楽しみにしていたのに、何故かタイミングが合わず、昨日ようやく観ることが出来た。
いや~面白かった。終始スリリングで、人間劇としてもとても面白かった。
舞台も良かった。
1923年、アイルランド本島の西側、アラン諸島のとある島(架空の島)。
荒涼とした、何もない土地。海があるけれど、すぐ向こうに本島があり、内戦の音が聞こえ煙が見える。それくらいの海。
しかしそこは近くて遠い、最果ての島。古代の匂いさえ感じさせる。うごめく人間以外は、古代ケルト人の頃から何も変わっていないんじゃないかとも思わせる。
空々漠々とした景色の中、繰り広げられる人間模様は、まるで密室劇だ。
ドミニクの言う通り、小学生のようでもある。でもそれが哀しくて、切なくて、ユーモラスで目が離せない。
(以下、ネタバレします。)
前半は、どちらかと言うと絶縁を告げたコルムの方に、共感をしていた。指を切るなんて頭どうかしてるんじゃないの、と思いつつ、「お前に時間を奪われるのは、バイオリン弾きにとって大切な、指を失う事と同じくらい、苦痛なのだ。」と、その痛みを可視化して見せているのかなと解釈していた。
ところが後半、ロバのジェニーが死んでから、様子が一変する。
ナイスなだけでつまらない男のパードリックが、突如目覚めた。
パードリックは、おそらくとても満足していたのだ。自分の人生と自分の生活に。なのに、妹が家を出て行き、コルムの指のせいで、可愛がっていたロバが死んだ。
愛すべき平穏な日々を壊したのは、親友のはずだったコルム。お前だ!と言わんばかりに。
そうなってくると今度は、「残りの人生を音楽に捧げたい。お前のくだらない話に付き合っている暇などない。」などと言っていた、コルムの生ぬるさが際立ってくる。
いや、指を切っているから生ぬるくはないか。
しかしシボーンのように、知らない土地へ、ドンパチ内戦をしている本島へと出て行く勇気もない。ナイスな男の仮面の裏も、見抜いていなかった。もしくは予測出来なかった。
自分の指を切るなんて、言っちゃ悪いけど、何てロマンチックで、めめしいこと。
マクドナー監督は、この映画の本意、観客へ伝えたかったことは絶対に言わない、と言っているそうだが、一つだけ、「恋愛の別れがテーマ」みたいな事を言ったそう。
作品中でも、神父がコルムに尋ねている。「男を好きになったことはあるか?」コルムは険しい顔で否定した。
でももし、そうだとしたら。コルムが「パードリックを思慕の対象として好きかもしれない」とふと思い、それを否定したかったのだとしたら。
呑気で何も考えていないナイスなパードリックを遠ざけようとする理由の一つに、恋愛感情があるのだとしたら。
それは、めめしくても仕方がないかな。仮面を付けていたのはコルムの方か。とは言え、やり過ぎだよね。メンヘラだわ。
メンヘラ男とは別に、キーパーソンとして、精霊(バンシー)役とおぼしき、老婆が出て来る。
ミセス・マコーミック。
私は、要所要所に何故か出没するこの老婆が手招きをして、ドミニクを川に招き込んだんじゃないかと、踏んでいる(笑)
ああ、もう一回観たいな。
マーティン・マクドナー監督、2022年、イギリス。114分。原題は、『The Banshees of Inisherin』。
コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガン。
第80回ゴールデングローブ賞、最優秀作品賞(ミュージカル/コメディ部門)、最優秀男優賞(ミュージカル/コメディ部門、ファレル)、最優秀脚本賞(マクドナー)受賞。第79回ベネチア国際映画祭、最優秀男優賞(ファレル)、最優秀脚本賞(マクドナー)受賞。
第95回アカデミー賞、9部門ノミネート。
潮風と生ぬるいエールビールを呑む二人↓(美味しそう。)
懐いてくるドミニクは、バリー・コーガン↓名役者揃いの本作。
妹のシボーン↓兄も呼び寄せようとするけれど。
劇作家でもある監督の本領発揮?↓二人には仲直りして欲しい・・。