夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

野平一郎の音楽

2007-01-13 | music

 ずっと前にベートーヴェンの「大公」の演奏を衛星放送で見たときから、この人のピアノは気になっていました。それはテクニックが優れているとか、表現力があるとかというだけでなく、「あれ?この人いろいろやってるな」ってことでした。お寿司屋さんがただ寿司を握るだけじゃなく、いろんな下ごしらえをしたり、隠し味を入れたりするのを「仕事」をするって言いますが、そんな感じでした。

 で、図書館でベートーヴェンのピアノ・ソナタの15番、19番、20番、21番を演奏したCDを見つけたので、しめしめと思って借りて聴いてみました。これはまさに「仕事」をしている、とてもおもしろい演奏でした。ベートーヴェンのソナタは名演奏がそれこそ掃いて捨てるほどあって、テクニックや表現力という点では彼以上の人はいるでしょうし、作品を作品として味わうのに最高のものとは言えないのかもしれませんが、このCDほど自分自身の頭と腕で「私はベートーヴェンとこういう話し合いをしてきました」と強く感じさせる演奏はそうはないと思ったのです。「仕事」するってことを表現の側からいうとそういうことでしょう。例えば15番の「田園」の第1楽章の現代的な響きと第2楽章の野暮ったい歌い回しの落差はおかしいほどです。また、21番「ヴァルトシュタイン」の第3楽章はベートーヴェンのソナタの中でも私がいちばん好きな楽章の一つですが、その自由自在な躍動感は本当に楽譜どおり弾いてるのかとさえ感じさせるものです。

 このCDには野平自身のかなり長い文章が載せられていて、ドビュッシーやバルトーク、さらにはブーレーズまで言及しながら専門的な楽曲分析がなされています。ところが、私がさっき述べたようなことは全く書かれていなくて、これまたおもしろいと思いました。だってたとえ録音であっても演奏である以上、ある種の即興性というのは積極的な意味であるはずですから。簡単に言えば言ってることとやってることが違っていいんです。演奏家の場合はw。楽曲分析はあくまで下ごしらえなんで、そのままの演奏しかできないなら、そんなのはつまらないだろうと思います。仕事をしただけじゃ「仕事」をした仕事になりませんよ、ってわざとややこしく言ってますが。……え?おまえがトンチンカンなだけじゃないかって?なるほどなかなかユニークな視点ですが、生産的じゃないですねw。

 で、野平は実は作曲家でもあるんですね。どちらかと言うとCDの文章は作曲家としての文章かなって感じで、その緻密なのにさっき言ったような広い視野でものを見てるのがおもしろくなって、今度は彼の作曲したCDを買いました。室内楽が4曲、1988年から2004年にかけて書かれたものです。内容は……素人の大ざっぱさで言うと武満徹とブーレーズを混ぜたような感じですw。あまり時代的な変化は感じられないんですが、CDの最後に入っていた2004年に初演された「冬の四重奏」が心に触れてくるいい作品だと思いました。この曲だけ彼がピアノを弾いていて、それがやっぱり「仕事」をしていたのが大きな理由かもしれませんが。

 このCDにも彼自身がかなりいろんなことを書いていますが、今のところ読んでないふりをしておきますw。それよりは彼のコンサートがあったら行ってみたいなという気持ちの方が強いですね。



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2 コメント

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仕事したことが (ぽけっと)
2007-01-14 00:56:43
見え見えだと上品じゃないですもんねw

野平さんは声楽の伴奏で生を聞きました。始めは機嫌良く歌を聞いていたのですが(歌もよかったのよ)途中から「え?この伴奏?」という感じになってピアノを一生懸命聞いてしまいました。
それで忘れられなくなったのですが、その後、作曲家で研究者で、アンサンブルの達人でもあり、もちろんソリストでもあり、とすごい人なのだと知りました。
私もまた聞いてみたいです、ライブで聞いてよかった人はCDで聞く気にならなくて…

「ヴァルトシュタイン」最終楽章、いいですね。ベートーベンには無謀に挑戦しないと決めている私ですが、これはいつかちゃんとやりたいです。

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そういうのっていいですね♪ (夢のもつれ)
2007-01-15 14:24:58
意識してなくて途中から「え?」っていうのってとてもラッキーな出会いのような気がします。今さっき見たばっかりなんですが、充実したサイト↓を開いておられて、コンサートも盛んにやっておられるようですね。

http://www.ff.iij4u.or.jp/~nodaira/index.shtm

 ぽけっとさんもヴァルトシュタインのファンでしたか。いつか聴いてみたいです
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