メキシコのサルビアとプラントハンターの物語 No18
メキシコには300種を超えるサルビアがあると言われているが、プリングルはその三分の一ものサルビアの原種を採取した。ミズリー植物園のデータでは、171種のサルビアを採取し、ダブりを除くと91品種もの採取した標本が残されている。
プリングルは、キュー植物園など米国・ヨーロッパの植物園などに植物標本を販売していたので、これらを付け合せるとメキシコのサルビアの三分の一以上を採取していて、メキシコ原産サルビアの最高のコレクションを残した。
しかし、現在では栽培されていない或いは現存していないサルビアも結構ある。どんなサルビアなのかを説明できないものが結構あるが、可能な限り調べてみようと思い、何回かに分けて記載する。
1.Salvia aspera M. Martens & Galeotti (1844).

(出典)Robin’s Salvias
このシリーズNo8に紹介したベルギーのガレオッティ(Galeotti, Henri Guillaume 1814-1858)が1840年にメキシコで採取したのが最初で、プリングルは大分遅れた1895年11月にメキシコシティの南方向にあるプエブラ州で採取した。
「サルビア・マドレンシス(Salvia madrensis)」同様に、サルビアとしては珍しい明るい黄色の花で希少価値があるが、あまり普及していないようだ。
ちょっと脱線をしてメキシコ原産の植物と料理の関係を眺めてみる。
メキシコ料理の代表“モーレ”の由来
プエブラは、メキシコシティとベラクルーズを結ぶ幹線上にあり、今ではメキシコ料理の代表的ソース“モーレ・ポブラーノ”の産地として知られる。
プエブラのモーレ発祥の由来は、サンタ・モニカ修道院の修道女が美食家の司教のために作ったソースといわれている。
その材料は、何種類かの唐辛子、トマト、アーモンド、ピーナッツ、クルミ、ゴマ、干しぶどう、チョコレート、パン、トルティージャ(トウモロコシの粉を薄く伸ばして焼いたもの)、タマネギ、ニンニク、コショウ、シナモン、砂糖、ラード、月桂樹の葉など。これらをすりつぶし弱火で時間をかけて炒め、鶏肉の汁で伸ばしソースにしたもの。
この食材の中で、メキシコ原産の野菜・果実は、唐辛子、トマト、トウモロコシ、チョコレートの原料となるカカオであり、ピーナッツは南米アンデスが原産地でありコロンブスがヨーロッパにもたらした。
モーレは、ヨーロッパの調理法と味覚、そして、メキシコ原産の食材が出会って完成した料理でもあるといえそうだ。
2.Salvia ballotiflora Benth. (1833). サルビア・バロティフローラ

(出典)thedauphins
1833年に英国の植物学者ベンサム(Bentham, George 1800-1884)によって命名されているので、最初の採取者は不明。1848年にグレッグ(Josiah Gregg 1806-1850)、1898年北部メキシコにあるコアウイラ州でパーマー、そして、1900年4月17日にプリングルもコアウイラ州で採取している。
Blue Sageとも呼ばれ、四角い枝で芳しい香りのする60-180cmの潅木。葉はコモンセージのようにギザギザで青紫の花が咲く。乾燥させた葉は、肉類に風味をつけるために使われる。
3.Salvia brachyodonta Briq. (1898).
(写真)プリングルが採取した植物標本

(出典)米国国立樹木園
メキシコ南西部に位置するハリスコ州(Jalisco)の州都グアダラハラ付近の丘陵地の斜面で1889年9月27日にプリングルが採取。
偶然にプリングルが採取したこのサルビアの標本を見つけたが、実物の写真は見つけられなかったので、どんなサルビアなのか良くわからない。
4. Salvia cardinalis Kunth (1818). ≒ Salvia fulgens Cav.(1791) サルビア・フルゲンス
(写真) Salvia fulgens (syn. S. cardinalis)

(出典) Robin’s Salvias
サルビア・カーディナリスは、フンボルト探検隊の植物学者・プラントハンター、ボンプランによって採取され、探検隊の標本を整理していたドイツの植物学者クンツ(Kunth, Karl(Carl) Sigismund 1788-1850)によって1818年に命名された。
プリングルもこのサルビアを1892年9月にメキシコの3000mを越える高地で採取した。
しかしこのサルビアは、1791年にスペインの植物学者カバニレス(Cavanilles, Antonio José 1745 - 1804)によって「Salvia fulgens Cav.(1791)」と命名されていたので先決めが優先される。
草丈150㎝程度で、大きな真っ赤な花が7-11月まで開花する素晴らしいサルビア。
5. Salvia chapalensis Briq. (1898). サルビア・チャパレンシス

(出典) flickr.com
サルビア・チャパレンシスは、1892年11月22日にプリングルがハリスコ州にあるメキシコ最大の淡水湖チャパラ湖付近の豊かに茂った峡谷で採取した。これが最初の発見・採取で発見場所の湖の名前を名付けた。
花序を伸ばしそこに濃い目のブルーが美しい花が咲く。
6. Salvia clinopodioides Kunth (1818). サルビア・クリノポディオイデス

(出典)Robin’s Salvias
ヨーロッパ人での最初の採取者は、フンボルト探検隊の植物学者・プラントハンターのボンプランが1800年代の初めに採取していたが、プリングルは、1892年10月11日にメキシコ南西部太平洋岸のミチョアカン州Pátzcuaroでこのサルビア・クリノポディオイデスを採取した。
初期の頃はサルビア“ミチョアカンブルー”として知られていて、9月から渦巻状の半穂に美しいブルーの花が咲く。
(次回に続く)
メキシコには300種を超えるサルビアがあると言われているが、プリングルはその三分の一ものサルビアの原種を採取した。ミズリー植物園のデータでは、171種のサルビアを採取し、ダブりを除くと91品種もの採取した標本が残されている。
プリングルは、キュー植物園など米国・ヨーロッパの植物園などに植物標本を販売していたので、これらを付け合せるとメキシコのサルビアの三分の一以上を採取していて、メキシコ原産サルビアの最高のコレクションを残した。
しかし、現在では栽培されていない或いは現存していないサルビアも結構ある。どんなサルビアなのかを説明できないものが結構あるが、可能な限り調べてみようと思い、何回かに分けて記載する。
1.Salvia aspera M. Martens & Galeotti (1844).

(出典)Robin’s Salvias
このシリーズNo8に紹介したベルギーのガレオッティ(Galeotti, Henri Guillaume 1814-1858)が1840年にメキシコで採取したのが最初で、プリングルは大分遅れた1895年11月にメキシコシティの南方向にあるプエブラ州で採取した。
「サルビア・マドレンシス(Salvia madrensis)」同様に、サルビアとしては珍しい明るい黄色の花で希少価値があるが、あまり普及していないようだ。
ちょっと脱線をしてメキシコ原産の植物と料理の関係を眺めてみる。
メキシコ料理の代表“モーレ”の由来
プエブラは、メキシコシティとベラクルーズを結ぶ幹線上にあり、今ではメキシコ料理の代表的ソース“モーレ・ポブラーノ”の産地として知られる。
プエブラのモーレ発祥の由来は、サンタ・モニカ修道院の修道女が美食家の司教のために作ったソースといわれている。
その材料は、何種類かの唐辛子、トマト、アーモンド、ピーナッツ、クルミ、ゴマ、干しぶどう、チョコレート、パン、トルティージャ(トウモロコシの粉を薄く伸ばして焼いたもの)、タマネギ、ニンニク、コショウ、シナモン、砂糖、ラード、月桂樹の葉など。これらをすりつぶし弱火で時間をかけて炒め、鶏肉の汁で伸ばしソースにしたもの。
この食材の中で、メキシコ原産の野菜・果実は、唐辛子、トマト、トウモロコシ、チョコレートの原料となるカカオであり、ピーナッツは南米アンデスが原産地でありコロンブスがヨーロッパにもたらした。
モーレは、ヨーロッパの調理法と味覚、そして、メキシコ原産の食材が出会って完成した料理でもあるといえそうだ。
2.Salvia ballotiflora Benth. (1833). サルビア・バロティフローラ

(出典)thedauphins
1833年に英国の植物学者ベンサム(Bentham, George 1800-1884)によって命名されているので、最初の採取者は不明。1848年にグレッグ(Josiah Gregg 1806-1850)、1898年北部メキシコにあるコアウイラ州でパーマー、そして、1900年4月17日にプリングルもコアウイラ州で採取している。
Blue Sageとも呼ばれ、四角い枝で芳しい香りのする60-180cmの潅木。葉はコモンセージのようにギザギザで青紫の花が咲く。乾燥させた葉は、肉類に風味をつけるために使われる。
3.Salvia brachyodonta Briq. (1898).
(写真)プリングルが採取した植物標本

(出典)米国国立樹木園
メキシコ南西部に位置するハリスコ州(Jalisco)の州都グアダラハラ付近の丘陵地の斜面で1889年9月27日にプリングルが採取。
偶然にプリングルが採取したこのサルビアの標本を見つけたが、実物の写真は見つけられなかったので、どんなサルビアなのか良くわからない。
4. Salvia cardinalis Kunth (1818). ≒ Salvia fulgens Cav.(1791) サルビア・フルゲンス
(写真) Salvia fulgens (syn. S. cardinalis)

(出典) Robin’s Salvias
サルビア・カーディナリスは、フンボルト探検隊の植物学者・プラントハンター、ボンプランによって採取され、探検隊の標本を整理していたドイツの植物学者クンツ(Kunth, Karl(Carl) Sigismund 1788-1850)によって1818年に命名された。
プリングルもこのサルビアを1892年9月にメキシコの3000mを越える高地で採取した。
しかしこのサルビアは、1791年にスペインの植物学者カバニレス(Cavanilles, Antonio José 1745 - 1804)によって「Salvia fulgens Cav.(1791)」と命名されていたので先決めが優先される。
草丈150㎝程度で、大きな真っ赤な花が7-11月まで開花する素晴らしいサルビア。
5. Salvia chapalensis Briq. (1898). サルビア・チャパレンシス

(出典) flickr.com
サルビア・チャパレンシスは、1892年11月22日にプリングルがハリスコ州にあるメキシコ最大の淡水湖チャパラ湖付近の豊かに茂った峡谷で採取した。これが最初の発見・採取で発見場所の湖の名前を名付けた。
花序を伸ばしそこに濃い目のブルーが美しい花が咲く。
6. Salvia clinopodioides Kunth (1818). サルビア・クリノポディオイデス

(出典)Robin’s Salvias
ヨーロッパ人での最初の採取者は、フンボルト探検隊の植物学者・プラントハンターのボンプランが1800年代の初めに採取していたが、プリングルは、1892年10月11日にメキシコ南西部太平洋岸のミチョアカン州Pátzcuaroでこのサルビア・クリノポディオイデスを採取した。
初期の頃はサルビア“ミチョアカンブルー”として知られていて、9月から渦巻状の半穂に美しいブルーの花が咲く。
(次回に続く)