その17:本草書のトレンド①
アートとサイエンスの婚約まで
本草書は美しい。
それが、ビザンティン写本のように写実的でなく現実の植物と似ていなくとも
あるいは、デューラーのように驚くほどの精緻さでリアルに描かれていたとしても
美術書にはない魅力がある。
絵画でもなく科学でもない。或いは、絵画であり科学でもある。
本草書には、この相矛盾するものを内包した魅力がある。
このような意見で安穏としていることが出来るのも、
現代は、カメラというものがあるからだろう。
カメラは、見えたとおりにありのままに近いものを切り取り記録する道具だ。
認識も、表現手法も、記録・焼付けも、気にすることがない。
しかし、植物画の歴史には、
描かれた植物画から、対象である植物の認識そのものの推移を知ることが出来、
アートとサイエンスとの融合もリアリティを持って伺える。
1000年以上も眠っていた中世社会が目を覚まされた。
といっても知識人だけだが。
ルネッサンス期の3大発明といえば、「羅針盤」「火薬」「印刷技術」であり、
自然をあるがままに正確に捉えるという「自然主義」「写実主義」は、
停滞していた科学的思考と芸術的思考を大きく動かす原動力となった。
15世紀中頃に実用化した印刷技術は、
100年をかけてそのハードを生かすソフトが開発された。
常にハードが先行し、遅れてソフトが追従開発されるが、
印刷技術のように劇的であればあるほど社会の基盤に組み込まれ、
後戻りすることが出来ずに、新たな発見・発明競争が加速するのが常だ。
印刷における科学と芸術の結婚、
すなわち植物学者と画家との共同作業により、植物のことを描いた本草書が
他のあらゆる領域に先駆け、試行錯誤の見事な系譜で16世紀中盤に出来上がった。
現在において、“あるがままにものを正確に見る”ということ自体なんら不思議なことはないが、
クラテウアス(Krateuas 紀元前132-63年)、デイオスコリデス(Dioscorides 1世紀頃)の時代に
出来ていたことに戻るのに1600年もかかった。
1400年代の後半からの1世紀は、特に1500年代は、 『本草書の時代』といわれ、
ルネッサンスの自然主義・写実主義を実現していく。
行きつ戻りつのそのプロセスを知ることは、目標設定してのその達成のためのアクションの参考となる。
<植物画 アーティストの思考の変化の流れ>
クラテウアス(Krateuas 紀元前132-63年)
・写実性の高い植物画を描く。
・ディオスコリデスの『マテリア・メディカ』でも使用。
・植物画の父といわれる。
想像上の植物マンドラゴラ マンドレーク(1406-1430 コンスタンチノプル製作)
・地面から引き抜かれる時に致命的な悲鳴を上げるということが恐れられました。
・なんと、ディオスコリデスの薬物誌にも掲載されている。
http://www.strangescience.net/stplt.htm
=絵画に科学性を持ちこみルネッサンスをリードしたヒト=
=自然主義、写実主義がルネッサンスの思想=
フィリッポ・ブルネレスキー(Filippo Brunelleschi 1377-1446)
・遠近法を発見又は再発見した一人ともいわれる。
レオン・バティスタ・アルベルティ(Leon Battista Alberti 1404-1472)
・ルネッサンスの天才、『絵画論』で透視図法に幾何学的な基礎を与える。
・職人の世界を科学・学問の世界に近づけ、画家の地位向上に貢献。
レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci, 1452-1519)
・ルネッサンスの天才は人体・植物などの観察をデッサンとして残している。
・ダ・ヴィンチは現代からワープしてルネッサンス期に行ったヒトではないかと思うほど視通しているからすごい。
アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer 1471-1528)
・ドイツを代表する画家。北方ルネッサンスの口火を切る。
・1490年代に「風景画」を描いており、ヨーロッパで初めて。
・精密な植物画・動物画を描き、16世紀中頃に登場する草本書の挿絵図の先鞭をつける。
The Large Turf (5番目の画像)
1503 (180 kB); Watercolor and gouache on paper, 41 x 32 cm; Graphische Sammlung Albertina, Vienna
・木版画を芸術の域に高め、グーテンベルクの印刷革命のコンテンツの品質を向上。
<印刷技術の革新>
ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutenberg 1398頃―1468)
・1447年に活版印刷技術(合金製の活字と油性インクの使用)を実用化し、初めて旧約・新約聖書を印刷。
・ルネッサンス期の情報伝達スピードを飛躍的に改革。
・同じ情報が広い範囲に同時的に伝達できることは、写本による誤謬を内在した
アントン・コーベルガー(Anton Koberger 1445-1513)
・中央ヨーロッパ最大の商業都市ニュールンベルクの大印刷出版事業者。
・最盛期には、100名の職人、24台の印刷機を有し、質の高い書籍を出版。
・ここからニュールンベルクが印刷・出版の中心地となる。
【次号に続く】
<<ナチュラリストの流れ>>
・古代文明(中国・インド・エジプト)
・アリストテレス(紀元前384-322)『動物誌』ギリシャ
・テオプラストス(紀元前384-322)『植物誌』植物学の父 ギリシャ
・プリニウス(紀元23-79)『自然誌』ローマ
・ディオスコリデス(紀元1世紀頃)『薬物誌』西洋本草書の出発点、ローマ
⇒Here 地殻変動 ⇒ 知殻変動【その15】
・イスラムの世界へ
⇒Here 西欧初の大学 ボローニアに誕生(1088)【その13】
⇒Here 黒死病(ペスト)(1347)【その10】
・グーテンベルク 活版印刷技術(合金製の活字と油性インク使用)を実用化(1447年)
・レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)イタリア
⇒Here コロンブスアメリカ新大陸に到着(1492)【その4~8】
⇒Here ルネッサンス庭園【その11】
⇒Here パドヴァ植物園(1545)世界最古の研究目的の大学付属植物園【その12】
⇒Here 『本草書の時代』(16世紀ドイツ中心に発展)【その17】
・レオンハルト・フックス(1501-1566)『植物誌』本草書の手本で引用多い、ドイツ
・李時珍(りじちん 1518-1583)『本草網目』日本への影響大、中国
⇒Here 花卉画の誕生(1606年) 【その1~3】
⇒Here 魔女狩りのピーク(1600年代)【その14】
アートとサイエンスの婚約まで
本草書は美しい。
それが、ビザンティン写本のように写実的でなく現実の植物と似ていなくとも
あるいは、デューラーのように驚くほどの精緻さでリアルに描かれていたとしても
美術書にはない魅力がある。
絵画でもなく科学でもない。或いは、絵画であり科学でもある。
本草書には、この相矛盾するものを内包した魅力がある。
このような意見で安穏としていることが出来るのも、
現代は、カメラというものがあるからだろう。
カメラは、見えたとおりにありのままに近いものを切り取り記録する道具だ。
認識も、表現手法も、記録・焼付けも、気にすることがない。
しかし、植物画の歴史には、
描かれた植物画から、対象である植物の認識そのものの推移を知ることが出来、
アートとサイエンスとの融合もリアリティを持って伺える。
1000年以上も眠っていた中世社会が目を覚まされた。
といっても知識人だけだが。
ルネッサンス期の3大発明といえば、「羅針盤」「火薬」「印刷技術」であり、
自然をあるがままに正確に捉えるという「自然主義」「写実主義」は、
停滞していた科学的思考と芸術的思考を大きく動かす原動力となった。
15世紀中頃に実用化した印刷技術は、
100年をかけてそのハードを生かすソフトが開発された。
常にハードが先行し、遅れてソフトが追従開発されるが、
印刷技術のように劇的であればあるほど社会の基盤に組み込まれ、
後戻りすることが出来ずに、新たな発見・発明競争が加速するのが常だ。
印刷における科学と芸術の結婚、
すなわち植物学者と画家との共同作業により、植物のことを描いた本草書が
他のあらゆる領域に先駆け、試行錯誤の見事な系譜で16世紀中盤に出来上がった。
現在において、“あるがままにものを正確に見る”ということ自体なんら不思議なことはないが、
クラテウアス(Krateuas 紀元前132-63年)、デイオスコリデス(Dioscorides 1世紀頃)の時代に
出来ていたことに戻るのに1600年もかかった。
1400年代の後半からの1世紀は、特に1500年代は、 『本草書の時代』といわれ、
ルネッサンスの自然主義・写実主義を実現していく。
行きつ戻りつのそのプロセスを知ることは、目標設定してのその達成のためのアクションの参考となる。
<植物画 アーティストの思考の変化の流れ>
クラテウアス(Krateuas 紀元前132-63年)
・写実性の高い植物画を描く。
・ディオスコリデスの『マテリア・メディカ』でも使用。
・植物画の父といわれる。
想像上の植物マンドラゴラ マンドレーク(1406-1430 コンスタンチノプル製作)
・地面から引き抜かれる時に致命的な悲鳴を上げるということが恐れられました。
・なんと、ディオスコリデスの薬物誌にも掲載されている。
http://www.strangescience.net/stplt.htm
=絵画に科学性を持ちこみルネッサンスをリードしたヒト=
=自然主義、写実主義がルネッサンスの思想=
フィリッポ・ブルネレスキー(Filippo Brunelleschi 1377-1446)
・遠近法を発見又は再発見した一人ともいわれる。
レオン・バティスタ・アルベルティ(Leon Battista Alberti 1404-1472)
・ルネッサンスの天才、『絵画論』で透視図法に幾何学的な基礎を与える。
・職人の世界を科学・学問の世界に近づけ、画家の地位向上に貢献。
レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci, 1452-1519)
・ルネッサンスの天才は人体・植物などの観察をデッサンとして残している。
・ダ・ヴィンチは現代からワープしてルネッサンス期に行ったヒトではないかと思うほど視通しているからすごい。
アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer 1471-1528)
・ドイツを代表する画家。北方ルネッサンスの口火を切る。
・1490年代に「風景画」を描いており、ヨーロッパで初めて。
・精密な植物画・動物画を描き、16世紀中頃に登場する草本書の挿絵図の先鞭をつける。
The Large Turf (5番目の画像)
1503 (180 kB); Watercolor and gouache on paper, 41 x 32 cm; Graphische Sammlung Albertina, Vienna
・木版画を芸術の域に高め、グーテンベルクの印刷革命のコンテンツの品質を向上。
<印刷技術の革新>
ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutenberg 1398頃―1468)
・1447年に活版印刷技術(合金製の活字と油性インクの使用)を実用化し、初めて旧約・新約聖書を印刷。
・ルネッサンス期の情報伝達スピードを飛躍的に改革。
・同じ情報が広い範囲に同時的に伝達できることは、写本による誤謬を内在した
アントン・コーベルガー(Anton Koberger 1445-1513)
・中央ヨーロッパ最大の商業都市ニュールンベルクの大印刷出版事業者。
・最盛期には、100名の職人、24台の印刷機を有し、質の高い書籍を出版。
・ここからニュールンベルクが印刷・出版の中心地となる。
【次号に続く】
<<ナチュラリストの流れ>>
・古代文明(中国・インド・エジプト)
・アリストテレス(紀元前384-322)『動物誌』ギリシャ
・テオプラストス(紀元前384-322)『植物誌』植物学の父 ギリシャ
・プリニウス(紀元23-79)『自然誌』ローマ
・ディオスコリデス(紀元1世紀頃)『薬物誌』西洋本草書の出発点、ローマ
⇒Here 地殻変動 ⇒ 知殻変動【その15】
・イスラムの世界へ
⇒Here 西欧初の大学 ボローニアに誕生(1088)【その13】
⇒Here 黒死病(ペスト)(1347)【その10】
・グーテンベルク 活版印刷技術(合金製の活字と油性インク使用)を実用化(1447年)
・レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)イタリア
⇒Here コロンブスアメリカ新大陸に到着(1492)【その4~8】
⇒Here ルネッサンス庭園【その11】
⇒Here パドヴァ植物園(1545)世界最古の研究目的の大学付属植物園【その12】
⇒Here 『本草書の時代』(16世紀ドイツ中心に発展)【その17】
・レオンハルト・フックス(1501-1566)『植物誌』本草書の手本で引用多い、ドイツ
・李時珍(りじちん 1518-1583)『本草網目』日本への影響大、中国
⇒Here 花卉画の誕生(1606年) 【その1~3】
⇒Here 魔女狩りのピーク(1600年代)【その14】
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