tokyoonsen(件の映画と日々のこと)

主に映画鑑賞の記録を書いています。

『ビル・カニンガム&ニューヨーク』

2013-06-22 22:01:51 | 映画-は行
      

 この監督は、もしかしたらすごいんじゃないか。

 すごいというのは、えらく好みの監督なんじゃないか、ということだけれど、それは「個人的に」でもないらしい。ニューヨークの一館のみでの上映が、「またたく間に感動の輪が広がり、(略)全米で異例の大ヒットを記録した。また上映された世界各地の映画祭で、多くの観客賞を受賞した。」とパンフレットに書いてある。

 リチャード・プレス監督、2010年、アメリカ。

 NYタイムズ紙のファッション・コラムを担当しているニューヨークの名物フォトグラファー、ビル・カニンガム氏を追ったドキュメンタリー。
 制作期間は、10年ということ。監督曰く「ビルを説得するのに8年!撮影と編集に2年かかったということです。」


 観客賞を受賞したのは作品だけれど、投票した観客たちは、おそらくもう一方の手に見えない票を持っていて、それをビル・カニンガム氏に投票したんじゃないか。
 
 こんな人がいるんだな。
 カニンガムさんの後を追うカメラを見ていれば、自然とカニンガムさんの視線を借りるようなことになり、「透明人間」のさらに後ろにいる透明人間になった気分。色んな場所や色んな社会階層を行き来して、ファッションそのものを、カニンガムさんは切り取って行く。公平なジャッジ。美意識。そのための努力や思考、なにより情熱は並大抵ではなくて、自分の情熱を守り通す強さと、あの素晴らしく人懐こい笑顔はなぜ両立するんだろう。「喜び」だ、って言ってたけど。

 毎週日曜日は教会に通っているという。
 ただその場面は映画の中には映っていなかった。毎週だというのに。「あなたにとって宗教とは何ですか?」と聞かれ、急にだまって下を向き、しばらく経ってからカニンガムさんが顔を上げた時、なんだかどきどきしてしまった。こうやって、一つ一つのことに誠実に答えを出してきたのかもしれないな。
 カニンガムさんの切り取る世界は、一つの物語にもなっていて、その物語を解き明かすためのヒントを紡ぎ上げたこの映画は、やっぱりとても面白くて複雑な映画のように思う。
 あ、途切れることなく登場する、おしゃれびとたちのオシャレもとても楽しかったです。