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6/5の21時から放映されたNHKスペシャル北朝鮮”機密ファイル”はいろいろな意味でおもしろいものでした。
まず番組制作者の意図に沿って簡単にストーリーというか、プロットを紹介すると、情報が封鎖された北からとっても重要かつプリントアウトすると1万ページにも及ぶ大量の情報が台湾ルートでUBSメモリーによってもたらされた。それを日米のインテリジェンスのOBが分析していくと、北の支配体制は盤石ではなく、軍人たちの面従腹背、中間から上層部に至るまで管理者たちの腐敗の横行、機密情報の流出が抑えられないでいる金正恩を始めとする指導者たち、といった実像が見えてくる。
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そして、この機密情報をYlmFという匿名でリークした軍の最高機密にアクセスできる人物は命がけで、深夜に情報をかき集め、USBメモリーに記録し、まるで無人島から手紙を瓶に入れて大海に流すように密かに誰かに託した。国民の窮状を自由な世界に向かって訴え、それが祖国の解放に人民の幸福につながるように願って、というヒロイックな人なのだといったところでしょう。
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ま、重村の友だちみたいな人が北にも日本にもアメリカにもいるんだなーというのがぼくの第一印象でした。そういうシニカルな感想を抱いたいちばんの原因は、番組の最後に出てきた、YlmF自身が家族に宛てたたった5行の切ない遺書のようなものです。
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これについては2つの見方ができるでしょう。1つ目はここまで紹介したようなドラマティックなお話のエピローグにふさわしいもの、真の愛国者は最後まで家族のことを思い遣り累が及ぶことを怖れていたというものです。なるほど、やはり少なくとも東アジアから東南アジアまでの広い地域において人々の拠り所は家族なのです。それがいわゆる権力や官憲を含めた役人の腐敗の原因でもあることは重村を俟つまでもないでしょう。
2つ目はできすぎたお話は陰謀か策略ではないかというひねくれた見方です。あまりにも日米のインテリジェンスやNHKを始めとしたマスメディアが安住し続けている、北の体制はピンチだという見立てに合致しすぎているからです。なぜ労働党大会が開催され、金正恩が権力の掌握を果たしたと誇示した直後にこの番組が放映されたのでしょう。ファイルの日付から明らかなように2014年1月以前の情報しかないのに。
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ところで、脱北者の多くは妻子も顧みず中国との国境を渡ります。家族は拘束され、極めて劣悪な監獄のようなところに放り込まれ、おそらく性的被害も含めた徹底的な人権蹂躙を受け続け、その多くは数年以内に死に至るのでしょう。でも、そんなの知ったこっちゃないというのが、民族を同じくする南を別にすれば大方の世論でしょう。これまで脱北者のインビューを何回か見てきましたが、そのどこか無気力で投げやりな態度は過去のすべてを無関係なものと片づけ、それがかなりの程度できたことの表れであり、だからこそ恥知らずといった心ない批判にも平静でいられるし、内心の葛藤さえ失ってしまっているので、カメラの前にいるんじゃないかとぼくは推測しています。
それはともかく、脱北者自身が顧みないことを、北の国民が自ら行っていることを日米の国民が気にしてもほとんど無意味でしょう。罪は九族に及ぶという中国の伝統を受け継いでいるような国で、南の有志を始めとした良心的な人たちが累が他に及ばないように人々を救うことなど、子どもでもわかる理屈から言って不可能なわけで、詰まるところ暴力的に北の体制を転覆するほかありません。しかし、そんな自国の安全保障にとって決して好ましくないことをそれに責任のある人たちが考えるはずがありません。何より現状維持が望ましいわけで、そのためには天秤のバランスを取るように北が体制を強化すればカウンターを当てる必要があります。こう考えれば日米のインテリジェンスのOBたちがやたらとこの機密情報を重要なものだと褒め上げる意味合いもすんなり理解できます。
さらに穿った見方もできるかもしれません。核問題を始めとして御すことができなくなったパトロンというか、かつての宗主国であった中国や北の反政府勢力の策略じゃないかとか、いやいやもっと恐ろしいことにこれは金正恩自身の深謀遠慮なんだよといったストーリーだって描けないこともないでしょう。ファイルと番組に登場したすべての人たちに漂ういわく言い難い胡散臭さは、北の専門家は素直な人間には務まらないというたぶん確実な事実とともに、そうした解釈をあながち荒唐無稽だと断じるのを許さない気がします。したがって、1.で言ったことの繰り返しになりますが、北についての真実などどこにもないように思えてくるというのがぼくがこの番組を見た実感です。