一輝は闇の中に立ち尽くしていた。
――おのれ、猫の分際で…。
一輝は奥歯を噛み締め、ついさっきまで目の前で、硬い身体を不安定に伸ばし、グルーミングをしていた猫の姿を思い出していた。
猫は不安定ながらもバランスを保ち、決して一輝から眸をそらそうとはしなかった。
一輝に怨みを買っていると承知している猫は、自分が襲われないために、一輝に視線を据えているのかと思っていたら、違っていた。
猫は一輝を睡眠不足に陥らせ、そうしながら、一輝になにか良から術を掛けていたに違いなかった。
――出てこい、化猫ッ。
これまで妙な猫だと思っていたが、聖闘士に術を欠けるようではもういけない。叩きだす肚を、一輝は固めた。
――ワシは化猫ではないぞ、そして、猫でもない…。
しわがれた老人のような声に、一輝は肩越しに振り返り、目を見張った。
いつからそこにいたのか――?
気配すらも感じさせず背後に立っている老人を、一輝は知っていた。
――貴方は、いつかの…。
一輝は老人に向き直った。
何ヶ月か前…一輝は複数の若者に暴行を受けていた老人を助けたことがあった。
異国情緒のあふれるボロを纏っていた、小柄で小汚い老人は礼だと言って、なにかの果実を一輝にくれた。
老人は“その実を意中の人間にそませれば、望が叶う”というようなことを言い、何処かへと歩き去った。
一輝はソバの実を思わせる果実と、老人が消えていった空間を見比べ、やがて、ものは試しと、たまたま傍らを通りかかった氷河に飲ませることにした。
効果は覿面(てきめん)であった。
いつもは押し倒すのにも苦労する氷河が、そのときは自ら一輝の服を引き裂き、一輝を求めた。
だが、その効果の持続時間は、あまりにも短かった。
氷河は自分が満足すると、忽ち己を取り戻し、代わりに自ら一輝を求めたことを忘れ、服を破かれたままの一輝を放置して去ってしまった。
ために、一輝は街中のあちこちに仕掛けられている監視カメラや、自宅マンションに設置されているカメラに用心しながら帰宅を強いられたという――苦いながらも夢のような1夜を過ごしたのだった。
「続く」
――おのれ、猫の分際で…。
一輝は奥歯を噛み締め、ついさっきまで目の前で、硬い身体を不安定に伸ばし、グルーミングをしていた猫の姿を思い出していた。
猫は不安定ながらもバランスを保ち、決して一輝から眸をそらそうとはしなかった。
一輝に怨みを買っていると承知している猫は、自分が襲われないために、一輝に視線を据えているのかと思っていたら、違っていた。
猫は一輝を睡眠不足に陥らせ、そうしながら、一輝になにか良から術を掛けていたに違いなかった。
――出てこい、化猫ッ。
これまで妙な猫だと思っていたが、聖闘士に術を欠けるようではもういけない。叩きだす肚を、一輝は固めた。
――ワシは化猫ではないぞ、そして、猫でもない…。
しわがれた老人のような声に、一輝は肩越しに振り返り、目を見張った。
いつからそこにいたのか――?
気配すらも感じさせず背後に立っている老人を、一輝は知っていた。
――貴方は、いつかの…。
一輝は老人に向き直った。
何ヶ月か前…一輝は複数の若者に暴行を受けていた老人を助けたことがあった。
異国情緒のあふれるボロを纏っていた、小柄で小汚い老人は礼だと言って、なにかの果実を一輝にくれた。
老人は“その実を意中の人間にそませれば、望が叶う”というようなことを言い、何処かへと歩き去った。
一輝はソバの実を思わせる果実と、老人が消えていった空間を見比べ、やがて、ものは試しと、たまたま傍らを通りかかった氷河に飲ませることにした。
効果は覿面(てきめん)であった。
いつもは押し倒すのにも苦労する氷河が、そのときは自ら一輝の服を引き裂き、一輝を求めた。
だが、その効果の持続時間は、あまりにも短かった。
氷河は自分が満足すると、忽ち己を取り戻し、代わりに自ら一輝を求めたことを忘れ、服を破かれたままの一輝を放置して去ってしまった。
ために、一輝は街中のあちこちに仕掛けられている監視カメラや、自宅マンションに設置されているカメラに用心しながら帰宅を強いられたという――苦いながらも夢のような1夜を過ごしたのだった。
「続く」