町は、全国比例で当選した議員よりも選挙区で当選した議員のほうが格上という意識が支配的です。
そのため、選挙区からの出馬にこだわりを見せる候補者も少なからずいるのです。 今夏の参院選で3選を目指す三原じゅん子さん(57)は、明らかに選挙区からの出馬にこだわった1人です。
2010年の参院選で初出馬した三原さんは、全国比例の候補者として擁立され、神奈川県を中心に選挙活動を行いました。
当時、筆者は三原さんの街頭演説を数か所取材していますが、特に川崎駅での街頭活動が印象に残っています。
川崎駅での街頭演説は、雨上がりで湿度が高いという天候状態でした。蒸し暑い中、綺麗に整えられた三原さんの顔はすぐに化粧が崩れていったのです。
それは、明らかに女優のような出立ちではありません。身だしなみを気にする芸能人だったら、とても人前に出るような姿ではなかったのです。
化粧くずれを気にしない姿に本気を見た
芸能人は見た目が大事な職業ですが、政治家も見た目を非常に気にする職業です。それは、イメージで票を入れてもらうことが多いことが理由です。
そのため、選挙ポスターは10年以上も前の、若い頃の写真を使用するのは当たり前です。今なら加工ソフトで修正を重ね、別人なのでは? と思えるようなポスターが貼られていることもあります。
そこまで政治家たちは外見にこだわるわけですが、女優として世間に名前を知られた三原さんにとっても見た目は重要だったと思われます。しかし、三原さんは化粧くずれなど気にもとめず、とにかく通行人と握手して回っていたのです。そこに本気を感じました。
2016年、三原さんは再選を目指しますが、全国比例から神奈川選挙区へと鞍替えしています。
当初、自民党は現職議員を神奈川選挙区から擁立する方向で調整していました。三原さんの頑張りと熱意が認められたからでしょう。三原さんは、今夏の参院選も神奈川選挙区から出馬を予定しています。
タレント候補と揶揄される人たちは、その知名度から注目を浴びやすい環境です。いくら本人が崇高な理念を抱いていても、社会のためになる政策を提案していても有権者が耳を傾けてくれなければ意味がありません。
立候補者にとって、話を聞いてもらうことは政治家への第一関門です。タレント候補は話を聞いてもらいやすく、そういう意味で第一関門は突破しやすいといえます。そして、選挙は1票でも多く取ることが最大のミッションです。
1票でも多く獲得するには、万人受けする政策を訴えるほうが有利です。 今夏の参院選で言えば、ロシアのウクライナ侵攻に端を発したエネルギー問題や憲法改正、また昨年の出生率が1.30という発表直後ですから出産・子育て政策の充実などは訴求しやすい政策です。
一方、かねてより取り組んできたライフワークともいえる政策は、尖った政策なので後回しにされがちです。2016年に新党改革から立候補した女優の高樹沙耶さん(58)は、以前から「医療用大麻の解禁」を持論にし、選挙演説でも同様に訴えていました。
医療用大麻の解禁という尖った政策は、世間の関心を引きつけにくく、支持の拡大を図るには適していません。それでも高樹さんは、自身の理念を曲げずに若者が多く行き交う渋谷駅前で必死に医療用大麻の解禁を訴えましたが、残念ながら落選。その後は選挙から遠ざかっています。
水道橋博士の掲げる政策は他人事ではないけど…
自身の経験をもとに反スラップ法の制定を掲げる水道橋博士さん
今夏の参院選に立候補を表明している水道橋博士さんも、反スラップ法の制定という万人受けするとは言い難い政策を掲げています。
水道橋博士さんは、YouTubeで大阪の松井一郎市長を批判する動画を視聴し、それをツイッターで拡散。水道橋博士さんが松井市長に言及したわけではありませんが、拡散した行為が名誉毀損として訴えられてしまったのです。
近年、政治家や大企業が口封じ目的で訴訟を起こすことが増加しています。政治家や大企業は顧問弁護士を抱えていたり、法務部があります。
そのため、訴訟にかかる費用や作業時間はそれほどの負担になりません。
他方、訴えられた個人や零細企業は訴訟費用の負担が重くのしかかり、さらに準備のために時間を無駄に浪費します。準備に時間を削られている間は満足に仕事ができず、家族と過ごす時間も削られます。
政治家や大企業は勝ち負けにこだわらず、とにかく口封じを目的に訴訟を起こします。
金や権力に物を言わせて訴権を濫用するのが、スラップ(SLAPP=strategic lawsuit against public participation)です。諸外国ではスラップを明確に禁じる法律が制定されていますが、日本にはありません。
SNSで誰もが発信できるようになった昨今、誰もがスラップに遭う可能性を持っています。決して他人事ではありませんが、有権者間に反スラップの機運が芽生えているとは言い難い状況でしょう。
「有名人を生で見たい」でも大丈夫
いわゆるタレント候補たちの選挙活動を取材していると、決して政治家としての理念や政策を疎かにしているわけではありません。
きちんと政策を練っているタレント候補者もいます。
それでも、タレント・文化人としての活動が長いために、その活動がフィーチャーされてしまうのです。それは仕方がない話ですが、タレント候補も選挙に出ているからには必死で活動をしています。
タレント候補といえども、出馬するからには落選したくありません。少しでも多くの有権者と接して、1票でも多く得票するように努めます。
これは、有権者から見れば直に会って、話ができるチャンスです。 話をするために、握手をするために街頭演説に行ってもいいのか? そんなミーハーな気持ちで政治に関わっていいのか? と悩む必要はありません。
最初は「有名人を生で見たい」という不純な気持ちでも構わないのです。街頭演説に足を運び、話を聞けばいろいろなことを考えます。そこから少しずつ学べばいいのです。
街頭演説では候補者も気さくに話をしてくれますし、一緒に写メを撮ることにも応じてくれます。近年はSNSが大きな力を持っているので、撮った写真を拡散すれば候補者は意外なほど喜んでくれます。
新型コロナウイルスの影響で握手は難しくなりましたが、ハイタッチ・グータッチといった交流を拒む候補者はいません。
持ち歌を披露するのはNG。なぜ?
歌手の松山千春さんと二人三脚で街頭演説に回る鈴木宗男さん
候補者のほかにも、街頭演説では芸能人が登壇することも珍しくありません。歌手の松山千春さんは、鈴木宗男さん(74)の応援で頻繁に選挙カーに乗っています。
また、山本太郎代表が初出馬した2012年の衆院選では、ジュリーこと沢田研二さんが応援弁士として登壇しています。
芸能人といえども、選挙応援はノーギャラです。そこまでの交通費などの経費も受け取れません。なぜなら、公職選挙法は金銭の支払いを禁じているからです。
そのため、応援弁士は本当に応援したい候補者のところにしか来ません。
また、候補者本人や応援弁士として登壇した歌手が持ち歌を披露することもNGです。
これは、歌に経済的価値があることに起因しています。つまり、プロの歌手が歌を披露したことで有権者を買収したとみなされる可能性があるからです。
集まったファンは公職選挙法を知らないので「なんで歌ってくれないの?」と不満が漏れることもあります。それでも集まった有権者に1票を投じてもらうため、公職選挙法に触れない程度で楽曲の一節ぐらいを口にすることはあります。
選挙はある意味“推し活”か
選挙は、硬い&難しいイメージが強いかもしれません。6~7月の暑い日に、一般的な感覚だったら政治家の長話は苦痛でしかありません。
しかし、最近の街頭演説は少しずつ変わっています。
これまでは一方的に政治家や候補者の話を聞くスタイルでしたが、集まったギャラリーがマイクを握り、意見や疑問をぶつけられるようになっているのです。
AKB48の総選挙は、ファンクラブへの入会やCDなどのグッズ購入が条件としてありました。
しかし、参院選の参加資格は満18歳以上の日本国民です。選挙は、テレビやネットで見たことがある有名人に、直に、しかも無料で会うことができます。
私たち有権者は、なにも臆することはありません。選挙を政治イベントと捉えるのではなく、“推し活”と考えれば参加する心理的なハードルも下がるはずです。積極的に選挙に参加し、楽しみましょう。