丹 善人の世界

きわめて個人的な思い出話や、家族知人には見せられない内容を書いていこうと思っています。

小説「二枚目」§4

2011年03月30日 | 詩・小説
   §4

「そりゃ俺が橋渡ししてやっても良いけどな。ちょっと自信はないぞ」
「やってくれるのか?」
 俺は喜んだものだ。
「でもな、ミイラ取りがミイラになってもしらないぞ」
「どういうことだ?」
「つまりな、もし俺が彼女を気に入っちゃって、お前のことなんか忘れてしまうかも知れないって事。それでもいいんだったら……」
 俺は考え込まざるを得なかった。その可能性は十分考えられたからだ。
「さあ、どうする」
「どうするって言ったって……」
 俺はことこういうことになると、いたって気弱になるのだった。
「やっぱり辞めとくか?」
 奴は笑って言ったのものである。
 そんなわけで俺はこの線をあきらめた。でもよく考えると、うまく奴に断られた気がしてならなかった。なんだかんだ言ってもマリ子も浩二も俺には非協力的なんだ。口ぶりでは協力を惜しまないみたいなことを言うけれども、実際には何の手助けもしてはくれない。その気配さえない。畜生め!いいさいいさ。自分の力だけでなんとかやってみせるから。今に見ておれ!

 だいたいの話、京子さんの存在を知ったのはマリ子を通じてなんだ。友だちの友だちは友だちではない、というのが悲しいところだが。マリ子って奴は、俺に京子さんという存在を教えておいて、それ以上は紹介しないし、俺のことを彼女には言いもしない、と無責任にもほどがある。
 いろいろ俺にも都合があって、あの人の顔を見たのは数えるほどしかないのだが。でも俺にはピンと来るのだ。あの人しかいないってことが。それは絶対的なものなんだ。でもあの人はそんな俺のことなどまったく気づいてさえいない。それに具合の悪いことに、俺がもてすぎて、あの人には悪い印象を与えているんじゃないのかと思ってしまう。そればかり気になるのではあるが、俺の性格として、まとわりつく女子たちをうっちゃっておくことなどできないのだ。だからデート中はなるべくあの人のことは忘れて、楽しむことにしているんだが。みんなにばれるとまずいことになるし、それに相手にも悪いし、すごく気を遣うんだ。もてるってつらいものだ。

 とにかく、そんなわけでマリ子も浩二もあてにはならなくなり、結局は俺一人でやらなければならなくなってしまった。もっとも、ふだんと同じように行動はした上でのことなのだが。けれど、思いこんだら命がけ。がんばらなくっちゃ。