丹 善人の世界

きわめて個人的な思い出話や、家族知人には見せられない内容を書いていこうと思っています。

小説「二枚目」§1

2011年03月18日 | 詩・小説
 §1
 
 俺の名前は寺西五郎。春日台高校2年4組。一言で俺のことを言えば、二枚目である。
 顔、スタイルについてはまったく文句の付けようがない。おまけに成績優秀。知性・教養は言うに及ばず。絵画をこなし、音楽と成るとあらゆる楽器を弾きこなし、クラシックから童謡・演歌まで幅広い趣味を持つ。さらに加えて運動神経も抜群。すべてのクラブから勧誘を受けたが、一つのクラブに絞りきれないという理由から、どのクラブにも属していない。もっとも、試合の前には助っ人として駆り出されることもしばしば。そのたびに黄色い声援の渦の中心となるは必定。これでもてないはずがない。というより、この学校の女子ほとんど全員が俺のファンである。いや、ファンというよりか親衛隊と言った方が早いかもしれない。
 とにかく、俺とデートをしたがる女子が多いけれど、俺としてはデートの相手を決めるのに困ってしまう。しかし上手い具合に、俺の秘書を買って出てくれている奴がいる。そいつのおかげで俺の多忙なスケジュールが組み立てられ、俺の心配事が減ってすごく気が楽である。

 さきほど、『ほとんど全員』という言い方をしたのだが、それには少々訳がある。なんと、たった2名だけ俺に対して何とも思わないという奇妙な奴がいる。


 一人は、同じクラスで青木マリ子という。さきほど述べた俺の秘書役を買ってくれている奴である。なぜ俺の秘書役をやっているのかというと、あいつの弁によれば、このまま放置しておくと学校の風紀が乱れまくるらしい。そんな理由で俺の秘書役を買って出たと言うことらしい。
 秘書と言うからには俺と一番近い場所に位置しているのだが、これが不思議なことに、他の女子みんなに信頼されていて、俺と一緒にいる機会が自然、他の者より多いにも関わらず、誰もヤキモチをやこうとはしないばかりか、あいつの言うことならみんな黙って聞いているようだ。
 俺としては、誰に対しても平等でいたいから、そういう存在は有難く、都合の良いところではある。

 しかしよくよく考えてみれば、俺より信頼されていて、それでいて俺になびきもせずに無視しているようなあいつが少々癪に障るような気になることもある。
 もっとも、あいつがいなかったら、押し寄せる女性陣の波を裁ききれずに溺れまくってしまうだろうことを思うと、むしろ有難いことだと感謝するようにはつとめてはいるのであるが。

 どういうわけか、あいつは秘書としては抜群の才能を持っている。なにしろ、あれだけの女性陣をうまく平等に振り分けて、しかも俺自身の時間も十分に確保するのだから。それも時間の割り振りも、一日として同じものはなく、俺の性格に合わせ、たとえばデートの時間なども、退屈させず、心残りもないように細やかに計画されてある。毎日そういうことをやっているのに、それでいて自分の成績もぴたっと決めているのだからたいした才能の持ち主と言える。ただただ感心するばかりである。

 もちろんあいつと事務的な話ばかりをしているわけではない。雑談もいろいろするけれど、俺に負けぬ博学で、俺としては気のおけない、心置きなく友だちとして付き合っているのではある。とはいえ、それは決して恋愛感情に移ることのない、純粋な友だちの感情から一歩も踏み出そうとはしない。俺としても他の女性達とはまったく違った感情でいられた。
 このことにこだわるにはちょっとわけがあった。
 実は俺にはひそかに思いを寄せる相手がいたのである。なんでもできる俺なのだが、こればかりはどうしようもない、一方的な片思いをしている。偉そうに見せかけてはいるが、実は本当の俺はきわめて純情で、本気で好きになってしまうと、もうそれだけで何もできなくなってしまい、彼女を前にすると一言も話ができなくなってしまうのだった。
 彼女の名前は相沢京子。2年1組の女子である。さきほど述べた、俺になびかない例外的な奴のもう一人である。