このオペラ「偽の女庭師」は、前回のシンフォニー第29番が作曲された1774年から75年にかけて書かれたものです。80年から82年の「イドメネオ」K366や「後宮からの誘拐」K384ほども知られていないでしょうし、上演されることは今でも少ないと思います。私は、オペラの良し悪しは音だけではわからないと思っていて、(実演がむずかしいとしても)DVDが普及した現在ではCDだけで評価するのはどうかと思います。ですので、このオペラもそうしたいところです。ドイツ語でのDVDはタワーレコードで見たことはあるのですが、どうしても買う気になれませんでした。脇道に逸れますが、なかなかいいオペラのDVDって少ないように思いますし、何より日本語字幕付きとなるとまだまだレパートリーが不十分です。だって、オペラを楽しもうというのに英語の勉強なんかしたくないですからねw。映画に比べて購買層が圧倒的に薄いですから仕方ないんですが。
ということで、今回はアーノンクール指揮、ウィーン・コンツェント・ムジクスによるCDで聴いたんですけど、音楽はいきいきしてるし、それなり聴かせどころもあってなかなかいいです。何より音があふれ出てくるような感じは、このシリーズが探し当てたかったところそのものです。
ストーリーは、ベルフォーレ伯爵に殺されかけた侯爵令嬢ヴィオランティ(グルベローヴァが演じています)がからくも一命を取り留め、身分を隠して女庭師サンドリーナになって、ラゴネーロの市長ドン・アキナーゼ(トマス・モーザ)のところにいるのを見そめられて、紆余曲折(便利な言葉ですw)の後、結局伯爵と結ばれる。それに伯爵と婚約していた市長の姪アルミンダと騎士ラミーロ、ヴィオランテの従者ナルドと市長の小間使いセルペッタの二つの恋愛やら、さや当てやらがからまるというお話です。始まってすぐに結論までわかっちゃうところが典型的なオペラ・ブッファで、これがドイツ語じゃ聴く気しないでしょう? ただ、伯爵もヴィオランテも途中で気が狂ってしまうというところが無理やりまとめるために取ってつけたような感じで、台本が悪いと言われる所以なのかも知れません。
個々の音楽としては、転調が感情や情景の変化をうまく表わしているところがモーツァルトらしいところです。第1幕のサンドリーナのカヴァティーナ「雉は鳴く、伴侶のもとを離れ」の繊細でやさしい感じは「フィガロの結婚」を感じさせますし、第2幕のアルミンダのアリア「私は罰してやりたい、恥ずべき男のあなたを」は第25番のシンフォニーに非常に似た感じの短調で、暗い情念を表わしています。同じ第2幕のサンドリーナのアリア「残酷な男たちよ、おお、神様! 立ち止まりなさい」の不安感も同じ性格のものと感じられます。その他にも後年の作品と共通する音楽が多く聞こえます。
しかし、そうしたこと以上に各幕のフィナーレにおいて主要登場人物が勝手勝手に歌いながら、音楽として見事にまとめられていくところに、オペラ・ブッファの常套手段の中でモーツァルトの比類のない真価が発揮されていると感じられます。