いきけんこう!

生き健康、意気兼行、粋健康、意気軒昂
などを当て字にしたいボケ封じ観音様と
元気印シニアとの対話。

佐原の町 その3 杜氏と映画監督との絆

2008-04-17 10:51:50 | 散策
お江戸みたけりゃ、佐原へござれ、佐原本町江戸まさり

里謡に歌われるほど経済的な繁栄をしていた佐原、現在も2軒の蔵元が製造・販売をしています。

徳川綱吉が統治していた天和年間(1681~1684)創業の馬場本店、将軍が家斉の文政8(1825)年に創業した東薫酒造株式会社です。

日本酒の醸造(じょうぞう)を行う際の責任者の役職を杜氏(とうじ)と称し、蔵の管理や醪(もろみ)の仕込みと管理が仕事で、杜氏は青森から長崎まで各地に分布しており、18から20あるのはご存知と思います。

さて、東薫酒造株式会社の杜氏は、及川恒男氏です。
南部杜氏は、越後、丹波、但馬と並ぶ三大杜氏のひとつに数えられ、400名の杜氏で構成されています。及川恒男氏は南部杜氏協会長を務め、全国酒造杜氏連合会長も兼務している人物です。

及川杜氏の「叶・かのう」は東薫(とうくん)を代表する大吟醸酒です。
大吟醸(夢とまぼろしの物語)、吟醸二人静、吟醸二人静(生貯蔵酒)、卯兵衛(うへえ)の酒(地元特別契約栽培米吟醸)、夢童(むどう:特別純米無濾過)の銘柄があり、どぶろく酒「十冨禄酒」もあります。

東薫について詳しく紹介したのは、酒蔵見学のガイドをしてくれた研修生の真摯でひたむきな姿勢への恩返しです。
路ひとつ隔てたところに蔵元・馬場本店があっても、今回は立ち寄らなかったのですが、大吟醸・海舟散人が自慢の清酒になっています。これは、江戸末期から明治にかけた時期に、勝海舟がここへ逗留したとの記録が残っており、それに因んだ銘柄のようです。

大吟醸(夢とまぼろしの物語)のラベル(写真)に描かれているのは、黒澤明直筆の絵が元になっていると説明をしてくれた研修生が、舌触りのよい麹粒が残っている「十冨禄酒」から始めた大吟醸酒各銘柄の試飲を勧めてくれたのです。しかも、銘柄ボトルの写真を思いのままに撮らせてくれましたし、黒澤明について雑談をしているうちに親しみを感じたことも、東薫紹介に拍車をかけています。

彼女の説明によれば、黒澤監督の「夢」に登場する人物を描いたとのことでした。
黒澤監督自身の夢をモチーフにした8つの短編からなる作品が「夢」、その第三話・雪あらしに登場する雪女(原田美枝子)、第7話・鬼哭(きこく)の鬼(いかりや長介)ともイメージが違います。「乱」の一文字秀虎(仲代達矢)のほうが相応しい。

三人の息子に家督を譲ろうとした秀虎は、骨肉を争う肉親同士の権力闘争に巻き込まれ、三男・三郎を頼って生き延びる術しかなくなってしまう。その三郎が銃弾に倒れると、絶望のどん底に堕ちた秀虎は半狂乱になり野垂れ死にをする。

そのような苦境に陥った秀虎の表情がラベルに描かれています。
大吟醸の銘柄に「夢とまぼろしの物語」と命名したのは、及川杜氏なのか黒澤監督なのかは分かりませんが、黒澤監督が吟醸酒のラベルに秀虎を描いた。興味を覚える話です。

黒澤映画おたくを自認する元気印にとって、黒澤明氏と及川恒男氏との交流は新しい発見であり、驚きでもありました。

「面白い映画を創る」映画監督と「良い酒を造る」杜氏との間には、「ものづくり」同士だけが共感する、常人には会得できない情感があって、それは、一度これと決めたら、何があっても成果を得るまで初志を貫き通す頑固さ、かも知れません。

面白い映画とは、良い酒とは・・・。
その本質を自問自答しながら探究する飽くなき拘りと、それに伴う障害を克服するための衰えを知らない異常なまでの闘争心、パイオニア・スピリットに共鳴する琴線があるのでしょう。


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