今回のサウンドデザインの仕事について
こういった文学的だったり芸術性の高い作品には、まず予算がつかず、音楽を書き下ろすことは残念ながらほとんどできません。
それでも予算が少しある時には、著作権使用料は払ってもらえるので、僕の今までに作ってきた作品から番組に合うものを引っ張り出し、編集し、番組に重ねてゆくのですが(最近の一連の日テレBSドキュメンタリー作品)
今回はさらに著作権使用料も難しく、そうなると著作権フリーの楽曲を引っ張ってこなければなりません。
著作権フリーの楽曲には良いものがないので、最近はクラシックのパブリックドメイン楽曲を自分で演奏し、録音し、当ててゆく、という作業をやっています。
今回は監督が、バッハはどうだろう、と言ってきていて、僕も映像を見てバッハの無伴奏は合うなと感じたのですが、無伴奏バイオリン組曲はドラマ仕立てならばよかったのですが、ここまで深遠なる詩的な世界には音が高すぎると感じ、無伴奏チェロ組曲をAyakoに弾いてもらうことにしたのです。
ここまで決まり、次は曲の選定を始めます。
無伴奏チェロ組曲は全6曲あり、その一つ一つが6曲から構成されているのですが、5番は変則チューニングの曲、6番は5弦チェロの為の曲なので最初から省き、残りの24曲を片っ端から聴いて合うものを選んで行きます。(電車や車での移動中とか、延々と聴いていた)
まず6曲を選び、映像を見ながらさらに絞ります。
ある映画監督と話をしていた時に、1本の映画にメロディーは多くて3~4つで良い、あとはそれをいかにアレンジして使うか、という意見を聞き、なるほど、と、僕も共感するところもあり、今回は3曲に決めました。
この時点で大体このシーンにはこの曲を、と決めておきます。
それをAyakoに伝え、レコーディングの日取りを決めるのですが、もともと締め切りまで日がないスケジュールなので、Ayakoの練習に当てられる日は2日ほど・・
無理を承知でお願いしました。
Ayakoにはレコーディング当日も映像は一切見せず、純粋にバッハを弾いてもらいます。
僕が注文したのは、番組の映像テンポに合うよう、今より少しゆっくり弾いてもらいたい、とかぐらい。
あとは本人が納得するまで自由に弾いてもらいます。
(映画音楽などでは映像を流し、それを見ながら指揮者が棒をふり、オーケストラの演奏を映像に合わせ録音して行く方法があり、映画音楽録音の歴史はそういったやり方から始まり、現代でもオーケストラのレコーディングではそういった方法が継承されています。
実際僕も宮崎駿監督のジブリ短編映画の音楽を担当した時には、ホールでピアノトリオ+パーカッションの編成で15分以上の映像を見ながら演奏し録音したりしましたが、楽曲は楽曲で独立していて、それを合わせたときに生まれる想定外のシンクロが、僕は好きなもので絵合わせはしませんでした)
そして、録音された演奏を、計画していた通りに場面に合わせて行きます。
音源はAyakoが弾いた新しい録音ですので、微妙に計画と違うところも出てくるので、それを変更し、辻褄を合わせます。
そして、やはり切り貼りの編集は必要となります。
バッハの無伴奏に詳しい方や、演奏者でないとわからない世界ですが、切り貼りで曲の長さを短くしたり長くしたりし、シーンに合わせて行くのです。
ここの作業はサウンドデザイナーの腕の見せ所ですね。
以前の作品でも、友人のアーティストが「えっ編集してたんですか?」
という反応で、それぐらい自然に作ることができると苦労した甲斐を感じます。
このような作業を経て、この番組の音付けは出来上がりました。
見ていて音楽と舞踏がシンクロしてゆく瞬間など、自分でもぞくっとしますし、監督からも、まるで舞踏の撮影時にAyakoさんの演奏を流して撮影したかのようだった、との言葉をもらい、サウンドデザイナーとしての冥利に尽きる思いでした。