一輝は不機嫌も顕な表情で、ビールで濡れた床を雑巾で拭いていた。
――この一輝様に、よくも、こんな真似を…。
不死鳥星座の聖闘士である一輝に雑巾掛けを強要するのは、白鳥星座の聖闘士・氷河ぐらいのものであった。
「くッ」
一輝はバケツに雑巾を浸し、濯ぎながら、今頃はシャワーを浴びているであろう、バカ猫の姿を想い描き、奥歯を噛み締めた。
すべての元凶は、あの猫であった。
猫は気持よくビールを飲んでいる一輝の手からビールを叩き落とし、わざとビールを全身に浴びたのだ。
あのまま放っておいたら、テーブルに零れたビールも舐めていたに違いないのだ。
その猫が、一輝に雑巾掛けをさせ、シャワーを浴びているのだ。
それも、氷河の給仕で――。
氷河の裸など一輝ですら、暫くお目にかかっていないのだ。
大体、城戸沙織がなっていない。
氷河がロシア語に流暢なのをよいことに、ロシア企業との会談の場に、氷河を連れて行く。
聖闘士とは女神を護るもので、グラード財団を護るものではない。
だが、それを口に出す事はできない。
城戸沙織は、ギリシャの女神・アテナの化身――。
地上の愛と正義を護るのが女神の努めであった。
1企業の総帥などを、務めていていい身ではないのだ。
聖戦を終え、沙織はグラード財団創設者・城戸光政の身内に財団を引き継がせ、自らはギリシャで地上を統べる女神としての、真の在り方に戻りたいと考えている。
聖闘士を仕事に狩りだすことに苦情を言えば、女神を仕事に狩りだしている貴方達はなんなのです?
となる。
必ず、そう出る。
アテナは降臨して間もなく、自身に降りかかった災難から救い出してくれただけに留まらず、実子たちを聖闘士とすべく、世界各地に送り出してくれた光政に恩義がるから、グラード財団の総帥を続けてくれているに過ぎない。
沙織は隙あらば、青銅聖闘士たちに、事業の引き継ぎをさせようとしている。
パーティ等に駆り出されたとき、沙織が、妙な目をして一輝たちを見つめているときがある。
不穏な気配を感じるから、瞬も星矢も、沙織とは目を合わさない。
紫龍など、五老峰から出ないばかりか、師である天秤座の黄金聖闘士・童虎(ドウゴ)が座していた、盧山の大瀑布の傍らの岩に座したまま、微動だにしない。
当然、一輝も沙織は避けまくる。
だが、氷河はあっさりと捕らわれる。
沙織に通訳と、ロシア語で届けられた文章を訳して欲しいと依頼されると「はい」と、頷いてしまう。
財団は現地に法人を置き、ロシアの人間も雇用しているのだから、訳など社員にさせれば良いのだ。通訳にも、同じ事がいえる。
しかし、ボディガード兼通訳といわれると頷き、沙織の口から直接、機密性の高い書類だからと、和訳を頼まれれば、渡された書類を全て持ち帰ってしまう。
そして、部屋に篭ってしまう。
しかし、高速の拳をも放つ聖闘士が寝不足になるなど、どれ程の量の仕事を氷河に押し付けているのかと、一輝は訝る。
――この一輝様に、よくも、こんな真似を…。
不死鳥星座の聖闘士である一輝に雑巾掛けを強要するのは、白鳥星座の聖闘士・氷河ぐらいのものであった。
「くッ」
一輝はバケツに雑巾を浸し、濯ぎながら、今頃はシャワーを浴びているであろう、バカ猫の姿を想い描き、奥歯を噛み締めた。
すべての元凶は、あの猫であった。
猫は気持よくビールを飲んでいる一輝の手からビールを叩き落とし、わざとビールを全身に浴びたのだ。
あのまま放っておいたら、テーブルに零れたビールも舐めていたに違いないのだ。
その猫が、一輝に雑巾掛けをさせ、シャワーを浴びているのだ。
それも、氷河の給仕で――。
氷河の裸など一輝ですら、暫くお目にかかっていないのだ。
大体、城戸沙織がなっていない。
氷河がロシア語に流暢なのをよいことに、ロシア企業との会談の場に、氷河を連れて行く。
聖闘士とは女神を護るもので、グラード財団を護るものではない。
だが、それを口に出す事はできない。
城戸沙織は、ギリシャの女神・アテナの化身――。
地上の愛と正義を護るのが女神の努めであった。
1企業の総帥などを、務めていていい身ではないのだ。
聖戦を終え、沙織はグラード財団創設者・城戸光政の身内に財団を引き継がせ、自らはギリシャで地上を統べる女神としての、真の在り方に戻りたいと考えている。
聖闘士を仕事に狩りだすことに苦情を言えば、女神を仕事に狩りだしている貴方達はなんなのです?
となる。
必ず、そう出る。
アテナは降臨して間もなく、自身に降りかかった災難から救い出してくれただけに留まらず、実子たちを聖闘士とすべく、世界各地に送り出してくれた光政に恩義がるから、グラード財団の総帥を続けてくれているに過ぎない。
沙織は隙あらば、青銅聖闘士たちに、事業の引き継ぎをさせようとしている。
パーティ等に駆り出されたとき、沙織が、妙な目をして一輝たちを見つめているときがある。
不穏な気配を感じるから、瞬も星矢も、沙織とは目を合わさない。
紫龍など、五老峰から出ないばかりか、師である天秤座の黄金聖闘士・童虎(ドウゴ)が座していた、盧山の大瀑布の傍らの岩に座したまま、微動だにしない。
当然、一輝も沙織は避けまくる。
だが、氷河はあっさりと捕らわれる。
沙織に通訳と、ロシア語で届けられた文章を訳して欲しいと依頼されると「はい」と、頷いてしまう。
財団は現地に法人を置き、ロシアの人間も雇用しているのだから、訳など社員にさせれば良いのだ。通訳にも、同じ事がいえる。
しかし、ボディガード兼通訳といわれると頷き、沙織の口から直接、機密性の高い書類だからと、和訳を頼まれれば、渡された書類を全て持ち帰ってしまう。
そして、部屋に篭ってしまう。
しかし、高速の拳をも放つ聖闘士が寝不足になるなど、どれ程の量の仕事を氷河に押し付けているのかと、一輝は訝る。