見沢知廉、第三書館、1995年。まずは作者見沢知廉その人について述べるべきでしょう。昭和三十四年生まれですから、政治の季節には遅れてきた青年なわけですが、相当に政治的に早熟だったようです。中学で右翼活動に参加、その後、非行に走りますが、高校でブント派の学生組織員となります。やがてその新左翼に失望、こんどは新右翼に加わり、書記長局長を歴任します。
やがてイギリス大使館への火炎ゲリラや、スパイリンチ殺人で逮捕。懲役十二年。獄中で書かれたこの『天皇ごっこ』で、文学賞を受賞します。出所後、右翼活動をしながら、また文筆家としても名を拡めます。しかしながら長い監獄生活による後遺症、重度の神経症や線維筋痛症など心身にわたる病を抱え、一昨年事故とも自殺とも言われますが、ビルから落ち四十六年の生涯を閉じます。
獄中で書かれ文学賞を得た小説を大幅に加筆したのが、この単行本版『天皇ごっこ』です。第一章は獄中生活を営む主人公たちと昭和天皇崩御に伴う恩赦の物語。最終章は、どさくさに紛れて北朝鮮に渡った三島由起夫の流れを汲む極右と、日本赤軍よど号事件犯極左たちとの邂逅の物語。全体に、戦中戦後現代と歴史を超え、場所を変え、右と左の天皇をめぐっての文字どおり生死を賭けての右往左往が語られます。
あくまで天皇という日輪を中心にいだいて近代化を成し遂げた日本という国の業が語られ、そして執筆当時右のはずの作者は、しかし、右も左も理想郷を瞼にみるロマンチストであることに変わりはないと言っているようにも思います。左右もなにも分からずとも生きていける現代にあって、たしかに天皇打倒も天皇殉死も、ロマンチストの言い草であるのかもしれません。
自分は関係ないや、と笑えますか?、革命を志す翼持つ若者は、ある意味無害ですが、権力を持ったイデオロギーは大変危険です。政治やマスコミは、口当たりのいい甘味料に隠して、右だか左だかのイデオロギーを大衆にこっそり与えようとしています。文章を書く者として、音楽を奏でる者として、言いたいのは、革命より反抗です、カミュに倣って言えば。