天津ドーナツ

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かな文字のイメージ その1…もとNHKアナウンサー塚越恒爾さんのブログから

2012-05-08 12:37:19 | 日本語学習法
日本大辞林という辞書が、明治27年に発刊された。著者は物集高見氏(もずめ-たかみ)、 物集高世氏の長男で、父子ともに著名な国学者だ。
 この辞書には、カナ文字について、その音のもつイメージが書き込まれている。日本の辞書としては恐らく初めてのことだろう。若い頃、ワタシはこの文章を読んで、少なからず、感動したことを思い出す。
 先月までは、本居宣長ら国学者の狭い了見に批判を加えてきたが、この人は少し違う視点を持っていたのだと感じている。
 新しいシリーズの枕に、物集高見氏の音についての感じ方をご紹介しよう。
註:「音」という字には「コエ」とルビが振ってある。念のため。 



あ行から順に並べてみる。(仮名遣いは原文通り)
「あいうえお」は、嘆くと驚くとによぶ音(コエ)にて、広く大きなるものをいふにかなふ。
「かきくけこ」は、金石(カネイシ)などよりたつ音にて堅固(カタラカ)なるものをいふにかなふ。
「さしすせそ」は、風の吹く音、紙などのすれあう音にて、狭くささやかかなるものをいふにかなふ。
「たちつてと」は、琴、鼓などよりたつ音にて、剛強(ツヨゲ)なるものをいふにかなふ。
「なにぬねの」は、嘆くと驚くとによぶ音にて、また発散(ヒラキチリ)するものをいふにかなふ。
(「ハ行については、ワタシの不注意から消えたのか。もともとなかったのか。兎も角手元にはない。ご存じの方がおられたら、お教えを請う)
「まみむめも」は、嘆くによぶ音にて、まろやさなるものをいふにかなふ。
「やいゆえよ」は、嘆くと驚くとによぶ音にて、優なるものの美はしきものをいふにかなふ。
「らりるれろ」は、笛、鈴などよりたつ音にて廻転(くるくる)するものをいふにかなふ。
「わゐうゑを」は、嘆くと驚くとによぶ音にて、撓みまがれるものをいふにかなふ。

 物集高見氏は、“ことば”というものは、写生語から出来たという説をとっていて、それぞれが固有のイメージを持っていると考えていた。昔の人だから、その感性に新しさ、鋭さは見られないが、実に興味深い。
 ことに、文字の持つ音の特性や響きに何を感じるかということは、日本語を考える上で、大切な視座なのだが、そのご国語学者の多くは、あまり興味がなかったのか、重要視されなかった。何故だろうか。
 「50音図の落とし穴」につづいての、新しいシリーズは、こうした“ことば”の持つイメージ、時代と共に変化し揺れてゆくイメージについて、日本語の自由闊達な用法などを例を引きながら、ご一緒に楽しんでゆくことにしたい。カテゴリーは「音の“ことば”」に入れた。