チューリヒ、そして広島

スイス・チューリヒに住んで(た時)の雑感と帰国後のスイス関連話題。2007年4月からは広島移住。タイトルも変えました。

聖書の章節表記

2015年05月16日 21時42分25秒 | Weblog
非常勤先の教室で、学生に聖書の「章」と「節」について説明していたときのことです。

聖書には章と節の区分があり、皆が手元に持っている(新共同訳)聖書では、大きな数字が「章」、文中に現れる小さな数字が「節」を表す、というところまでは良かったのですが、ヘッダーの部分にその頁に含まれる章と節が略記されていると説明したところで、略記法が普段自分の用いているものと違うことに気づいたわけです。

聖書のヘッダーには、たとえば

ローマの信徒への手紙 4. 1-17

と書かれています。しかしこれを自分は通常、

ローマ 4:1-17

と書きます。文書名の略記は稿を改めるとして、ここでの問題は、ピリオド(.)ではなくコロン(:)を自分が使っているということです。

日本語で書かれる聖書学の学術論文は、横書きの場合ならほとんどコロンを使っているはずです。ただし、ドイツ語圏で勉強してきた人間が、あちらでの習慣をそのまま持ち込んで(私もかつてはそうでした)コンマ(,)を使う例はあります。というのも、ドイツ語圏ではコンマを使うのが通例だからです。具体的には

Röm 4,1-17

となります。これに対してアメリカでは、コロンを使うことがほとんどのようです。日本の慣例はこれに倣ったものでしょう。手元にある本を見た限りでは、イギリスではピリオド(.)を使うのが習わしとなっているようです。

Rom 4.1-17

大した違いでもないから、そのままなのでしょうが、統一しておけばいいのにとも思います。(ドイツ語用のキーボードでは、コロンは Shift+ピリオドなので、いちいちシフトキーを押さないといけない面倒さから普及しなかったのかもしれません。)

教父文書の表記では、日本でも章・節区分にピリオドをつけていることが多いようなので、この際ピリオドに揃えておけばいいような気がします(ただしドイツ語圏や米語圏では、教父文書にも同じくコンマやコロンを使っている例も見かけます)。邦語訳聖書もピリオドを使っている例が多いのですし(新共同訳、口語訳、新改訳ともすべてピリオドを使っています。フランシスコ会訳はなぜか中黒(・)ですが)。学校などではじめて聖書を開く人を相手にする場合は、ちょっと注意が必要だと思いました。

ちなみに、ドイツ語圏では以前、節の数字を小さく書くという表記法も用いられていました。

Röm 41-17

というやり方で、有名な学術雑誌 Zeitschrift für die neutestamentliche Wissenschaft (ZNW) でもずっと使われていた表記法です。また、International Critical Commentary (ICC) の古い巻を見ると、節の数字を上付き数字にした、 Rom 1² のような表記も出て来ます。しかしこれだと、注番号と間違われそうです。

もう一つの問題は、節同士を区切ったり、同じ文書中の別の章・節を並べるときに何を使うかです。これは日本語でも混在しています。たとえば、ローマ書簡3章1節、4節、5章2節、3節、6章4節と並べるときは、

ローマ 3:1, 4; 5:2, 3; 6:4

といった具合に、同じ章の中の節同士を区切る場合はコンマ(,)、別の章に行くときはセミコロン(;)を使うというやり方があり、割によく見かけます。私もこれを多用していますが、この方法は、英語やドイツ語の文献で用いられているものを持ち込んだのでしょう。

しかし、すべてテン(、)を使うという方法も結構用いられています。

ローマ3:1、4、5:2、3、6:4

となるわけですが、この場合は、二つ目の「4」が章なのか節なのか、一瞬迷います(4章全体を指しているととることもできますから)。それを避けるには、「同4」といった表記が必要になるでしょう。

ローマ3:1、同4、5:2、同3、6:4

としてやれば、少し煩雑ですが誤解の余地はなくなります。こちらは「統一」するほどのことはないかもしれませんが、どうするのが一番読みやすいかは思案のしどころです。

半額でも勇気が要る事典

2015年05月01日 23時29分03秒 | Weblog
広島のキリスト教書店「広島聖文舎」が毎月発行している「広島聖文舎便り」にお薦め本の短い紹介文を書いていることは、以前にこのブログでも述べた通りです。

原稿は月末に送信するのですが、油断していると、すぐに締切がやってきます。短い文章なのですが、それでも毎月となると気が抜けません。気がついたら今日が締切、なんてことも。

4月は、学期初めで慌ただしい上、ゴールデンウィークにばかり気を取られていました。気がつけばもう月末。5月号にどの本を紹介するかは、予め心づもりがあったのですが、手違いで本を手に入れるのが間に合わない事態が。

そこで、3月に教文館から出された、『ギリシア語新約聖書釈義事典』全3巻縮刷版を紹介しようと考えたのです。これは、ギリシア語聖書に出てくる単語について、その背景や用例を紹介しつつ解説するという、便利な事典です。この種の調べ物には、いわゆるキッテル(『新約聖書神学辞典』ThWNT)を使うのが常道なのですが、『釈義事典』の方は新しい考察も加わっており、併せて参照することが多いですし、専門的な分析でなければ、『釈義事典』だけで済ますことも可能でしょう。教会での聖書研究準備などには役立つと思います。

ただ問題は値段です。最初にこの事典が翻訳出版された時は、3巻揃いで12万円以上したと記憶しています。昔の牧師さんは勉強家が多かったので、以前ならきっと購入する人も少なくなかったことでしょう(私の父も牧師ですが、まだ若い頃に上記のキッテル、ドイツ語版全9巻を、財布をはたいて買っています。今の12万円では効かない額だったと思うのですが、おかげで私が今どれだけ助かっているか!)。

それが今回、半値の6万8040円(税込み)で販売されています。過去の経緯を考えれば、確かに破格値です。しかしほぼ7万円。これを「お薦め」にできるかどうか……。

ちなみにこの『釈義事典』、原著はドイツ語ですが、ドイツ語版を買えばずっと安くで済みます。



Kohlhammer社のカタログによれば、29.90ユーロ。4000円強といったところでしょうか。英訳版もあり、こちらは Eerdman社のウェブサイトを見ると、3巻合わせて225.50ドル。2万7000円くらいです。(英訳版はもっと安く売っているサイトがあるかもしれません。)



自分は、ドイツ語版を留学時代にベルンの本屋で買いました。その時も5000円くらいだったと記憶しています。日本語版は、研究費をもらう身分になってからようやく、他のほしい本を我慢して手に入れることができました。

翻訳ものが高くなるのはある程度やむを得ないことですし、キリスト教書は発行部数も少ないので、安くで販売するのは至難の業です。ですから、この日本語版を悪く言うつもりは毛頭ありません。日本語訳を出してくれた教文館には感謝したいくらいです。しかし、やはり高価なことも事実でしょう。少なくとも、「広島聖文舎便り」の読者にこれを買うよう勧めるのは躊躇してしまうくらいには。便利な事典です。けれど、7万円出して買うのは勇気が要ります。

さんざん考えた末、5月号には別の本を取り上げることにしました。しかしこの事典も、手に入れたい1冊、いや3冊ではあります。