§3
でも、あいつばかりが相談相手ではなかった。
今まで女子のことばかり語ってきたが、俺にも男の親友が一人いた。何というか、とにかく俺とぴったり合う感じの奴で、名前を大川浩二という。俺と同じクラスで、一言で言えばこいつは三枚目と言って良い。なにしろやることなすこと変わっているというか、突飛なことをいつもしでかす奴だった。もし俺がそばについてやらなかったら、一体あいつはどうなっていたのかわからない。
そんな奴なのに、どういうわけか俺とウマがあって離れられない、ということで俺といつも一緒にいるために、ますます俺と比較してあいつの三枚目ぶりが目立ってくる。奴とすれば俺の側にいればむしろ損なはずなのに、それでも俺と離れようともしない。まあ何て言うか俺と息が合うことだけは確かなんだが。
しかし奴の三枚目ぶりにはほとほと世話が焼ける。
この前も二人で遊びに行ったのだが、奴が最新流行のファッションとか言って、派手な服を着てきたのはいいのだが、実は裏返しに着ていたことに最後まで気がつかなかった。何度か注意をしようかとも思ったのだが、わざとなのかどうかわからずに声を掛けられなかった俺も悪いのだが、周囲の人があきれるような目つきで振り返るたびに、俺の砲が恥ずかしくなってしまった。
忘れもしないできごとがある。それは俺たちが2年に進級して間もないことだった。ある時、街に出かけた時に奴がよりによって俺にこんな事を言った。
「俺だってガール・ハントの一つや二つは軽いものさ。まあ見とけよ」
そう言うなり、奴は通り過ぎていく女生徒らしき女子の後をついていってこう言った。
「お嬢さん、ちょっと振り返ってください」
それはもうキザっぽく言った物だっ。振り返った女子のキョトンとした顔。それにも関わらず奴は続けて言った。もちろんさらにキザっぽく。
「ああ、あなたが人違いだなんて思いたくないな」
奴の計画として完璧だったのだろう。すごく自信ありげではあった。だがそのとたん、彼女はプッと吹き出してしまったのだ。そしてすぐにバッグの中から鏡を取りだして、やおら奴に向けたのだった。鏡と相談してからにしてくれということなんだろう。しゃれたことをするじゃないか。お主できるな。女にしておくには勿体ないほどのセンスの良さ。でもその時の奴のしおれた顔は、今思い出しても愉快である。
そしてその翌日。学校で二人歩いていると、いきなり後ろで女性の声がした。
「もしもし、そこをゆくお方。ちょっと振り返ってくださいませぬか」
そこで何気なく二人振り返ってみると、奴の目の前に突き出された鏡。ギャッと言って奴は走り出した。見ると確かに昨日の女性。しかも着ている制服はまぎれもなく俺たちと同じ学校の制服。俺としたことがうかつだった。
でも俺の知らない女生徒だったのは無理もなかった。彼女こそ俺を無視していた青木マリ子その人であり、そんな縁もあって今はあいつが俺の秘書をするようになったのだ。浩二の奴はそれ以来マリ子が苦手である。
そんな奴だけど、根はすごく真面目な奴なんだ。もっとも本人にしてみればやってるころすべて真面目にやっているつもりなんだろう。そんなわけで奴に相談すれば何か良い方法を教えてくれるかも知れない。あんな奴でも、決めるところはきちんと決める奴だから。
今までだって相談すればいつも鋭いところを指摘してくれていたものだった。だから今度もと考えた俺が少し甘かったのだろうか。
でも、あいつばかりが相談相手ではなかった。
今まで女子のことばかり語ってきたが、俺にも男の親友が一人いた。何というか、とにかく俺とぴったり合う感じの奴で、名前を大川浩二という。俺と同じクラスで、一言で言えばこいつは三枚目と言って良い。なにしろやることなすこと変わっているというか、突飛なことをいつもしでかす奴だった。もし俺がそばについてやらなかったら、一体あいつはどうなっていたのかわからない。
そんな奴なのに、どういうわけか俺とウマがあって離れられない、ということで俺といつも一緒にいるために、ますます俺と比較してあいつの三枚目ぶりが目立ってくる。奴とすれば俺の側にいればむしろ損なはずなのに、それでも俺と離れようともしない。まあ何て言うか俺と息が合うことだけは確かなんだが。
しかし奴の三枚目ぶりにはほとほと世話が焼ける。
この前も二人で遊びに行ったのだが、奴が最新流行のファッションとか言って、派手な服を着てきたのはいいのだが、実は裏返しに着ていたことに最後まで気がつかなかった。何度か注意をしようかとも思ったのだが、わざとなのかどうかわからずに声を掛けられなかった俺も悪いのだが、周囲の人があきれるような目つきで振り返るたびに、俺の砲が恥ずかしくなってしまった。
忘れもしないできごとがある。それは俺たちが2年に進級して間もないことだった。ある時、街に出かけた時に奴がよりによって俺にこんな事を言った。
「俺だってガール・ハントの一つや二つは軽いものさ。まあ見とけよ」
そう言うなり、奴は通り過ぎていく女生徒らしき女子の後をついていってこう言った。
「お嬢さん、ちょっと振り返ってください」
それはもうキザっぽく言った物だっ。振り返った女子のキョトンとした顔。それにも関わらず奴は続けて言った。もちろんさらにキザっぽく。
「ああ、あなたが人違いだなんて思いたくないな」
奴の計画として完璧だったのだろう。すごく自信ありげではあった。だがそのとたん、彼女はプッと吹き出してしまったのだ。そしてすぐにバッグの中から鏡を取りだして、やおら奴に向けたのだった。鏡と相談してからにしてくれということなんだろう。しゃれたことをするじゃないか。お主できるな。女にしておくには勿体ないほどのセンスの良さ。でもその時の奴のしおれた顔は、今思い出しても愉快である。
そしてその翌日。学校で二人歩いていると、いきなり後ろで女性の声がした。
「もしもし、そこをゆくお方。ちょっと振り返ってくださいませぬか」
そこで何気なく二人振り返ってみると、奴の目の前に突き出された鏡。ギャッと言って奴は走り出した。見ると確かに昨日の女性。しかも着ている制服はまぎれもなく俺たちと同じ学校の制服。俺としたことがうかつだった。
でも俺の知らない女生徒だったのは無理もなかった。彼女こそ俺を無視していた青木マリ子その人であり、そんな縁もあって今はあいつが俺の秘書をするようになったのだ。浩二の奴はそれ以来マリ子が苦手である。
そんな奴だけど、根はすごく真面目な奴なんだ。もっとも本人にしてみればやってるころすべて真面目にやっているつもりなんだろう。そんなわけで奴に相談すれば何か良い方法を教えてくれるかも知れない。あんな奴でも、決めるところはきちんと決める奴だから。
今までだって相談すればいつも鋭いところを指摘してくれていたものだった。だから今度もと考えた俺が少し甘かったのだろうか。