栽培植物の起源と伝播 No4
トウモロコシは祖先がわからないという。野生の原種が必ずあるはずだが、どこかで不連続な突然変異があったようだ。8千年前にはトウモロコシの栽培化が始ったようだが、人類が採取して食していた1万年前の頃なのか,大規模に栽培されるようになった5千年前の頃なのかわからないが、そこには祖先とは異なる大きな変化が起きたようだ。
現在提示されているシナリオとしては、
(1) 野生の原種に突然変異が起こったという説。
(2) 野生の種が交配して誕生し、親は絶滅したという説。
の二つがある。(別途説明)
ルーツ・祖先を探すということは人類の足跡を遡る科学的なロマンでもあるが、一方で、祖先=遺伝子と捉えると、トウモロコシほどの重要な穀物ともなると計り知れない利益をもたらす種(タネ・遺伝子)ビジネスのチャンスともなってくる。
人間の食料・動物の飼料・エネルギー源として利用されるトウモロコシにもその品種改良によって起きてきた問題がある。品種改良により大量に生産される品種だけが栽培されるようになると多様性を失うので、かつてヨーロッパで起こったバクテリアを原因とするジャガイモ飢饉のように全滅する危険がある。
原種があれば最初からやり直すことが可能であり、トウモロコシの祖先探しは人類の生存という“実利”が賭けられた“ロマン”でもありそうだ。
さらに無関係そうなエピソードだが、トウモロコシの祖先探しに貢献した米国の植物学者でウイスコンシン・マディソン大学の植物学教授イルチス(Iltis, Hugh Hellmut1925- )のキャリアを見るとなるほどと思うところがある。
(写真)イルチス

(出典)ミズリー大学
彼は、チェコスロバキアで生まれ、ナチスが侵攻する直前に米国に脱出し、米軍の兵士としてヨーロッパ戦線に加わったという。戦後ナチスが残した書類からナチスの戦争犯罪を証拠づけるものを発見したという。
見るもの見えずという凡人ではなく、仮説を設定し立証していくという能力に優れていたのだろう。だからこそ謎めいたトウモロコシの祖先を発見できたのだろうとも思う。
また彼は、植物探検隊を派遣しウィスコンシン・マディソン大学ハーバリウムに膨大なコレクションを作ったコレクターでもあり、植物標本100万枚を集めたともいうので徹底している。
絶滅危惧種を保存するための環境保護運動にも積極的で、トウモロコシの先祖探しも保護することが目的のひとつにあったのだろう。
ついでに補足しておくと、イルチスはペルーで野生のトマトを発見していて、トマト好きの人々に素晴らしい恩恵をもたらしている。いずれ「トマト」のところで触れなければならないだろう。
現在のトウモロコシの基礎
トウモロコシは、イネ科の一年草で草丈200㎝にも育ち、イネ科とは思えないほど葉が幅広い。茎の先端にはススキのような雄花が咲き、茎の中ほどに雌花が咲く雌雄異花であり、風により雄しべの花粉を雌しべにあたるトウモロコシのひげが受粉すると実をつける。
学名は、Zea mays L.で、和名ではトウモロコシ(玉蜀黍)トウキビ(唐黍)など様々な呼び方がある。英語ではコーン(Corn)が一般的だが、英国ではメイズ(Maize)と呼ぶ。
(写真)雌花(左) 雄花(右)

(出典)家庭菜園で癒しの空間
現在認められているトウモロコシ属の品種分類
1.Zea mays L.(1753)
1-1 Zea mays subsp.mays – Maize, Corn
1-2 Zea mays subsp. mexicana (Schrad.) Iltis (1972).
1-3 Zea mays subsp. parviglumis Iltis & Doebley, (1980).
1-4 Zea mays subsp. huehuetenangensis (Iltis & Doebley) Doebley, (1990).
2.Zea perennis (Hitchc.) Reeves & Mangelsd (1942).(多年生)
3.Zea luxurians (Durieu & Asch.) R.M.Bird(1978)
4.Zea diploperennis H.H. Iltis, Doebley & R. Guzmán (1979)(多年生)
5.Zea nicaraguensis Iltis & B.F.Benz,(2000).
ジーア属、和名ではトウモロコシ属は、メキシコおよび中央アメリカ原産の5つの野生種(イルチスは4つとしZea nicaraguensisは含まれない。)と4つの亜種からなり、Zea mays subsp.mays (Maize, Corn)を除く7種の野生種をテオシント(teosinte、和名ではブタモロコシ)とも呼ぶ。
“神のトウモロコシ”テオシント(teosinte,wild Zea spp. 和名ブタモロコシ)
このテオシントは、トウモロコシに最も近い野生種で、アステカ文明を支えたナワ族の言葉では“神の(teo)トウモロコシ(centli)”を意味し、先祖から受け継いだ尊い食糧を示唆する。
(写真)Teosinte

(出典)ミズリー大学
(写真)左Teosinte、右トウモロコシ、中央両者のハイブリット

(出典)University of Wisconsin-Madison
Teosinte ear (Zea mays ssp mexicana) on the left, maize ear on the right, and ear of their F1 hybrid in the center (photo by John Doebley)
と言っても、現在のトウモロコシと比べると草丈は小さく葉が大きい。養分が葉にいっている為か穂軸は小さくそこにつく実も小さく10粒程度と少なく食用に耐え得ない。
そこで次回は、7種の野生種のテオシントを命名された年代順にそれぞれの特徴を見ることにする。
トウモロコシは祖先がわからないという。野生の原種が必ずあるはずだが、どこかで不連続な突然変異があったようだ。8千年前にはトウモロコシの栽培化が始ったようだが、人類が採取して食していた1万年前の頃なのか,大規模に栽培されるようになった5千年前の頃なのかわからないが、そこには祖先とは異なる大きな変化が起きたようだ。
現在提示されているシナリオとしては、
(1) 野生の原種に突然変異が起こったという説。
(2) 野生の種が交配して誕生し、親は絶滅したという説。
の二つがある。(別途説明)
ルーツ・祖先を探すということは人類の足跡を遡る科学的なロマンでもあるが、一方で、祖先=遺伝子と捉えると、トウモロコシほどの重要な穀物ともなると計り知れない利益をもたらす種(タネ・遺伝子)ビジネスのチャンスともなってくる。
人間の食料・動物の飼料・エネルギー源として利用されるトウモロコシにもその品種改良によって起きてきた問題がある。品種改良により大量に生産される品種だけが栽培されるようになると多様性を失うので、かつてヨーロッパで起こったバクテリアを原因とするジャガイモ飢饉のように全滅する危険がある。
原種があれば最初からやり直すことが可能であり、トウモロコシの祖先探しは人類の生存という“実利”が賭けられた“ロマン”でもありそうだ。
さらに無関係そうなエピソードだが、トウモロコシの祖先探しに貢献した米国の植物学者でウイスコンシン・マディソン大学の植物学教授イルチス(Iltis, Hugh Hellmut1925- )のキャリアを見るとなるほどと思うところがある。
(写真)イルチス

(出典)ミズリー大学
彼は、チェコスロバキアで生まれ、ナチスが侵攻する直前に米国に脱出し、米軍の兵士としてヨーロッパ戦線に加わったという。戦後ナチスが残した書類からナチスの戦争犯罪を証拠づけるものを発見したという。
見るもの見えずという凡人ではなく、仮説を設定し立証していくという能力に優れていたのだろう。だからこそ謎めいたトウモロコシの祖先を発見できたのだろうとも思う。
また彼は、植物探検隊を派遣しウィスコンシン・マディソン大学ハーバリウムに膨大なコレクションを作ったコレクターでもあり、植物標本100万枚を集めたともいうので徹底している。
絶滅危惧種を保存するための環境保護運動にも積極的で、トウモロコシの先祖探しも保護することが目的のひとつにあったのだろう。
ついでに補足しておくと、イルチスはペルーで野生のトマトを発見していて、トマト好きの人々に素晴らしい恩恵をもたらしている。いずれ「トマト」のところで触れなければならないだろう。
現在のトウモロコシの基礎
トウモロコシは、イネ科の一年草で草丈200㎝にも育ち、イネ科とは思えないほど葉が幅広い。茎の先端にはススキのような雄花が咲き、茎の中ほどに雌花が咲く雌雄異花であり、風により雄しべの花粉を雌しべにあたるトウモロコシのひげが受粉すると実をつける。
学名は、Zea mays L.で、和名ではトウモロコシ(玉蜀黍)トウキビ(唐黍)など様々な呼び方がある。英語ではコーン(Corn)が一般的だが、英国ではメイズ(Maize)と呼ぶ。
(写真)雌花(左) 雄花(右)

(出典)家庭菜園で癒しの空間
現在認められているトウモロコシ属の品種分類
1.Zea mays L.(1753)
1-1 Zea mays subsp.mays – Maize, Corn
1-2 Zea mays subsp. mexicana (Schrad.) Iltis (1972).
1-3 Zea mays subsp. parviglumis Iltis & Doebley, (1980).
1-4 Zea mays subsp. huehuetenangensis (Iltis & Doebley) Doebley, (1990).
2.Zea perennis (Hitchc.) Reeves & Mangelsd (1942).(多年生)
3.Zea luxurians (Durieu & Asch.) R.M.Bird(1978)
4.Zea diploperennis H.H. Iltis, Doebley & R. Guzmán (1979)(多年生)
5.Zea nicaraguensis Iltis & B.F.Benz,(2000).
ジーア属、和名ではトウモロコシ属は、メキシコおよび中央アメリカ原産の5つの野生種(イルチスは4つとしZea nicaraguensisは含まれない。)と4つの亜種からなり、Zea mays subsp.mays (Maize, Corn)を除く7種の野生種をテオシント(teosinte、和名ではブタモロコシ)とも呼ぶ。
“神のトウモロコシ”テオシント(teosinte,wild Zea spp. 和名ブタモロコシ)
このテオシントは、トウモロコシに最も近い野生種で、アステカ文明を支えたナワ族の言葉では“神の(teo)トウモロコシ(centli)”を意味し、先祖から受け継いだ尊い食糧を示唆する。
(写真)Teosinte

(出典)ミズリー大学
(写真)左Teosinte、右トウモロコシ、中央両者のハイブリット

(出典)University of Wisconsin-Madison
Teosinte ear (Zea mays ssp mexicana) on the left, maize ear on the right, and ear of their F1 hybrid in the center (photo by John Doebley)
と言っても、現在のトウモロコシと比べると草丈は小さく葉が大きい。養分が葉にいっている為か穂軸は小さくそこにつく実も小さく10粒程度と少なく食用に耐え得ない。
そこで次回は、7種の野生種のテオシントを命名された年代順にそれぞれの特徴を見ることにする。