昔、ある女性がいました。
綺麗で背が高く、とてもお洒落な人でした。
知り合いと言うよりは、お母さん同士の集まりでたまに会う程度。
会ったら挨拶をする程度の関係でした。
ある日の集まりで、隣の席に座ったときに、初めて話をしたのですが
人の話を聞くよりも、自分や自分の子供の話をするのが好きらしく
私は、自分のことや、自分の子供の話しをする方ではなかったので
彼女の話を、うんうんと聞いている感じの会話だったのですが
それでも、時々、会話の中に妙な不自然さがあり
(あれ?この人…?)
と、微かに感じるものがあったのですが
それでも、得に不愉快な感じはしなかったし
隣に座って話している時間も長くはなかったので(それでも2時間ほど)
その日は、そのまま普通に別れました。
その後も、何度か会う機会があり、会えばやはり挨拶を交わしていたし
時間があれば、軽く立ち話などもしていたのですが
やはり、いつも、「特に気にならない程度の」違和感がありました。
そして彼女は、少しずつ集まりに参加することが減り
やがて、彼女の言動を否定するような噂と共に
彼女を見掛けることもなくなりました。
でも、もともと、そんなに親しい人ではなかったので
個人的に連絡を取り合うこともなかったし
子育てに忙しい生活の中では、正直彼女の存在さえ忘れていました。
ある日、お母さん方が、彼女の噂をしているのが聞こえてきました。
「話が一方的だし、言ってることがころころ変わる」
「ナントカさんの仕事先まで現れて、言いたい放題言っていたらしい」
「迷惑な人」
私が感じていた小さな違和感が、確実なものとなり
その違和感は、漠然とした不安に変わりました。
そして、暫く経ってから
彼女が、いなくなったことを知りました。
知的障がいをもった子供を抱え、ご主人は単身赴任。
実家は遠くて、なかなか帰れないと言っていたっけ。
育児で疲れても、お母さん1人。
なかなか意志の疎通を計れない子供にイライラしても、お母さん1人。
相談したくても、やつ当たりしたくても、ご主人は不在。
そしてとうとう、彼女は、子供とご主人を残して、いってしまいました。
環境が彼女を追い詰めたのかもしれない。
そうではなくて、もともと何か要素を持っていた人なのかもしれない。
いなくなったら、それもこれも、分からなくなってしまったじゃないか。
その後の集まりで、私は愕然としました。
もういない、もう決して会うことのない彼女の噂は
やっぱり否定的で、悪意的でした。
「親しかったわけじゃない」
私は、それを言い訳にして、沈黙を押し通しました。
別に、私になにか出来たわけではないし
そのときは、自分自身と子供のことで精一杯。
誰も私を責めないし、責められる理由もない。
でも、あのときの、何とも言えない腹立ちを
私は、絶対に忘れない。
さっちゃんのソフトエアロビは、毎週火曜日に、区の体育館で行われます。
知的障がいをもつお母さんたちが作っている団体が運営しているもので
私は、その団体の会員ではないのですが
「昔からの知り合い」ということで、仲間に入れてもらっています。
運動不足になりがちな子供たちと、運動を楽しもうというのが目的で
実際に、自分が参加していても楽しいし
子供たちの個性溢れる動きには、毎週へらへらと癒されています。
そのソフトエアロビに、さっちゃんと同じ施設に通う、Oくんという男の子が
数ヶ月に一度、ふらりと現れては、参加して行きます。
数年前に、お母さんと一緒に見学に来て、少しだけ通っていたけれど
ほんの少しだけ通って、直ぐにやめてしまったのだそうです。
でも、私が毎週火曜日にジャージ姿で施設へお迎えに現れるので
急に、ソフトエアロビのことを思い出すのでしょうか。
私たちが体育館へ着くと、Oくんはもう既に着いていて
「あ、さとみちゃんと、さとみちゃんのお母さんだ」
なんて、さもさも偶然のように言うのですが
その、まるで棒読みの台詞の様な言い方が面白い。
そして、彼はソフトエアロビに参加して、終わるとすっと帰り。
翌週に現れるのかと思うと、また来ない。
暫く来ない。
数ヶ月単位で来ない。
そして、また気が向いた時に、ふっと現れ、参加して、そして帰る。
実は、このソフトエアロビには、お月謝というものが存在していて
私たちは、月一定額のお月謝を納めて参加しています。
体調が悪かったり、用事があって休んだりしても
当然、そのお月謝は支払います。
ところが、Oくんは、ふらっと現れて、すっと帰ってしまうので
お月謝が…。
最初のうちは、他のお母さんも「?」という表情を浮かべながらも
誰も、何も言わずにOくんの参加を受け流していたのですが
数ヶ月に1度とはいえ、それが何度も重なると
「え?なんで?」という思いが、表情に出てきます。
更に回数が重なると、その表情は険しくなってくるし
口もぶつぶつ言い始めます。
ところが、悲しいかな、Oくんは、その障がいゆえに
そういった、ぴりぴりした雰囲気を感じ取ることが出来ず
相手の感情を、その表情から読み取ることも苦手です。
このため、体育館全体に微妙な空気が漂う中でも
Oくんは、元気にソフトエアロビに参加して、すっと帰って行きます。
Oくんが帰ってから、お母さんたちのトゲトゲ感は一層増します。
そして、そのトゲトゲの矛先は、Oくんのお母さんに向けられます。
「親は一体、なにを考えているんだろうね」
私が、もう何年も私自身に突きつけられ
聞き飽きるほど聞いてきた言葉です。
先週の火曜日に、さっちゃんと私が体育館へ到着すると
Oくんが、ホールの椅子に座っていました。
「あ、さとみちゃんと、さとみちゃんのお母さんだ」
だから、棒読みだってば。
「今日は、どうしたの?」
念のために聞いてみると、Oくんは答えました。
「エアロビにきたの」
「あのね」
私は、Oくんに言いました。
「ここのエアロビは、みんなが先生にお金を払って参加しているの
でも、Oくんはいつもお金を払わずに帰ってしまうけど
それは、本当はいけないことなんだよ」
Oくんの言語理解能力が、どのくらいなのか分からないので
多少ダイレクトでも、簡単な言葉を選ぶようにして話します。
「ぼく、お金持ってるよ」
「お金を持っているかもしれないけれど
Oくんのお母さんが、エアロビに行っても言いよって言わないと
おばさんは、お金をもらえないの」
Oくんは、困ったような顔をして、私に言いました。
「じゃあ、ぼくどうしたらいいの?」
ここまできて逃げるな、自分。
「今日は、このままおうちに帰りなさい」
Oくんの顔が、悲しそうな表情に変わりました。
「そして、お母さんに、エアロビに行ってもいいか話してみてくれる?
それで、お母さんが行ってもいいよって言ってくれたら
おばさんに電話して欲しいの」
私は、私の携帯電話の番号を書いたメモを渡しました。
「おばさんの言っていること、わかるかな?」
「わかる」
「ごめんね、本当は、もっと早く言わなきゃならなかったんだけど
おばさんも、他のお母さんたちも、ずっと言わないでいたの
だから、おばさんたちも悪いの」
本当に、ごめんね。
「ぼく、帰ったほうがいいの?」
「うん、今日は帰ったほうがいいと思う
そして、お母さんとお話してみてくれるかな」
「わかった」
そして、Oくんは帰って行きました。
Oくんがどんな子か、知っていたはずなのに。
傷つけてしまった。
そして、私は直ぐにさっちゃんの施設の職員のAさんに連絡を入れて
さっきあったことを、洗いざらい伝えました。
Oくんの明日の様子も心配だったからです。
Aさんは、傍にいた男性職員にそのことを伝え
2人でどうしたら良いかと対策を練り
Oくんのお母さんに、連絡を取ることにしてくれました。
親同士のトラブルを避けるために、私の名前は出さずに
施設で得た情報としての確認と言う形で話してくれたそうです。
いやいや、でも携帯電話の番号書いちゃったから
そのメモを見たら誰から出た情報かバレバレだよとは思いましたが
良い方向に流れてくれるのを祈るしかありません。
ソフトエアロビ終了後、他のお母さんにも今日のことを伝えました。
出来れば、数ヶ月に1度ペースのOくんが参加しやすいように
1回いくらという方法も考えてもらえないかと話したのですが
お母さんたちから、それでは平等ではないと反論され
それも分からないでは無いけれど、Oくんのペースを考えると
毎月一定額のお月謝も、ちょっとどうなんだと頑張ってみたら
取り敢えず、他のお母さんたちとも相談してみると言われました。
こっちも、良い方向に流れてくれるのを祈るしかありません。
なんでもかんでも祈られる方は、たまったものではありませんね。
「さっき祈ったくせに、またかよ!」
って、おこらりそう。
しかし、どうもスッキリしない。
本当にあれで良かったのだろうか。
私の言い方は、Oくんを混乱させるようなことはなかったのだろうか。
なんだかんだ言っても、私は所詮素人で、ただのおっかさんです。
こういう時は、あの秘密グッズ(?)を呼び出そう!
と、言うわけで、さっちゃんの中学時代の担任の先生であり
いまだに担任扱いをしている I 先生に、連絡をしてみました。
Oくんは、さっちゃんと同じ中学校を卒業しているので
I 先生は、Oくんも、Oくんのご両親も知っているのです。
ここでも、大岡越前の前に召し出された罪人の様に、洗いざらいぶちまけ
Oくんに、言いたいことはきちんと伝わったのだろうか
果たして、Oくんのお母さんに、私の思いは伝わるのかと聞いたらば
「Oくんの場合は、あまり色々言うと余計に混乱させてしまうから
簡潔に、『お月謝を納めないと、エアロビはできません』
と、言ったほうが、良かったかもしれないね」
えええーーー!あれでも言葉が多すぎたの?
もっとざっくりで良かったの?
目からウロコが、ざらざらざらと零れ落ちていきました。
実際、もしかしたらそうなのかもしれない。
Oくんに、きちんと向き合わなければと思いながらも
どこかで、自分が嫌な人になりたくないと思って
柔らかい感じを意識していなかったかと言えば(←表現がややこしいな)
そこは、自分でも否定できないのです。
ああ、いやらしい、いやらしい。
でも、お陰でスッキリしました。
いつもありがとう、 I 先生!
後日談になりますが、施設から連絡を受けたお母さんは
特に大騒ぎするようなことはなく
Oくんがソフトエアロビに参加することには了解しながらも
Oくんの、数ヶ月に1度というペースを考えると
出来れば、1回ごとの参加費だと助かると言っていたとのことで
昨日の火曜日、またトゲトゲさんたちと話をすることになりました。
トゲトゲさんたちは、実はOくんのお母さんのことをご存知で
(この世界は広くて狭いのです)
「なんだかお高くとまった感じの人」である(らしい)Oくんのお母さんに
「お母さんの方から連絡をくれるのが筋でしょう」
などと、「案の定」ごちゃごちゃ言い出したので
「まあ、それはそれで仕方がないですから」
と、話をぶった切り(時間は有効に使いたいのです)
参加費、1回いくらで押し通してやりました。
途中、1番トゲトゲなお母さんが
「やっぱりね、私から直接電話した方がいいんじゃないかしら」
と、余計ややこしいことになりそうなことを言い出したので
「既に施設の職員さんが、親御さんと連絡を取ってくれているので
職員さんにお任せした方がスムーズかもしれませんね」
と、言ったら、そのお母さんは、嫌味たっぷりに、こう言いました。
「私がしゃしゃり出たら、ややこしくなるかしらね」
私は、にっこりと微笑んで
「いえいえ、わざわざ面倒な思いをすることはありませんよ」
ぶった切り~。
あのときの、あの思いを忘れちゃいけない。
多少揉めても、多少敵を増やしたとしても、あんな思いをするよりはマシだ。
綺麗で背が高く、とてもお洒落な人でした。
知り合いと言うよりは、お母さん同士の集まりでたまに会う程度。
会ったら挨拶をする程度の関係でした。
ある日の集まりで、隣の席に座ったときに、初めて話をしたのですが
人の話を聞くよりも、自分や自分の子供の話をするのが好きらしく
私は、自分のことや、自分の子供の話しをする方ではなかったので
彼女の話を、うんうんと聞いている感じの会話だったのですが
それでも、時々、会話の中に妙な不自然さがあり
(あれ?この人…?)
と、微かに感じるものがあったのですが
それでも、得に不愉快な感じはしなかったし
隣に座って話している時間も長くはなかったので(それでも2時間ほど)
その日は、そのまま普通に別れました。
その後も、何度か会う機会があり、会えばやはり挨拶を交わしていたし
時間があれば、軽く立ち話などもしていたのですが
やはり、いつも、「特に気にならない程度の」違和感がありました。
そして彼女は、少しずつ集まりに参加することが減り
やがて、彼女の言動を否定するような噂と共に
彼女を見掛けることもなくなりました。
でも、もともと、そんなに親しい人ではなかったので
個人的に連絡を取り合うこともなかったし
子育てに忙しい生活の中では、正直彼女の存在さえ忘れていました。
ある日、お母さん方が、彼女の噂をしているのが聞こえてきました。
「話が一方的だし、言ってることがころころ変わる」
「ナントカさんの仕事先まで現れて、言いたい放題言っていたらしい」
「迷惑な人」
私が感じていた小さな違和感が、確実なものとなり
その違和感は、漠然とした不安に変わりました。
そして、暫く経ってから
彼女が、いなくなったことを知りました。
知的障がいをもった子供を抱え、ご主人は単身赴任。
実家は遠くて、なかなか帰れないと言っていたっけ。
育児で疲れても、お母さん1人。
なかなか意志の疎通を計れない子供にイライラしても、お母さん1人。
相談したくても、やつ当たりしたくても、ご主人は不在。
そしてとうとう、彼女は、子供とご主人を残して、いってしまいました。
環境が彼女を追い詰めたのかもしれない。
そうではなくて、もともと何か要素を持っていた人なのかもしれない。
いなくなったら、それもこれも、分からなくなってしまったじゃないか。
その後の集まりで、私は愕然としました。
もういない、もう決して会うことのない彼女の噂は
やっぱり否定的で、悪意的でした。
「親しかったわけじゃない」
私は、それを言い訳にして、沈黙を押し通しました。
別に、私になにか出来たわけではないし
そのときは、自分自身と子供のことで精一杯。
誰も私を責めないし、責められる理由もない。
でも、あのときの、何とも言えない腹立ちを
私は、絶対に忘れない。
さっちゃんのソフトエアロビは、毎週火曜日に、区の体育館で行われます。
知的障がいをもつお母さんたちが作っている団体が運営しているもので
私は、その団体の会員ではないのですが
「昔からの知り合い」ということで、仲間に入れてもらっています。
運動不足になりがちな子供たちと、運動を楽しもうというのが目的で
実際に、自分が参加していても楽しいし
子供たちの個性溢れる動きには、毎週へらへらと癒されています。
そのソフトエアロビに、さっちゃんと同じ施設に通う、Oくんという男の子が
数ヶ月に一度、ふらりと現れては、参加して行きます。
数年前に、お母さんと一緒に見学に来て、少しだけ通っていたけれど
ほんの少しだけ通って、直ぐにやめてしまったのだそうです。
でも、私が毎週火曜日にジャージ姿で施設へお迎えに現れるので
急に、ソフトエアロビのことを思い出すのでしょうか。
私たちが体育館へ着くと、Oくんはもう既に着いていて
「あ、さとみちゃんと、さとみちゃんのお母さんだ」
なんて、さもさも偶然のように言うのですが
その、まるで棒読みの台詞の様な言い方が面白い。
そして、彼はソフトエアロビに参加して、終わるとすっと帰り。
翌週に現れるのかと思うと、また来ない。
暫く来ない。
数ヶ月単位で来ない。
そして、また気が向いた時に、ふっと現れ、参加して、そして帰る。
実は、このソフトエアロビには、お月謝というものが存在していて
私たちは、月一定額のお月謝を納めて参加しています。
体調が悪かったり、用事があって休んだりしても
当然、そのお月謝は支払います。
ところが、Oくんは、ふらっと現れて、すっと帰ってしまうので
お月謝が…。
最初のうちは、他のお母さんも「?」という表情を浮かべながらも
誰も、何も言わずにOくんの参加を受け流していたのですが
数ヶ月に1度とはいえ、それが何度も重なると
「え?なんで?」という思いが、表情に出てきます。
更に回数が重なると、その表情は険しくなってくるし
口もぶつぶつ言い始めます。
ところが、悲しいかな、Oくんは、その障がいゆえに
そういった、ぴりぴりした雰囲気を感じ取ることが出来ず
相手の感情を、その表情から読み取ることも苦手です。
このため、体育館全体に微妙な空気が漂う中でも
Oくんは、元気にソフトエアロビに参加して、すっと帰って行きます。
Oくんが帰ってから、お母さんたちのトゲトゲ感は一層増します。
そして、そのトゲトゲの矛先は、Oくんのお母さんに向けられます。
「親は一体、なにを考えているんだろうね」
私が、もう何年も私自身に突きつけられ
聞き飽きるほど聞いてきた言葉です。
先週の火曜日に、さっちゃんと私が体育館へ到着すると
Oくんが、ホールの椅子に座っていました。
「あ、さとみちゃんと、さとみちゃんのお母さんだ」
だから、棒読みだってば。
「今日は、どうしたの?」
念のために聞いてみると、Oくんは答えました。
「エアロビにきたの」
「あのね」
私は、Oくんに言いました。
「ここのエアロビは、みんなが先生にお金を払って参加しているの
でも、Oくんはいつもお金を払わずに帰ってしまうけど
それは、本当はいけないことなんだよ」
Oくんの言語理解能力が、どのくらいなのか分からないので
多少ダイレクトでも、簡単な言葉を選ぶようにして話します。
「ぼく、お金持ってるよ」
「お金を持っているかもしれないけれど
Oくんのお母さんが、エアロビに行っても言いよって言わないと
おばさんは、お金をもらえないの」
Oくんは、困ったような顔をして、私に言いました。
「じゃあ、ぼくどうしたらいいの?」
ここまできて逃げるな、自分。
「今日は、このままおうちに帰りなさい」
Oくんの顔が、悲しそうな表情に変わりました。
「そして、お母さんに、エアロビに行ってもいいか話してみてくれる?
それで、お母さんが行ってもいいよって言ってくれたら
おばさんに電話して欲しいの」
私は、私の携帯電話の番号を書いたメモを渡しました。
「おばさんの言っていること、わかるかな?」
「わかる」
「ごめんね、本当は、もっと早く言わなきゃならなかったんだけど
おばさんも、他のお母さんたちも、ずっと言わないでいたの
だから、おばさんたちも悪いの」
本当に、ごめんね。
「ぼく、帰ったほうがいいの?」
「うん、今日は帰ったほうがいいと思う
そして、お母さんとお話してみてくれるかな」
「わかった」
そして、Oくんは帰って行きました。
Oくんがどんな子か、知っていたはずなのに。
傷つけてしまった。
そして、私は直ぐにさっちゃんの施設の職員のAさんに連絡を入れて
さっきあったことを、洗いざらい伝えました。
Oくんの明日の様子も心配だったからです。
Aさんは、傍にいた男性職員にそのことを伝え
2人でどうしたら良いかと対策を練り
Oくんのお母さんに、連絡を取ることにしてくれました。
親同士のトラブルを避けるために、私の名前は出さずに
施設で得た情報としての確認と言う形で話してくれたそうです。
いやいや、でも携帯電話の番号書いちゃったから
そのメモを見たら誰から出た情報かバレバレだよとは思いましたが
良い方向に流れてくれるのを祈るしかありません。
ソフトエアロビ終了後、他のお母さんにも今日のことを伝えました。
出来れば、数ヶ月に1度ペースのOくんが参加しやすいように
1回いくらという方法も考えてもらえないかと話したのですが
お母さんたちから、それでは平等ではないと反論され
それも分からないでは無いけれど、Oくんのペースを考えると
毎月一定額のお月謝も、ちょっとどうなんだと頑張ってみたら
取り敢えず、他のお母さんたちとも相談してみると言われました。
こっちも、良い方向に流れてくれるのを祈るしかありません。
なんでもかんでも祈られる方は、たまったものではありませんね。
「さっき祈ったくせに、またかよ!」
って、おこらりそう。
しかし、どうもスッキリしない。
本当にあれで良かったのだろうか。
私の言い方は、Oくんを混乱させるようなことはなかったのだろうか。
なんだかんだ言っても、私は所詮素人で、ただのおっかさんです。
こういう時は、あの秘密グッズ(?)を呼び出そう!
と、言うわけで、さっちゃんの中学時代の担任の先生であり
いまだに担任扱いをしている I 先生に、連絡をしてみました。
Oくんは、さっちゃんと同じ中学校を卒業しているので
I 先生は、Oくんも、Oくんのご両親も知っているのです。
ここでも、大岡越前の前に召し出された罪人の様に、洗いざらいぶちまけ
Oくんに、言いたいことはきちんと伝わったのだろうか
果たして、Oくんのお母さんに、私の思いは伝わるのかと聞いたらば
「Oくんの場合は、あまり色々言うと余計に混乱させてしまうから
簡潔に、『お月謝を納めないと、エアロビはできません』
と、言ったほうが、良かったかもしれないね」
えええーーー!あれでも言葉が多すぎたの?
もっとざっくりで良かったの?
目からウロコが、ざらざらざらと零れ落ちていきました。
実際、もしかしたらそうなのかもしれない。
Oくんに、きちんと向き合わなければと思いながらも
どこかで、自分が嫌な人になりたくないと思って
柔らかい感じを意識していなかったかと言えば(←表現がややこしいな)
そこは、自分でも否定できないのです。
ああ、いやらしい、いやらしい。
でも、お陰でスッキリしました。
いつもありがとう、 I 先生!
後日談になりますが、施設から連絡を受けたお母さんは
特に大騒ぎするようなことはなく
Oくんがソフトエアロビに参加することには了解しながらも
Oくんの、数ヶ月に1度というペースを考えると
出来れば、1回ごとの参加費だと助かると言っていたとのことで
昨日の火曜日、またトゲトゲさんたちと話をすることになりました。
トゲトゲさんたちは、実はOくんのお母さんのことをご存知で
(この世界は広くて狭いのです)
「なんだかお高くとまった感じの人」である(らしい)Oくんのお母さんに
「お母さんの方から連絡をくれるのが筋でしょう」
などと、「案の定」ごちゃごちゃ言い出したので
「まあ、それはそれで仕方がないですから」
と、話をぶった切り(時間は有効に使いたいのです)
参加費、1回いくらで押し通してやりました。
途中、1番トゲトゲなお母さんが
「やっぱりね、私から直接電話した方がいいんじゃないかしら」
と、余計ややこしいことになりそうなことを言い出したので
「既に施設の職員さんが、親御さんと連絡を取ってくれているので
職員さんにお任せした方がスムーズかもしれませんね」
と、言ったら、そのお母さんは、嫌味たっぷりに、こう言いました。
「私がしゃしゃり出たら、ややこしくなるかしらね」
私は、にっこりと微笑んで
「いえいえ、わざわざ面倒な思いをすることはありませんよ」
ぶった切り~。
あのときの、あの思いを忘れちゃいけない。
多少揉めても、多少敵を増やしたとしても、あんな思いをするよりはマシだ。